2.ユーシとガクトとTSC





テニミュ六角戦東京凱旋は、二月九日から十二日の四日間にわたって開催される。前二日は夜公演のみ、後半二日は昼と夜の二公演があり、計六公演行われる。最後の最後、大千秋楽は各地の映画館で生中継のライブビューイングまで行われるのだ。テニミュの人気恐るべし、である。
そんな中でユーシとガクトと日吉が観に行くのは、十一日の昼公演だ。会場は十二時、開演は十三時。集合が十一時半なのは、おそらく日吉の言う「物販」のためだろう。過去に何度か付き合わされた経験上、ユーシもそのくらいなら分かるようになっていた。とはいってもまだまだガクトや日吉のレベルには程遠い。
「っちゅーか、ガクト。何で今日はそんなに可愛え格好しとるん?」
JR水道橋駅の東口、所謂東京ドームシティ側の改札を出たところでユーシが見つけたのは、親友と後輩の姿ではなく、後輩とその彼女みたいな可愛い女の子の姿だった。しかし近づいてみれば分かる、その赤い髪の毛は紛れもないガクトのものである。ぎりぎりスカートではないものの、ファー付きのポンチョにベロアのパンツ、ちょっとヒールのあるボアのパンプスなんて履いたガクトは低身長も相俟ってもはや完全に女の子にしか見えない。髪にも何だかキラキラとしたバレッタが着いているし、これはどこからどう見ても男ではない。少女だ。しかも美少女の類である。道理で日吉が苦虫を噛み潰したような顔をしているわけだとユーシは納得する。
「姉ちゃんにサポーターズクラブ特典のポストカードを貰って来いって言われたんだよ。あれってクラブのカードと身分証明書を見せるから、姉ちゃんの保険証なのに男の俺だと可笑しいじゃん。だからこんな格好にさせられた」
「さよか・・・。似合うとるで」
「嬉しくねーし! くそくそユーシめ!」
「早く行きましょう。めんどくさい」
日吉がさっさと歩き始めたため、ガクトがその背中に思い切りハンドバッグを叩きつけた。どうやら今日は鞄まで女の子仕様らしい。冬コミでガクトに女体化向日岳人のコスプレをさせたくらいの姉だ。きっと嬉々としてガクトを飾り付けたんやろうなぁ、とユーシは思わず遠い目になる。
余談だが、ガクトは姉の身代わりをしようとも髪の長さなどが違うので、どう見たって「向日岳人の女装」である。そこに忍足侑士にそっくりなユーシと、日吉若にそっくりな日吉がくっついているのだ。リアル氷帝信号機トリオの登場に、その日の東京ドームシティホール周辺が混沌に陥ったのは言うまでもない。





TSC=テニミュサポーターズクラブ。テニミュのオフィシャル・ファンクラブのこと。
2012年2月15日