男の喧嘩10題(02:口喧嘩)





その日の1年2組は朝から漂う雰囲気が違った。
カツカツと音を立ててチョークを走らせ、教師が壇上で振り返る。
「今日からこのクラスに入る、ケビン・スミス君です。アメリカからの留学生で日本語はまだ不得手だけど、みんなで教えてあげましょう。代わりにみんなは英語を教えてもらおうね」
はーい、と良い子の返事がちらほらと上がる。
目線で促されて、教壇の隣に立っていたケビンは笑顔を浮かべた。
「Nice to meet you. My name is Kevin Smith. ・・・・・・はじめまして、ボクのナマエは、ケビン・スミスです。どうぞ、ヨロシクおねがいします」
滑らかな英語と、たどたどしい日本語。
金髪に碧眼の整っている顔立ちで微笑まれ、女子生徒からは歓声も上がる。
「席は越前君の隣ね。越前君は帰国子女だし、スミス君が困ったことがあったら助けてあげてね」
名指しで指名され、窓際の一番後ろの席に座っていたリョーマは面倒くさそうに片手を挙げた。
ケビンとリョーマの視線が交差する。
にやり、と不敵な笑みを浮かべたのは果たしてどちらだったのか。



「Didn't you return to the United States yesterday? Why are you still needed here?」
授業中に小さな声で会話をしていても、内容の解説と思われているのか、教師は注意してこない。
クラスメイトからちらほらと向けられる視線を無視しつつ、適当に板書しながらリョーマは喋る。
久しぶりに話す英語は、長い間アメリカにいた自分にとって、やはり日本語よりも話しやすい。
「I remained in Japan, in order to play tennis with you.」
「Aren't you foolish? It was decided by me and you as my being strong.」
「Therefore. I decided to win you.」
「Then, you cannot return to the United States throughout life.」
「It is also among now that such a thing is said. You are beaten thoroughly and the ground right-hand of the stage is carried out.」
「Do, if you can do.」
にやり、とまたしても笑う。

二人を会話をちゃんと理解できる者がこの場にいたのなら、おそらく手に汗を握っただろう。
素知らぬ顔で授業を聞きながら会話を交わす。
それがこれから何度も行われるケビンとリョーマの、初めての口喧嘩だった。





【会話訳】
「あんたアメリカに帰ったんじゃなかったの? 何でまだここにいるわけ?」
「俺はおまえとテニスをするために日本に残ったんだよ」
「バカじゃないの? 俺とアンタだったら俺の方が強いに決まってるじゃん」
「だからだ。俺はおまえに勝つって決めた」
「じゃあアンタ、もう一生アメリカには帰れないね」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだぜ。ぼろぼろに負かせて土下座させてやるよ」
「やれるもんならやってみなよ」


2004年12月14日