悪魔の一張羅
柳生のスポーツ選手としての才覚を認めたら、次に観察すべきはその性格だ。仁王と合うか否か、もしくは利害で割り切れるかどうか。クラスは隣り合っているが、知り合いどころか喋ったことすらないので、手持ちの情報は皆無に等しい。怪しまれないように、そして探っていることが柳生本人に届かぬように、仁王は大人数を相手に広く浅く「柳生比呂士」について収拾をしていった。調査を進めるにつれ、驚くべきことは柳生の名が密やかに有名だったことだ。能力は突出しているくせに、表立って活躍はしていない。それなのにほとんどの生徒に尋ねてみれば、彼らは名前だけでは首を傾げても、クラスと眼鏡や髪の色などの特徴を述べれば、「あぁ、あいつ」と心得たように頷くのだ。この前の中間テストでは、学年三位だった。授業中、教師からの質問に挙手をしないことはない。廊下で重いものを抱えている生徒がいたならば、必ず助けの手を差し伸べる。態度は常に真面目で、制服を着崩すことも校則を破ることもなく、かと思えばクラスで浮いているわけでもなく友人は多いらしい。当然ながら教師からの信頼も厚く、模範的な優等生、それが大多数の柳生に対する評価だった。俺とは正反対じゃのう、とここまで来たら仁王は感心するしかない。人伝に聞く柳生比呂士という人間は、非の打ち所がない完璧な存在のように感じられる。しかし、人間に完璧はない。そう考える仁王にとって、逆に柳生の存在は興味をそそった。化けの皮を剥がしてやりたい。意地悪く、そんなことを思う。
仁王が柳生をターゲットに定めて、三週間が経過した。もちろんその間もテニス部にはちゃんと参加し、練習もこなしている。三強のひとりである柳が時折物言いたげに自分を見ているような気もしたが、仁王は素知らぬ顔で無視していた。ラリーの練習をしているときも、不思議と脳裏には柳生の姿が浮かんだ。あいつは、このボールにどんな反応を示すだろう。賢そうだから逆サイドをついてくるかもしれない。またはロブか? 意外に好戦的だったらスマッシュもありえるが、それを返してやったら一体どんな顔をするだろう。そんなことを考えていれば、退屈なはずの練習も早く終わるように感じた。情報は大分揃った。第三者を挟むのももどかしくなってきた。二学期が終わるまで、約一ヶ月。口説き落としてテニス部に入部させるまで、果てさてそろそろ頃合いか。
明日、柳生比呂士に接触しよう。心地よくサーブが決まったので、仁王は決めた。
立海D1は悪魔だろう。仁王は振る舞いが悪魔で、柳生は本質が悪魔。性質悪い!
2010年7月4日(title by hazy)