このお話は「プリンセス・オブ・テニス」と「年齢逆転!」のダブルパンチです。女体化+年齢操作なので、苦手な方はご注意くださいませ。





プリンセス×年齢逆転!





1.東の最強、テニスのお姫様

プリーツスコートの裾がひらりと跳ねる。それでも、それだけだ。無様に揺れることはなく、まるで手遊びのような軽い感覚でそれは舞い、手塚と不二にとどめを刺した。噂には聞いていたし、実際に試合を目にしたこともある。素晴らしいと思ったけれども、それは真実の理解ではなかったのだろうと今になって身に染みる。コートに膝をついてラケットを手放したふたりに、ネットの向こうで少女が笑う。
「まだまだだね」
百五十センチメートルを僅かに超えた、小さな体躯。スコートから伸びる足は細くて、腕だって白く全身は華奢なのに、発されるパワーは太陽よりも眩しく強く、手塚と不二を敗北へと追いやった。越前リョーマ。女子ながらにして青学男子テニス部を二度の全国制覇に導いた、紛れもない「青学の柱」である。大きな瞳を挑戦的に眇めて、彼女は手塚と不二を見下ろす。ラケットを右手から左手に持ち直し、うーん、と首を傾げた。
「でも準備運動にはなったかな。堀尾、うかうかしてるとレギュラー取られるかもよ?」
「うげっ! マジかよ越前!」
顔を歪めているのは三年のレギュラーのひとりである堀尾で、その身長は決して低くなく男子の平均はあるだろう。しかし彼と同じ学年であるリョーマは、とても小柄だ。今年入学したばかりの手塚や不二よりもその背は低く、小学生だと言っても通ってしまうかもしれない幼さを持っている。だから油断をした、そんなわけはない。だって強いのだと分かっていた。東の越前と呼ばれ、中学テニス界では最強とされるふたりのうちのひとり。試合を観たことがある。だから強いのなんて知っていたのに。それなのに慢心したと思ってしまうのは、容姿が理由なのだとしたら、それこそ彼女に対して失礼だ。リョーマは強い。彼女は紛れもなく最強である。敗北をもってして、手塚と不二はその事実を身体で学んだ。
「せいぜい俺を楽しませてよね」
赤い唇を吊り上げて笑う様は、まさに「テニスのお姫様」だ。我儘で、高慢で、それでも実力があるからすべてが魅力的で堪らない。越前部長。手塚の呟きに、青学の柱は酷く鮮やかに笑い返した。

(小さくて可愛くて、それでも鮮やかに最強な「テニスのお姫様」こと青学の部長・越前リョーマ嬢。)



2.四天宝寺の副部長

「ざ、ざざざざざざ財前副部長はっ、部長と付き合うとるんですか!?」
じゃんけんで負けた結果、質問役を押し付けられた謙也の顔は真っ赤だ。それもそのはず、彼の目の前に立っているは四天宝寺中男子テニス部の紅一点、副部長である財前光なのだ。肩を掠める黒髪に、長い睫毛とクールな顔立ち。気だるげな表情と両耳を彩る五色のピアスがアンバランスな、「派手でスタイリッシュだけどちょっと怖そうな女の先輩」は、テニス部だけでなく後輩男子生徒の憧れの的だ。だからこそ部長の遠山との関係が気になって突撃してみれば、問われた財前はしばしの間の後でにこっと笑った。いつもの毒舌気味の彼女からは想像できない、柔らかな笑顔である。思わず見とれてしまった謙也の頭に、たおやかな掌が伸びてきた。
「・・・そないな阿呆なこと考えとんのはこの頭か? あぁ?」
「ひいっ! あたっ、あたたたたたたっ! ひ、光さんほんま痛い! すんません俺が悪かったです! すんませんほんますんません!」
「聞こえへんなぁ。んー?」
「光先輩、堪忍して! 謙也君が死んでまうわ!」
「いい気味やけどあかん! いい気味やけど!」
「こないな阿呆は死んだ方が世のためや。ちゃうな、四天宝寺のためや」
「・・・すまん。謙也、諦めてくれ」
「白石の薄情者ー!」
アイアンクローを食らって悲鳴を挙げる謙也に、後方で見守っていた小春やユウジなど他の一年生組がわらわらと駆け寄ってくる。ひとしきり痛めつけて満足したのか、財前が手を離すと謙也は床に崩れた。大袈裟やな、と肩を竦める彼女に意見をできる後輩はいない。部誌をテーブルに置き、パイプ椅子に腰かけて財前が足を組むと、自然と全員の視線がそちらへと吸い寄せられる。毎日部活で拝んではいるが、やはり財前の足は素晴らしい美脚だ。男子生徒の中では「四天宝寺の宝や!」とまで言われているらしく、白くて適度に細くて、それでもきちんと張りが合って何とも表現しがたい魅惑の曲線を描いている。
「先輩を見下ろすとはええ度胸やな」
目尻を眇めた財前に、慌てて白石が膝を折った。小春もユウジも銀も正座し、謙也もどうにか痛みを堪えて座り直す。もしも端からこの光景を見ている者がいたのなら、間違いなくこう語っただろう。女王様と下僕たちの図であった、と。はぁ、と財前がうんざりした溜息を吐き出した。
「大体何や、さっきの質問。俺と部長が付き合うとる? ボケも休み休み言うてほしいわ」
「せ、せやけど先輩ら、ほんまに仲ええし! 時々名前で呼び合うとるやん!」
「幼馴染やしな。昔から家族ぐるみの付き合いしとるし、かなり今更やろ」
「幼馴染! 鉄板やね、素敵!」
「俺も小春と幼馴染に生まれたかったわ・・・!」
「財前副部長、部長の前やと表情がちゃうし、あれは特別なんやないんですか?」
「何でそれが恋愛とイコールで繋がるんか、ほんま分からんわ。言うとくけどな、俺にとって金太郎はもう身内みたいなもんや。あいつを勝たせるのが俺の役目でもある。分からんのやったら分からんでええ。せやけど次余計なこと言うたらしばくで。ほんま大迷惑や」
うっとうしい、面倒くさい、とにかく黙れや納得しろ。そんな表情を貼り付けて告げる財前に、謙也と白石はうっと言葉に詰まってしまう。小春は「光先輩のいけず!」なんて身をくねらせているけれども、喜んでいるのはユウジだけや。すんませんでした、と皆を代表して銀が謝罪を口にする。しかし、話が終わったならさっさと帰るんやな、と財前が広げた部誌も、本来ならば金太郎が記入すべきものだ。たこ焼きたこ焼き、と足取り軽く部活が終わるなり台風のように去ってしまった部長の代わりに、財前はいくつもの仕事をこなしている。遠山はそれが当然のような顔をしているし、財前自身も苦ではないといった様子で受け止めている。だから特別に見えてしまうのだ。むむむ、と眉を顰めて謙也は椅子に座る財前を睨み上げる。まだ何か用なん、と向けられた眼差しに、彼は勢いよく噛み付いた。
「せやったら! 光さんは、どないな男が好みなん!?」
きゃあ、と歓声を挙げたのは小春で、はっと息を呑んだのは白石だ。ぱちりと財前の黒曜石の瞳が瞬かれ、そして意地悪く唇が弧を描く。この後輩をどうしてやろうかという、まさにそれは年上の女の顔だった。
「そうやなぁ・・・」
勿体ぶって言葉を選ぶ財前を、一年生たちは注視する。その頬がうっすらと赤く染まり、胸が破裂しそうに高鳴っていることなど、ひとつ年上の先輩は容易くお見通しなのだった。

(後輩には女王様だけど、部長の金ちゃんに対しては健気に耐え忍ぶ女、四天の副部長・財前光嬢。)





2011年2月27日