6.ユーシとガクトとコスプレ





「じゃあ私は先にスペースに行って準備してるから、ふたりは着替えてから来てね。ユーシ君にはさっき注意事項書いた紙渡したけど、ちゃんとコスプレ登録してきてよ?」
「服とか靴とか全部この中に入ってんの?」
「ぜーんぶ入れてきた! はず! 男子の更衣室は西地区一階のアトリウムだから、はい、登録料の800円ふたり分」
「姉ちゃんはひとりで平気?」
「全然平気! あーっテンション上がってきた! あっ、言っとくけど着替えたらふたりともガクトとユーシ君じゃなくて向日岳人と忍足侑士だからね! 同じ学校に跡部様とか日吉とかいなくても、いるように振る舞ってね! あんたたちは中身までリアル向日でリアル忍足なところに意味があるんだから! じゃーよっろしっくー!」
指を突き付けて言うだけ言い切って、ガクトの姉は軽やかなステップで東ホールへと向かって駆けていく。否、会場内を走るのは禁止なので、素晴らしいスピードで歩いていく後ろ姿を見送り、ユーシは呆然と呟いた。
「ガクトの姉ちゃん、ほんまに徹夜明けなん・・・?」
「イベントの度にあーなるから慣れた方がいいぜ? つーか姉ちゃん、マジでテンションに左右されるし」
「さよか・・・。ええと、男子更衣室は西ホールやったな。せやったらこっちか」
渡されたカタログの注意事項ページを切り取ってコピーされたものを確認する。横からちょこんとガクトが覗き込むと、東ホールへ向かう途中だった知らない女子ふたり連れが黄色い悲鳴を挙げた。
「忍足と岳人ー!? えええ、ちょっとあれ何本物!? あたし徹夜明けで幻見てる!?」
「違うって幻じゃないって本物だって! え、あれコスプレ? 違うよね、私服だもんね!」
「コスプレでもあんな完成度見たことないし! ああああたしコスプレ広場行く! 土下座して写真撮らせてくださいってお願いしてくる!」
「ずるいあたしも行きたいー!」
「・・・ガクト、早よ移動しよか」
「ん。でも今でこれなら、俺たちがコスプレしたらどうなるんだろうな? ちょっと面白そうじゃね?」
にやっと笑うガクトに、ユーシは今更ながらに彼の器の大きさを見てしまった。あの姉に振り回されるようで、その実ちゃんといなしている弟なのだ。現状を楽しむ能力はユーシよりも上だし、パフォーマンス力もあって派手好きで、注目されることもガクトは好きだ。わざとらしくガクトがユーシの腕に自身のそれを絡めれば、先ほどの女子ふたりだけでなく東ホールへ向かう女子の大半から歓喜の悲鳴が挙がった。
「ユーシ、早く行こうぜ!」
引っ張られて、ユーシも苦笑しながらガクトに続いた。ここまで来てしまったのならもはや開き直るしかないらしい。ガクトを見習わなあかんなぁ、とユーシは思いながら西ホールへと向かった。





30日の配置は、西がスポーツ・音楽・創作・小説。東が芸能・東方・WJでした。
2011年1月3日