高校は、全員が同じところに進むわけがなかった。銀は家族のいる東京に移り、くしくも不動峰中出身の橘と同じ都立高校に入学した。全国大会に進むため四天宝寺中にいた千歳もまた、家族のいる九州に帰っていった。成績が学年トップクラスだった白石と小春は府内でも難関で知られた進学校に推薦が決まったが、謙也はそれなりに懸命に、小春と共にいたいという執念だけでユウジも死ぬほど勉強して一般試験を通過し、四人は同じ高校に入学した。変わらん面子やなぁ、とまたしても入部したテニス部で笑い、そして安堵したのはもう三ヶ月近く前のことだ。
如何に全国ベスト4の四天宝寺中出身とはいえ、運動部は縦社会が厳しい。新入部員として球拾いから始まり、徐々に先輩らを押しのけてコートに立つようになる。やはり最初にレギュラーを勝ち取ったのは白石で、夏の大会では「聖書」と呼ばれるに相応しい完璧なテニスを披露して部の勝利に貢献した。忙しかった。それは言い訳だと分かっている。それでも新しい環境で、一から友人関係なども築かなくてはならない中で、振り返る余裕がなかったのは確かだ。自分のことだけで手一杯になっていた。そんなときだった。





君が好きだった花を添え、今更ですが送ります





四天宝寺中男子テニス部が関西大会を制し、全国への出場を決めたと風の噂で聞いた。謙也たちは正直、後輩たちが府大会で優勝したことさえ知らなかった。あいつらなら大丈夫やろ、なんて都合の良いことを言って、卒業する前はあんなに心配していたのに、いざとなればこの様だ。卒業式の前日、夕焼けの中で財前の放った声が今更ながらに思い起こされる。
『半年後、見とってください。それが俺からあんたらへの卒業祝いや』
―――あのときの言葉を、財前は現実にしようとしている。十五名ほどの少数精鋭の部員を抱えて、四天宝寺が再び全国に名乗りを上げたのだ。





そしてまた夏が来る。
2010年6月5日(title by hazy