5.ユーシとガクトと会場入り





サークル入場は七時三十分から開始されているが、ガクトの姉は印刷所からの直接搬入を利用するため宅急便の受け取りをする必要がないので、三人が国際展示場駅に着いたのは七時四十分を回った頃だった。ホームに降りて、次の駅へと向かっていく電車を見てユーシは心底懺悔した。何やあのガラガラ電車。ほんまに一般人の皆さんすんません。そう思ってしまうほどの状況なのだ。ホームはホームで人で混み合い、なかなか前へ進めない。どうにかエスカレーターを登ってみたものの、そこも戦場だ。ほんまに一般人の皆さんすんません、とユーシは何度思ったことか。この日のために「必要経費!」とガクトの姉から渡された五千円をチャージした定期券でスムーズに改札を抜ける。余談だが、視線は常にユーシとガクトに着いて回っていた。遠くから指を差されて「おしがくー!」と叫ばれた回数など、もはや片手の指を越えている。
駅を出てから会場である東京ビッグサイトまでは少しの距離がある。肉眼で建物は見えているが、そこまでの一般道にすでに行列が出来ていて、ユーシはぎょっとした。流石に驚いたらしいガクトも「すげー」と呆れ返った顔をして、スタッフに整理されてはきちんと整列する一般参加者の列を眺める。
「女だけじゃないんだ。姉ちゃん、男は何が目当てで来てんの?」
「うーん、今回なら東方? 後はラノベじゃない?」
「ライトノベルってユーシも読んでるじゃん」
「やめてガクト! 俺を一緒にせんといて!」
あれは読書の範囲内で、俺はキャラ萌えとかせえへんし、カップリングなんてもっての外やし、なぁガクト聞いとる? ほんまちゃんと聞いて!
ユーシが隣を歩くガクトに必死にアピールしている間にも、人の流れに身を任せるようにしてどんどんと会場への道のりを歩んでいく。逆三角形のピラミッドを思わせる建物は、下から見上げると何だか不思議だ。しかしあの三角形に用はないとばかりに、ガクトの姉はサークルチケットを一枚ずつ配布する。
「スペースは東5ホール、ネー11bだからね。何かあったらそこに集合だから。ちなみに閉会の16時までいるつもりだからよろしく!」
「姉ちゃん、その綺羅星のポーズ可愛くねーぞ」
「じゃあガクトやってみて。綺羅星!」
「綺羅星!」
ノリの良いガクトは、姉がやったのに合わせてきちんとポーズを付けて返した。元ネタが何なのかユーシには分からなかったが、ばちこーんとウィンクまでしてみせたガクトの可愛らしさは異常だったらしく、周囲で「おお・・・!」と歓声が上がる。やはり視線を集めているのは今も継続中らしく、そんな中で姉はよろりとショックを受けた様子でよろめいた。
「屈辱・・・! 弟の方が可愛いなんて屈辱! 今更だけど! 分かってたことだけど!」
「姉ちゃん、通行の邪魔だから早く行こうぜ」
「うるさい! あんたなんかユーシ君に可愛いって思われてんだから十分じゃない! これ以上周囲の男を虜にすんじゃないわよ! いやでも跡岳とか他校×岳人とか何それ美味しいだけど!」
「ちょっ! 頼むから俺を巻き込まんといて!」
「会場外でオタクトークって禁止じゃねーの?」
「うるさーい! もういいっ! 行くよ!」
ぷりぷりと怒った様子でキャリーバッグを引っ張っていく姉に、ガクトは肩を竦めてから着いていく。とほほ、とユーシは項垂れたまま戦場の、否、会場のサークル入口をくぐった。





途中のやぐら橋に、綺羅星と書かれたのれんがあったためスタードライバー。
2011年1月2日