05:木またはかみなり
雨が降った。
だから芝生じゃ寝れない。
公園にある小さな東屋の下で、芥川は唇を尖らせた。
「はやく止まないかなー」
そうしたら寝れるのに、と考えている彼の頭の中に、芝が濡れているからどのみち無理だという事実はないらしい。
恨めしそうに降り続ける雨を睨んで、鞄を抱きしめて不貞腐れる。
「こんなどしゃ降りじゃ家にも帰れないし」
つまんない、と呟いて木で出来たベンチに転がった。
無理やりに目をつぶってみるけれど、雨音がうるさすぎて眠ることも出来ない。
つまんないなぁ、ともう一度思ったとき、視界の隅に黄色い何かが映った。
少しだけ目を凝らして見れば、それはまるで小学生が持つような一面黄色をした傘で。
可愛いなぁ、なんて思ったのと同時に、傘の合間から持ち主の顔が見える。
「――――――あ」
見たことある。知ってる。忘れられない。
いつか対戦してみたいと思っていた他校の一年生レギュラーを見つけて、芥川は満面の笑顔になった。
そして大声を張り上げる。
「えち――――――・・・・・・!」
その瞬間、あたり一面を遮るように雷が鳴り響いた。
あまりの音量と地響きに思わず目をつぶって耳を押さえて。
小さく叫んだ声は稲妻の音にかき消されて、芥川自身にも聞こえなかった。
しばらく経ち、ようやく身体の中から響きが消えた頃、おそるおそる目を開ける。
するとそこに黄色はなかった。
「・・・・・・あれ?」
きょとんと目を丸くする。
雷の衝撃に驚いて転んだのかと思えば、少し待っても立ち上がる気配はない。
すでに黄色い傘とその持ち主は、ジローの見える範囲からいなくなっていた。
「あれー?」
首を傾けて不思議がる。
遠くでは神鳴りが響いていた。
2004年5月25日