for you(立海編)





柳生が女子テニス部の部室で着替えを終えてくるまでが、立海男子テニス部レギュラーの作戦タイムである。
「それで、みんな柳生への誕生日プレゼントは用意した? 当日は家族で祝うらしいから、サプライズパーティーは明日の部活後だよ」
「うむ。俺はハンカチを用意した。母と義姉に聞いたところ、やはり日常使いの出来るものがいいだろうとアドバイスを貰ってな」
「真田のくせに無難で卒のなさすぎるチョイスだろぃ」
「母親と義理の姉が選んだのなら、質が良く流行のものである確率八十三パーセントだ」
「侮れないっすね、真田副部長・・・!」
おおう、と感心したどよめきが室内に響く。失礼な話だが、当の真田は理解しているのかいないのか、特に反論する様子はない。
「俺は菓子の詰め合わせを用意するぜ。もちろん俺の手作りで」
「あ、いいっすね! 俺にもくださいよ!」
「誰がやるか。柳生専用だっつーの」
こちらは丸井にしか出来ない芸当で勝負を賭けてくるらしい。パティシエの舌が肥えているため、菓子が絶品になることは間違いなしだ。
「俺は迷ったんだけど、ブックカバーと栞にしたぜ。柳生は結構本を読むから」
「ん、それなら問題ないじゃろ。ちょうど新しいのが欲しいっちゅーとったからのう」
「柳生は図書館で借りた本にもカバーをかけて読むからな。いい選択だ」
そりゃ良かった、とジャッカルが肩を撫で下ろす。こちらはこちらで無難なチョイスだが、本を読むことの多い柳生ならではの日常品になるだろう。
「俺は万年筆だ。柳生はシャープペンやボールペンよりも万年筆を使うことが多いからな」
「げ。万年筆って結構高いんじゃねぇの?」
「それは聞かないのがエチケットだろう」
「流石っす、柳先輩・・・!」
まさか名前入りじゃ、という突っ込みにも柳は静かに笑うだけだ。流石参謀、とそこかしこで喝采やら恐ろしいやらの非常に素直な感想が漏れる。
「俺はシュシュとか髪ゴムとかにしたっす。姉ちゃんに一緒に選んでもらったから自信あるっすよ!」
「赤也、ちゃんと校則違反じゃないものを選んだだろうな?」
「柳生なら清楚に白のレースリボンがいいと思うな。ハイビスカスとかけばけばしいものじゃなければ、何だって似合うだろうけど」
ピースを繰り出した赤也に、なるほど、とコメントが寄せられる。真田の質問に「たぶん大丈夫っす」と答えたのは、おそらくどこからが校則違反か分からなかったためだろう。
「ちなみに俺は、一日柳生の騎士になろうかと思って。朝は自宅に迎えに行くし、登下校時は荷物も持つし、休み時間は何かしてほしいことがないかお伺いに行って、昼はもちろん学食で御馳走するよ。放課後は自宅まで送り届けて、何不自由ないプリンセスな一日をプレゼント。至れり尽くせり、幸村精市の一日ご奉仕券なんてどう?」
「すげぇ・・・!」
「さすがだぜ、幸村君・・・」
「やめておけ、精市。女子の嫉妬の矛先が柳生に向かうぞ」
「そうなんだよね。だから無難に、薔薇のブリザーブドフラワーを贈るよ。ちなみに花言葉は赤が『あなたを愛します』、白が『心からの尊敬』、ピンクが『美しい少女』、黄色が『友情』、そして青が『神の祝福』」
カルチャースクールで習った、俺の手作りだよ。微笑む幸村に薔薇をプラスしてみれば、それだけで完璧な美を想像させられるのはどうしてだろうか。マジですげぇよ、という呟きは、もはや人智を超えた存在に対してだ。
「それで、肝心のダブルスパートナーさんは何を贈るつもりなのかな?」
その一言で、視線は仁王へと集約される。締めたネクタイを緩めていた仁王は、「んー」と首を傾けてみせた。
「まだ買っとらん」
「え! まだなんすか、仁王先輩!?」
「パーティーは明日だぜ? 今日にでもさっさと買っとけよな」
「何も用意せずに柳生を悲しませるなどたるんどる!」
「落ち着けって、真田。仁王も何を買えばいいのか悩んでるのかもしれねぇし」
「どうだろうな。仁王がすでにプレゼントを決めている確率は」
「ふふ、まぁ仁王が何を買おうが構わないけどね。とにかく明日は、我らが姫君の誕生日だ。みんな、全力で準備するように」
「「「「「「イエッサー!」」」」」」
こうして柳生の誕生日へと向かい、着々と準備は進められていくのであった。





ハッピーバースデー! 我らがプリンセス!
2010年10月25日