3.ユーシとガクトと春の大運動会





開場までの僅かな時間、物販のためだろう、早く入りたい客たちは係員の誘導に従って入り口から綺麗な列を作り出す。その中にちょこんと紛れ込んで、いや、三人の容姿のために全然紛れ込むことなんて出来ていなかったが、とりあえず前後にエアポケットを作り出しながらも列に並んでいたユーシは、ホールのガラスに貼られているポスターを見やって首を傾げた。
「なぁ、今回は六角戦なんやろ?」
「ああ、そうだぜ」
「せやのに、何で六角戦のポスターがこんなに小さいんや? それに何なん、この『春の大運動会』って。テニプリにこないなエピソードなんかあったか?」
「忍足さん、知らない方が幸せなこともありますよ」
「でもどうせチケット取れたら観に行くんだろ? だったら教えておいた方が良くね?」
「そうですね。忍足さん、知って備えるのと知らないで期日を迎えるの、どちらがいいですか」
「えらい嫌な二択やな・・・」
前からも後ろからも横からも周囲の女性たちからの黄色い声と熱視線を向けられるので、ユーシにはもはやガラス張りのホールを見ていることしか出来ない。え、ちょっとあれって岳人? 岳人じゃん! やだ可愛い可愛すぎる! 信号機トリオでデートとか超幸せなんだけど! あのがっくんって女の子? いや、男だよね? 男だって信じてる! 男でいいじゃん男だよもう! そんな囁き声すら聞こえてきており、願望にしろガクトの性別を言い当てているところにユーシは感心した。しかし遠い目になる。キャラクターそっくりの自分がこういったテニプリ系のイベントに登場するのは自殺行為だと分かっているのに、果たしてこれで何度目か。断れない自分と、何だかんだ言いつつ引き寄せられてしまうテニプリの魅力に、ユーシはちょっとばかし落ち込んでいたりした。しかしガクトは慣れ切っているのか、ちょこんとユーシの脇から顔を出してポスターを見やる。
「佐伯、格好いいよなー」
どこかからサエ岳、という声が聞こえた気がした。
「『大運動会』は、五月に有明コロシアムで行われるイベントですよ。六角戦までの登場校の選手を紅白に分けて運動会をするそうです」
「え? 有明コロシアムってテニプリの聖地ちゃうの? 全国大会が行われたの、あそこって設定やろ?」
「そうだっけ? 別にいいんじゃね。あそこってビッグサイトの近くだし、姉ちゃんと同じ人種なら迷わずに来れるだろ」
「跡部部長と手塚さんを別のチームにするところにあざとさを感じますね」
「一緒にしたら対抗戦になんないだろ。立海の幸村がいれば話はまた違ったかもしれねーけど」
「俺とがっくんは白組なんやな。日吉は紅組か」
「ぼろぼろに負かしてやるよ!」
「こっちの台詞ですよ、向日さん。下剋上だ」
ぎゃああ日吉の生下剋上! 周囲のそんな悲鳴を聞いている間に、時計は十二時を迎えたのは会場の入り口が開く。東京ドームシティアトラクションズに向かう親子連れや、ラクーアに向かうカップルなどが、シティホールの前に行列を作る若い女性たちの集団を不思議そうに見やっては通り過ぎていく。チケット売り場のところにある電光掲示板を見て「テニスの王子様だって」という声は聞こえなかったことにしたい。係員のお姉さんにぎょっとした顔で見られながら、ユーシはチケットをもぎってもらった。





ゆっきーがいるなら、手塚と跡部はセットでゆっきーとは別の組という選択肢も普通だと思う。ゆっきーとリョマさんが同じ組でいいよ!
2012年2月15日