2.ユーシとガクトとVS不動峰DVD
ゴールデンウィークとはいえ、今年は間に平日を二日挟んでいる。社会人は長期休みのある学生を羨ましいと言うが、学生からしてみれば休みたいときに休みが取れるなら社会人こそ羨ましいと声を大にして言いたいとユーシは思う。今回だって三連休だと喜ぶのも束の間、一日学校に行かなくてはならないし、更に三連休だと思ったらまたしても一日学校があって、そして土日休みだなんて中途半端にも程がある。旅行に出かけるには三日間だと慌ただしいし、かといって近所の外出で済ますのは何となくもったいない気がする。結局のところ最初の三連休は家でごろごろ寝そべりながら借りてきた恋愛映画を見倒すという体たらくで過し、五月二日、ユーシは寝ぼけ眼を擦りながら学校へと登校していた。そうしてぽんっとガクトから渡されたのは、ロフトの黄色いビニール袋だった。軽さと形から鑑みて、どうやらDVDらしい。
「18禁?」
「朝からそんな濃い会話なんかしたくねーし」
「や、冗談やけど。これ何? 俺、ガクトに何や貸してたか?」
「違うって。それ、セカンドシーズンの青学VS不動峰のDVD。姉ちゃんから借りてきた。曲とかちょっと変わってるから、ユーシも雰囲気知っといた方がいいかと思って」
せかんどしーずんのせいがくばーさすふどうみねのでぃーぶいでぃー。何やそれどこのロープレの呪文。攻撃呪文か、あるいは回復呪文か。間違っても移動呪文ではないと思いたいが、口にしたが最後、自分が公演会場に移動していそうでユーシは反射的に口を噤んだ。そっと袋に指を入れて覗き込んでみれば、そこにいるのは手塚とリョーマ、そして橘と伊武。どちらもイラストと実写の二パターンが印刷されており、ああテニミュやなぁ、とユーシは遠い目をしてしまった。ひょい、とガクトも机の向かいから覗き込んでくる。
「前の『F・G・K・S』みたいなトリの曲が、セカンドだと『Jumping up! High touch!』な? 俺、ハイタッチのタイミングがいまいち掴めなかったけど」
「あー・・・ガクト、これ見なあかん?」
「別に見なくてもいいけど、俺も日吉も財前も身内の付き合いで見てるから、ユーシだけ会話に着いてこれなくても構わないならいいぜ?」
「すんません予習しときます」
俺が悪うございました、とユーシが頭を下げれば、良し、とガクトが笑う。明日からの三日間で、このDVDを観なくてはいけないのだろう。昨日までの三日間で見た恋愛映画に比べれば一本なんて量にもならないが、如何せん中身が中身だ。しかしこれは青学VS不動峰の話なので、自分とそっくりの忍足侑士が存在する氷帝は欠片も出てこない、はず。ならば心的ダメージは少なくて済むだろう。大丈夫大丈夫、俺いける俺いける。頑張るんや、俺。
「何だったら一緒に見てやるけど」
「お願いします!」
親友の掌を握り締めて、ユーシは思わず食いついた。手の中にあるのは相変わらずテニミュのDVDだったけれども、とりあえずひとりで凹むのは避けられそうだ。じゃあ菓子持って明日うちに集合な、と快諾するガクトと共に、ユーシの二回目の三連休は過ぎようとしていた。
VS不動峰ですか見ましたよ見ましたけど見せられましたけどそれが何ですか何なんですか別に俺が見たくて見たわけじゃありませんけど一日中家でかかってれば見ないわけにはいかないのが普通だと思うんですけど何か文句あるんですかあるんだったらうちの母親に以下略(日吉談)
2011年5月15日