04:火またはいさかい
「バッカじゃないの?」
ハッキリと言われた言葉は完璧な挑発だった。
亜久津は音を立てて舌打ちし、ポケットに入れたままの両手を取り出す。
「自分より弱いヤツを甚振るなんてサイテーなヤツがすることだね。そんなに自分に自信がないんだ?」
嘲るような笑い方はリョーマの顔立ちによく似合った。
大きな目が楽しそうに細められ、目の前の男たちを形だけ哀れむ。
「このガキ・・・・・っ!」
「黙ってりゃ付け上がりやがって!」
一気に剣呑な雰囲気に変わった場に、リョーマはわざとらしく肩を竦めた。
「バカばっか」
「・・・・・・煽ってんじゃねーよ」
隣に並ぶ亜久津が漏らした一言に、今度は心底楽しそうに笑って。
「いいじゃん。アンタ、ちょうどサンドバッグが欲しかったんでしょ?」
それが始まりのゴングだった。
「弱すぎ」
アスファルトに転がる男のうち一人を爪先でつつきながら、リョーマは言い捨てた。
亜久津はその間に頬についた返り血を乱暴に拭い取る。
気がつけば拳も血に染まっていた。
「おいガキ」
「越前リョーマ。人の名前も覚えらんないの?」
「うるせぇ」
気絶させた男たちのポケットから財布を取り出し、金だけを取って放り出す。
それを人数分繰り返した後で、亜久津は振り向いた。
リョーマはこの薄暗い路地裏で壁に寄りかかることなく立っている。
黒い艶やかな髪と、大きな瞳が猫のように光った。
「心配しなくても、俺に降りかかる火の粉はアンタが全部払ってくれるんでしょ?」
これ以上の自信はないというように笑って。
「だって俺の戦う場所はテニスコートだからね」
2004年5月2日