for you(青学編)





「不二先輩。いろんな入浴剤を売ってるお店、知りません?」
部活後、リョーマに話しかけられて不二は笑顔で振り向いた。首を下に向けたところにちょこんと立っている、可愛らしいルーキー。レギュラージャージではなく制服を着こんでいるから、殊更に女の子らしさが増している。短いスカートからは形の良い膝小僧が覗いており、可愛いなぁ、と不二はいつも思うのだ。
「入浴剤? 温泉の素みたいな?」
「どっちかっていうとバスソルトとか、ちょっとおしゃれなやつがいいんですけど」
「誰かへのプレゼント用?」
「そうっす。立海の柳生さんがもうすぐ誕生日なんで」
立海の柳生。ぽんっと不二の脳裏に浮かんだのは、芥子色のジャージを身にまとい、ポニーテールに眼鏡をかけた穏やかに微笑む少女の姿だ。うん、と不二は頷く。女子プレイヤーとして交流を持っていることは知っていたが、柳生はふたつ年上ということもあって、リョーマに実の姉のように接してくれているらしい。いつもありがとう、とここにはいない柳生に対して、後輩を猫可愛がりしている不二は心から礼を述べる。
「入浴剤のお店だね、知ってるよ。ここから電車で三つ先の駅のデパートに専門店があるんだ。一緒に行こうか」
「いいんすか? お願いします」
いそいそとリョーマはラケットバッグを背負う。小柄な身体にそれはとても大きく感じられ、不二はいつも「持つよ」と言うのだけれど、リョーマに断られていた。これくらい自分で持てるっす、と不貞腐れて尖る唇すら可愛いと感じられるほど、不二はリョーマにメロメロなのである。
「部長も一緒に行きましょ。今日、暇っすよね?」
ひとり残って部誌を書いていた手塚にも、リョーマは話を振る。顔を上げた相手に「行きますよね?」と首を傾げれば、手塚とて頷かざるを得ない。書き込むスピードが速くなったペンを確認し、手塚もやっぱり越前に甘いよね、と不二は苦笑するのだ。いつもは「おまえは越前に甘すぎる」と言われてばかりの不二だが、こんなに可愛らしい後輩を愛でないことなんて出来ないよ、と逆に開き直っていたりする。それに厳しくするのは僕の役目じゃないしね、と返せば、部長であり導く存在でもある手塚が、眉間に皺を深く刻んだのも記憶に新しい。部誌が完成するまでの間、不二とリョーマは並んでベンチに座り、柳生へのプレゼントについて話し合う。
「本当はアロマとかがいいかなって思ったんすけど、あれって結構高いんすね。俺の小遣いだと三千円が限界だから、じゃあ俺が貰って嬉しい入浴剤にしようかなって」
「今はいろんなのがあるからね。泡風呂とか、中からおもちゃが出てくるのとか。肌の弱いひとは難しいかもしれないけど、大丈夫かな?」
「一応聞いてみたら、大丈夫って言ってました。昨日もネットで見てみたんすけど、ケーキタオルとか可愛いっすよね。本物は家で食べるだろうけど、タオルならとっておけるし」
「ああ、タオルで作ったケーキだね。うん、いいんじゃないかな。越前もほしければ一個買ってあげるよ」
「いいんすか?」
「不二、甘やかすんじゃない」
「いいじゃない、手塚。五百円くらいのものだし、それで越前が喜んでくれるなら安いものだよ」
やはり眉間に皺を刻んで手塚が口出しをしてくるけれども、不二はにこにこと笑ってそれを交わした。くるりとリョーマが振り返り、大きな瞳で手塚を見やる。
「それと、手塚部長も十月七日が誕生日っすよね? 今日、一緒にプレゼント買いましょう」
「いや、俺は・・・」
「遠慮しなくても俺の誕生日のときは思いっきりおねだりするんで、気にしないでください」
ちなみに俺の誕生日はクリスマスイブっす、とリョーマは悪戯に唇を吊り上げてみせるが、彼女の誕生日がいつかなんて不二も手塚も四月から知っていた。この可愛らしい後輩の喜ぶ顔が見たいのは、結局のところ甘やかし放題の不二や一生懸命厳しく接しようとしている手塚だけではなく、青学男子テニス部の総意なのだから。への字に唇を曲げた手塚に不二は笑った。
「じゃあ今年はクリスマスパーティーじゃなくて、越前の誕生会だね。いいよね、手塚?」
「・・・部活が終わってからならいいだろう」
「じゃあプレゼントってことで試合してください。手塚部長も、不二先輩も!」
ここぞとばかりに瞳を輝かせるリョーマに、今度は不二だけでなく手塚もかすかに微笑んだ。まだまだ小さくて、それでも未知の可能性を秘めているこの一年生が、本当に可愛くて仕方がないのだ。参ったなぁ、と不二は困って頬を掻いた。このままだと愛しすぎて、どうにかなってしまいそうだ。





メロメロ青学。手塚部長、お誕生日おめでとう!
2010年10月25日