03:地または誕生





「越前リョーマ」
ポツリと、井上は呟いた。
デスクの上に載っているのは今推敲を重ねている原稿で、その一面に大きくその名前が書かれている。
クルッと手の中でペンを回して、もう一度呟いた。
「越前リョーマ」
「・・・・・・どうしたんですか? 井上先輩」
声をかけられて原稿から顔を上げると、いつの間にか隣には後輩で仕事の助手である芝が立っていた。
「あぁ、写真は出来たのか?」
「もちろん、バッチリです!」
尋ねれば嬉しそうな弾んだ声で返事が返ってくる。
「よく撮れてますよーホラ!」
差し出された一枚を見れば、気の強い睨むような眼差しをしている少年がいて。
二枚目にはボールを追いかける姿。三枚目にはスコアでは負けながらも楽しそうに笑う姿。
何枚もあるそれらには、すべて越前リョーマが写っていた。
手元にあるデータと写真を照らし合わせて、井上は感嘆するように溜息をつく。
「いやはや・・・・・・青学にはすごいルーキーが誕生したな」
調べた限り、今のところ負け無し。破竹の勢いで勝ち進んでいる。
テニスの伝統校である青学の中でも、現レギュラーの先輩陣を倒してその座を掴んだ。
小柄な体格からは想像も出来ないテニスをする少年。
越前リョーマ。
「本当ですよね。可愛いのに強いだなんて最高じゃないですか」
「・・・・・・・・・テニスに容姿は関係ないだろ」
「えーでも」
唇を尖らせて、芝は言う。



「プロになるには、やっぱり容姿も必要だと思うんですよねー」



人気が出るにはですけど、と言って芝は笑った。
井上もそれに同意するように苦笑して、そして思う。



越前リョーマが世界に羽ばたくのはそう先のことではないだろう。
そのときも、自分が記事を書ければいい。
類稀なプロの誕生をセンセーショナルに飾ってやる。



そのときが早く来ればいい。
井上はそう考えながら、今は小さな中学生について書かれている記事にもう一度目を通した。





2004年3月25日