01:水 または 伝言
その日、越前は家の都合で部活を休んでいた。
だから来客があったということを彼は知らない。
頭は教えてやれと言うけれど、心は教えなくていいと言う。
だから、意地悪な僕は教えてあげない。
どちらにって、それは決まっているでしょう?
「そうか、リョーマ君はいないのか」
背の高いその人は言った。
残念そうに頭を掻く姿が、それだけのことなのに余裕を感じさせる。
プレッシャーや高圧的な雰囲気は感じない。
だけど無視することの出来ない強さを放つ。
僕はその光を知っている。
雨の中で対戦したときに感じた。
あの、感覚。
「じゃあ伝えてくれるかな。『徳川が遊びに来た』って」
手塚が几帳面に頷く。
そんなこと伝えなくてもいいのに。
僕だって徳川プロに会えて嬉しくないわけじゃない。
越前と彼がどうして知り合いなのか、気になるところはあるけれど。
でも、それよりも。
「『早く上がっておいで』って、伝えておいて」
僕も手塚も持ち得ない強さ。
いつか越前を攫っていってしまうその力。
悔しいから伝えてなんかやらない。
伝えてなんか、やらない。
2004年3月20日