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9.ユーシとガクトとお見送り





前回の氷帝戦ではなかったが、今回の六角戦ではキャストによるお見送りが復活している。公演が終わって場内が明るくなると、少ししてキャストの放送が始まるのだ。お見送り担当によるそれは、今回は宍戸と鳳の掛け合いだった。バレンタインデーが誕生日である鳳のために、宍戸がチョコレートを溶かして調理を始める。そこに鳳の好物であるシシャモと、宍戸の好きなミントガムを加えて、出来上がったものをプレゼントしているのだ。聞こえてくるのは声だけだというのに、ユーシは「ありがとうございます!」と言ってゲテモノを食する鳳の心意気に胸が切なくなってしまった。その後倒れてしまった鳳が復活するまで、皆さんは客席でお待ちください。そんなアナウンスにいくらでも待つで、と答えてしまったくらいである。
「バネ! バネ格好良かったな! 男臭くてさ、そこがいいっつーの?」
「六角ベンチは可愛えなぁ。佐伯がダビデのジャージをきちんと畳んであげとったやろ? いいお兄さんっちゅう感じやったわ」
「青学も回を増すごとに上手くなってきてますよね。いいんじゃないんですか」
「『鏡の中の俺』でさ、ジェントルとのころでみんなが執事みたいなポーズでお辞儀するじゃん? 跡部のあれ、俺ちょっとときめいた。やべーこれがギャップ萌えってやつ?」
「俺は逆に下剋上が成功したと思いましたけどね」
「いやいや日吉かて頭下げてたやん。後半開始の滝のトークも冴えわたっとったな」
「でもやっぱりアレだよなー。跡部の入浴シーン」
「ぶはっ!」
「いきなり噴き出さないでくださいよ、忍足さん」
「せやかて、あれ、あれはあかんやろ・・・っ!」
ユーシが腹を抱えて笑いを堪えている間に、係員の男性が現れて「こちら側の方、どうぞ廊下へ!」と案内を始める。ガクトにせっつかれながら廊下に出れば、そこにはお見送りを受けるために長蛇の列が出来ていた。しかし握手などは出来ず通り過ぎるだけなので流れは速い。
「宍戸とちょたはいるとして、青学と六角は誰だろうな?」
「俺じゃなければ誰でもいいです」
「何で? 日吉格好いいじゃん」
「向日さん、あんたちょっと黙っててください」
ガクトが無意識なのか意識的になのか、周囲に日岳ファンを増やしている間にも、お見送りは近づいてきている。ちょこっと首を伸ばせば、青学からは河村が、六角からは葵が来ていた。きゃっきゃと女性たちが彼らの前を手を振ったり「お疲れ様でした!」と声をかけたりして通り過ぎていく。少しでも立ち止まろうものなら係員が先を促すのだから、まさに流しソーメンの要領だ。そうしてユーシたちの番がやってきたのだが。
「ありがとさーんかく!」
ガクトがやった。やってのけた。今回のミュージカルの中で葵が海堂に向けてやっていた、心臓の前で両手で三角を作り、にこっと微笑んでお礼を言うパフォーマンスを、ガクトがウィンク付きで再現したのである。その破壊力や言わずもがな。役どころはともかく、キャストは容姿が良いのだから異性にもてるだろうに、葵は顔を真っ赤にして固まってしまった。その隣の宍戸も余波を食らって硬直している。そんな彼らに向かって、ガクトはピースを突き出した。
「テニミュ最高! お疲れ!」
「お疲れ様でした」
「お疲れさん」
日吉が一礼して、ユーシも手を振って前を通過する。我に返ったように「ありがとうございます!」と手を振って見送られ、三人は会場を出た。ちなみにそこには「アンケート回収箱」というプレートを下げた女性が立っており、日吉は彼女に近づいて回答済みの用紙を手渡している。
「何や、おまえ何時の間に書いたん?」
「休憩時間です。どうせ今後も観に来る羽目になるんだったら、改善できるところは少しでも改善してもらった方がいいじゃないですか」
「なぁ腹減った。何か食ってこうぜ!」
「せやなぁ。何か甘いもん食いたい気分やわ」
「っつーか俺相変わらず格好良かった! 『REMEMBER』とかさー!」
「向日さん歌わないでください踊るな馬鹿野郎。ここがどこだと思ってるんですか」
「シティホールの目の前だけど?」
「向日さんがここでテニミュを踊ったら、人の輪が出来て夜公演の前に夕方公演が始まります」
「やべ、タダじゃ踊れねー」
「ちゃうから。チケット代取ってもあかんから。ほらほらガクト、はよ何か食べに行こうな?」
岳人が躍ってくれるのかもドキドキ、といった期待満点の周囲の視線を振り払うかのように、ユーシはガクトの背中を押して歩き出す。ちっ、という舌打ちが聞こえた気がするが気のせいだと思いたい。ユーシとてまだ中学三年生。女性に夢を見ていたい年頃なのである。身内以外で最も身近な異性であるガクトの姉が、何かもういろんな意味でグレーゾーンな人だとしてもだ。
「バイキング食おうぜー!」
「せやな。ラクーアに店があったはずやし」
「その後で無印良品にも付き合ってください」
そんなこんなでテニミュ熱の冷めきらない東京ドームシティホール前から、アトラクションズゾーンを通り抜けてラクーアのエリアへと向かって歩き出す。十八時からの夜公演までの間、時間を潰す人も多いのだろう。時折ちらちらと向けられる視線をさりげなく避けつつ、ユーシと日吉はガクトを真ん中にして歩き出す。氷帝信号機トリオのデートとかマジ美味いです。そんな声なんて聞こえない。
「あ、俺ジャンプショップにも行きたい」
「死亡フラグです、向日さん」
とりあえずこんな感じで、ユーシのテニミュ六角戦は無事に幕を下ろしたのだった。





以上、テニミュ2nd六角戦のレポートでした。お付き合いくださりありがとうございました!
2012年2月15日