11.ユーシとガクトと血栓





帰ってきたガクトの姉のスペースは、物凄いことになっていた。買い手が列を作って通路を堰き止めてしまう現象を「血栓」と呼ぶらしいが、もはやそれに近い状態になっている。当然ながら姉ひとりでは売り捌くのも間に合わず、周囲のサークルの手の空いている女性たちが協力して手伝っているようだった。
「・・・俺らが今帰ったら逆に危なくね?」
「・・・せやな。何で帰ってきたってコミケのスタッフさんに怒鳴られそうや。売り子初めてやし、逆に迷惑かけてしまうやろうしなぁ」
「姉ちゃん嬉しそうだし楽しそうだし、どうにかなってるっぽいからいっか」
「荷物がちょお重いけど、しゃーないな」
キログラム単位で本が入っているラケットバッグは、明らかに重心が下に傾いている。しかしあの列をなしている買い手さんたちは、ガクトの姉の本を買おうとしているあたり間違いなく忍岳ラバーだ。そんな中へ現れる忍足コス中のユーシと、向日コス中のガクト。ぶるり、想像しただけで全身が震え、ユーシは一歩ガクトの姉のスペースから後ずさった。この会場にいる人間は男女問わずすべてハンターだ。ユーシはすでにそう認識している。
「そんじゃ、東も端から回ってくか」
「リストってガクト持っとるやろ? 1から3ホールは行くん?」
「芸能と東方は姉ちゃんは特にないって。時間があれば回ってこいって言ってたけど」
「せやったら東6から回るか? ワンピースとREBORNはぎょうさん買うもんあったやろ?」
「壁サークル多すぎ。ホケガミとか黒子とかトリコとか、姉ちゃん本当に何でこんなに金あるんだろ?」
「バイトとかしてへんの?」
「してない。姉ちゃんこえー」
「執念って恐ろしいんやなぁ・・・」
感心したり呆れたり謎に思ったりしながらも、ふたりはひっそりと背を向けて歩き始めた。ありがとうございまぁす、とガクトの姉の声が聞こえたけれども、あのテンションなら大丈夫だろう。そういえば報酬は売り上げの一割っちゅーてたけど、いくらになるんかなぁ、とユーシは今更ながらに少しだけ期待してみたりした。





ご近所さんに迷惑はかけないようにしましょう。
2011年1月5日