分からないことがあったら柳先輩に聞く。知りたいことがあったら柳先輩に聞く。教えてほしいことがあったら柳先輩に聞く。それは切原赤也の中で当たり前の法則である。柳先輩=何でも知ってる。柳先輩=何でも教えてくれる。もちろん時には「少しは自分で考えろ」なんて額を小突かれてしまうけれども、それなりのヒントと道筋を示してくれるから赤也は柳が好きだ。真田のように怒って鉄拳制裁なんて滅多にしないし、幸村のように得体の知れないプレッシャーをかけられることもない。柳は赤也が頑張って考えた答えなら、それがどんなに可笑しなものだろうと真面目に取り合ってくれるのだ。そしてゆっくりとどうして間違えたか、正解に辿り着くにはどうすればいいのかを教えてくれる。赤也は柳が好きだった。尊敬する先輩だった。だからこそ彼は今日も、分からないことは柳に尋ねる。
「男の色気って、どうやったら手に入るんすかね!?」
しかし忘れてはいけない。どんなに背が高くて落ち着いていて菩薩のような外見でおまえどこの仙人だと突っ込まれるような見解を有していても、柳蓮二とてやはりただの男子中学生なのである。





立海座談会「テーマ:男の色気」





時は放課後、テニス部の練習も終わった夕暮れから夜へと空が変化している最中である。二年生エースの言葉に、それぞれ着替えを進めていた三年生レギュラーたちは思わず手を止めてしまった。おいそこの馬鹿也、今何て言った? 視線でそんな会話をするけれども、尋ねられたのは柳である。これ幸いと他の面子はジャージを脱いだり、ワイシャツのボタンを留める手を再開させた。珍しいタイムラグを経て、柳が常と変らない声を絞り出す。
「・・・赤也、座れ」
「ういっす」
ここで赤也がパイプ椅子ではなくちょこんと床に正座するところに、立海男子テニス部の日常が垣間見える。室内にパイプ椅子は二脚しかなく、他は三人掛けのベンチがひとつあるだけだ。つまり八人のレギュラー全員が同時に座ることは不可能であり、そうすると真っ先に蹴落とされるのが後輩の赤也なのである。年功序列というよりも、もはやパワーバランスの問題だ。そして赤也は真田に説教されることにも慣れていた。お叱りを受ける間、当然ながら姿勢は正座を保たねば更に怒られる時間が長くなるだけだと身に染みて理解している。対する柳は当然のようにパイプ椅子に座り、床の上の後輩を見下ろす。
「まずは、どうしてそんなことを聞くのかという理由を話してみろ」
「えっと、うちのクラスの女子が、何か高校生と付き合い始めたとか自慢してて」
ごにょごにょうだうだ。あっちに飛んだりこっちに飛んだりいろんなところに寄り道しながら紆余曲折を赤也が説明している間に、他の面子も着替えを終える。もうひとつのパイプ椅子は当然ながら部長である幸村のものだ。真田はベンチに座り、その隣に柳生も腰かけた。狭苦しく三人で利用するつもりはないのか、仁王はベンチの隣の床に胡坐をかいている。丸井とジャッカルはロッカーの前に、これまた床に座り込んで菓子やらドリンクやらを取り出していた。プピーナ、と仁王が鳴いて、柳生がいけません、と銀髪の脳天を手のひらで押さえる。
「つまりおまえは高校生の彼氏を持った女子生徒に、『切原はガキだから男の色気なんてないもんねー!』と高らかに笑って言われたと」
「柳、女口調やめろって気持ち悪い」
「丸井に一票ナリ」
「そうなんすよ、あいつ! 『高校生の方が男の色気があって中学生なんかよりずっといい』とか言いやがって!」
「何だ、おまえその女のことが好きなのか?」
「違うっすけど、でも何かむかつくじゃないっすか! だーかーらー俺も『男の色気』を持って、あいつを見返してやりたいんすよ!」
やっぱり惚れてるんじゃねぇの、というジャッカルの呆れた呟きはヒートアップしている赤也には届かない。まぁ、この後輩は惚れやすく冷めやすい性質をしているので、自分に振り向かないクラスメイト女子がちょっとばかり憎らしかったのかもしれない。男の色気ねぇ、と幸村が肘をついてくすりと笑う。そこに漂っているのは男というよりも、もはや神の色気である。女神であり天使であり大魔王サタンの色気である。
「なんで『男の色気』を教えてください! 柳先輩!」
「・・・おまえは俺を未来から来た猫型ロボットとでも思っているんじゃないか?」
はぁ、と柳が溜息を吐き出すが、その間も赤也の教えて教えて光線は絶えることがない。テニスコートに立てばそれはそれは憎たらしい様を相手選手に見せつけるというのに、この後輩は直属の先輩たちにだけは従順だ。だからこそ甘やかしてしまうんだろうな、と自己分析しながら、やはり柳は答えるために唇を開く。
「そうだな、一概に『男の色気』と言っても、それは主観に由るものが大きい。まずは相手のどんなところに色気、つまりセックス・アピールを感じるかを知る必要がある」
「せっ・・・!?」
「これはフェティシズムとも密接に関係してくる問題だ」
「ふぇ・・・?」
「フェチ、と略した方がおまえには分かりやすいか。本来ならば人類学や宗教学では呪物崇拝、経済学では物神崇拝と訳され、また心理学では性的倒錯のひとつのあり方として物品や生き物、人体の一部などに性的魅惑を感じるものをいう。精神医学ではかなり深いこだわりを指すものだが、ここでは俗語の性的嗜好の意味合いで語るとしよう」
ちらりと柳が赤也を確認するが、もはやこの時点で後輩のキャパシティーはオーバーしている。ぐるぐるぐるぐると目は不理解に混乱しており、心なしか顔色も悪くなってきている。自ら聞いたからということもあるが、基本的に赤也は素直な性質である余り、投げかけられた発言をスルーすることが出来ないのだ。要領の良い丸井などは聞いているようで聞いておらずポッキーを次々に咀嚼しているし、御高説を賜る気のない仁王などは携帯電話でぴこぴことゲームをしている。このふたりに比べれば赤也はとても真面目であり、だからこそ柳も理解力が低い彼にこうして根気よく付き合ってやるのだ。
「つまり、どこに色気を感じるかは個人の問題だ。脚フェチ、指フェチなどいった言葉はおまえも聞いたことがあるだろう?」
「あ、それはあるっす! 足がめちゃくちゃ好きな奴のことっすよね?」
「その認識で概ね間違いではないな。相手のどこに魅力を感じるかという問いかけに相手が足と答えたなら、その人物は程度の差こそあれ脚フェチと見て間違いではないだろう。ちなみに氷帝の忍足などは脚フェチだと専らの噂だな」
「それ、いらねぇ情報だろぃ」
「おまえがクラスメイトの女子を見返したいのなら、まず彼女がどこに『男の色気』を感じるのかリサーチする必要がある。彼女は具体的に高校生の恋人のどこが良いと言っていた?」
「えーっと・・・」
目線を斜め上の天井にやって、赤也は考え込むように言葉を途切れさせる。ちなみにこの癖は赤也が答えるべき事柄をほとんど記憶してないときに見せる仕草であり、データ集めが日常の柳にとってそれくらいはとうの昔に把握していた。無駄だったか、と呟いて、柳はそれなら話はこれで終わりだとでも言うように、パイプ椅子の背に背中を預けた。小さく金属のきしむ音がする。
「っつーか、『男の色気』なら柳じゃなくて仁王に聞くべきだろぃ?」
いつの間にやらポッキーからフルーツグミに移行していたらしい丸井が、もきゅもきゅもきゅもきゅごっくんと、音だけは可愛らしく、物凄いスピードで噛み砕きながら仁王に人差し指を向ける。指さすなって、とジャッカルがその指を掴んで下ろさせた。ぴょこ、と銀髪の尻尾を揺らして仁王が振り返る。
「何じゃ、おまん俺のことをどう思ってるぜよ」
「校則違反の常習犯」
「立海のセクシー担当」
「将来ヒモになる確率がやけに高い男」
「神奈川のエクスタシー」
「歩くホストクラブ」
「存在がR-18」
「っていうか二十禁?」
「三つ目から後言った奴ちょっと出て来い!」
思わず方言すら忘れて怒鳴った仁王にもどこ吹く風。ふふ、と幸村が笑い声を漏らすだけですべてが静かに流される。ってことは、と小首を傾げて赤也が考える。
「俺も仁王先輩みたいに方言で喋ったらいいんすかね?」
「赤也、おまん俺を馬鹿にしとるんか」
「そんなことないっすよナリ」
「それじゃコロ助じゃねーか!」
ぎゃははは、と今度こそ丸井が腹を抱えて笑い転げる。隣のジャッカルも噴き出しており、ぎろりと仁王に睨まれて慌てて「悪い」と謝るけれども、その顔はまだ笑いを収めきれていない。コロ助とは何だ、と問いかける真田に、柳生が親切にも某アニメーションのあらすじを掻い摘んで教えてやった。最終回の別れのシーンを語られ、じわりと真田の目尻に涙が滲む。それでこそ武士だ、と感動している彼は一応平成の時代に生きる現役中学生のはずである。
「仁王の怪しい方言はさておき」
「参謀、おまん後で見とけよ」
「見本として仁王は良い素材だぞ? セックス・アピール、すなわちエロティシズムを引き起こすのは、ふたつのタイプがあると考えられる。常時それを匂わせているタイプと、ここぞというときにそれを発揮するタイプだ。当然ながら仁王は前者に分類されるな。そして弦一郎とジャッカルもそちらの部類だ」
「俺もかよ!?」
「・・・俺も、そうなのか?」
話が飛んできたことで、ジャッカルが驚きの声を挙げ、真田が僅かに眉間に皺を刻んで戸惑いを浮かべる。隣から丸井がジャッカルに向かって体当たりした。いてっ、とジャッカルが顔を歪めて丸井の体重を受け止める。ふむ、とひとつ頷いて柳は解説する。
「仁王はキャバレーの自動販売機だが」
「参謀!」
「ジャッカルは、その肌の色自体がすでに色気があると女子に人気だ。ハーフだからこその肌色に加え、スキンヘッドという潔い男らしさがジャッカル自身の内面を表しているようだと語られているのを聞いたことがある。優しさの中に男らしさがあり、きゅっと引き締まった唇がまたセクシーなのだとか」
「肌の色って・・・これは生まれつきだぜ?」
「それが色気というものだ。弦一郎は言わずもがな、その肉体美だな」
「肉体美! 真田副部長が!?」
「驚くべき事柄ではないぞ、赤也。おまえも弦一郎の筋肉は知っているだろう? ボディビルダーの丸太のように隆々とした筋肉ではなく、スポーツのトレーニングを積む過程で身に着いた無駄のないスリムな筋肉は、女性には決して手に入れられないものだ。憧れる女性は多いし、それに弦一郎はストイックなまでにテニスに打ち込んでいる。その姿勢に色気を感じる女性がいるのも当然だろう」
「へー・・・真田副部長が・・・へー・・・」
「赤也、貴様何が言いたい」
「何でもないっす! あ、でも真田副部長の筋肉は同じ男の俺が見てもすげーって思うから、やっぱそういうことなんすかね?」
「まぁ、そうだろう」
柳の返答が適当になっている。一部の面子はそんなことを思ったが、口に出すようなことはしない。なるほどなるほど、と赤也は何度も頷いて納得しており、じゃあ、と今度はその目を丸井へと向けた。
「丸井先輩はどうなんすか? 先輩はどっちかっつーと可愛い系だし、背もそんなに高くないし、色気とは無縁じゃないすか?」
「そうだな、丸井は・・・」
柳がそこで言葉を区切ったのは、床に座ってグミからチョコレートに移行していた丸井が静かに立ち上がったからだ。赤也の死角になる位置でぱんぱんと手を払ってから、音を立てずに背後へと近づいていく。おいおい、とジャッカルが声をかけようとすれば唇の前に立てられたのは人差し指で、所謂「しーっ」という仕草に誰もが言葉を噤んだ。「柳先輩?」と首を傾げるのは唯一丸井に背を向けている赤也だけで、ゆっくりと丸井は自身のスニーカーを高々と持ち上げ、そして。
「・・・っ!」
思い切り真横の床を蹴りつけられ、反射的に赤也の身体が竦む。その一瞬を逃さず後ろから顎を捉えて上を向かせ、覗き込んだのはもちろん丸井だ。息を呑むほどにその距離は近い。互いがさかさまに見えて、いつもとは違う酷く真剣な瞳は、ただ赤也だけを映している。明るさを消した丸井は紛れもなくひとりの男だ。
「あんまり俺を舐めてんじゃねーぞ」
吐き出される声音は冷たく、暴力的なまでの威力を持って赤也を縛った。しかし次の瞬間、ぱぁっと太陽のような笑顔を丸井は浮かべる。
「・・・なんてな!」
ここで相手が女なら額にちゅーだろぃ、と言って丸井は赤也の顎から手を離す。背後から覆い被さることで感じさせる体格差。蛍光灯を背負って、表情は殊更に影を作る。そうして向けられた顔は男の、雄のそれで、日常の丸井を知っている赤也でさえ動くことが出来なかった。鼓動が早まるのはさすがに女子ではないため恋愛への落下ではないが、親しい先輩の別の顔を見てしまったという衝撃であることに間違いはない。お見事、と幸村と柳生が拍手を送る。いえい、と丸井がピースで応えた。
「今のように丸井は一撃必殺で色気を露出し、相手を落とすタイプだ。日頃が明るく騒がしいキャラクターをしているからな、ふとした一瞬の男らしさにときめく女子は多いだろう。すぐに素に戻ることで威圧感を与えず、かといってキスをひとつ落とすことで忘れさせはしないと釘をさすことも出来る」
「・・・っつーか俺、マジでびびったんすけど・・・!」
「そりゃおまえの経験値が浅いからだろぃ」
あっさりと切り捨てて、丸井はまたしてもロッカーの前に座り込んで菓子を食べ始める。お疲れ、とジャッカルがその肩を叩いて笑った。ん、と丸井が出した拳とジャッカルのそれがこつんとぶつかり合う。
「ちなみに柳生と俺も、ここぞというときに色気を発揮するタイプだ」
「え!? 柳生先輩もっすか!?」
「おまんはやぎゅーを聖人君子か何かかと思うちょるんか。俺と入れ替わりするけぇ、こいつが神奈川の跡部なのは当然ナリ」
「神奈川の跡部かどうかは置いておくとして、ナンパの成功率なら仁王よりも柳生の方が高いことが、柳生の魅力を証明しているな」
「マジっすか!? 柳生先輩もナンパするんすか!?」
「男同士の付き合いも案外複雑ということだ。どうする、赤也? 柳生の一撃必殺も受けてみるか?」
柳が珍しく心底楽しそうに唇を吊り上げて誘う。しかし嫌な予感しかしないため、赤也はこっそりと柳生の方をちら見してみた。しかし分厚い眼鏡とばっちり視線が重なってしまう。ふしゃーっと猫のように赤也の全身の毛が逆立った。にこ、と柳生が微笑む。この紳士としか言えない先輩が、先ほどの丸井のように激変してみせるのだろうか。しかも柳生は仁王に成り変わることが出来る。その造形が整っていることくらい赤也にも簡単に予想することが出来、そこに紳士の魅力が加わって、更に色気で一撃必殺。駄目だ、どうしたって勝てない。何故か勝ち負けの問題に発展しており、赤也は白旗を上げてぷるぷると首を横に振り「ごめんなさい」と頭を下げた。
「すんません・・・! 柳生先輩も柳先輩も勘弁してください・・・!」
「そうか、それは残念だ。参考までに教えておいてやろう。柳生は目がポイントで、俺は声を多用する。おまえも自分の魅力はどこなのか一度じっくり考えてみるといい。意外と新発見があって面白いぞ?」
ほへぇ、と口を半開きにして感嘆している赤也にはまだ早いな、と誰もが思ったが口に出さないのは後輩に対するせめてもの優しさかもしれない。自分たちと同じ中学三年生になる一年後には果たしてどうなっているか、そう想像してみるもののやはりきゃんきゃんと喚く小型犬のイメージしか浮かばないのでもはやどうしようもないらしい。諦めろよ、と丸井が小さく呟いた。いやいやそんなこと言ったら可哀想だろ、と隣でジャッカルがこれまた微妙なフォローを入れている。
「そして残るは精市だが・・・」
柳の言葉に、赤也だけでなく全員の視線が幸村へと向かう。パイプ椅子に腰かけて、テーブルに肘をつきながら話を聞いていた我らが部長は、七人分の視線を受け止めても動揺することなく、にこ、とたおやかに微笑んだ。にこっと反射的にスマイルを返してしまったのは赤也である。幸村の背後に見える気がする光景は、美しい花畑であり雄大な自然でありもしかしたら三途の川なのかもしれないが、そのすべてが彼に服従しているように思えるから実に不思議だ。森羅万象は幸村によって支配されているんじゃないかと、そんなことすら思ってしまう何かが彼にはある。
「・・・と、このようにわざわざ色気など使わなくても相手を意のままに操れる稀有な存在というのも世の中には存在する。だが、これは精市にのみ許される、まさに神業と言っても過言ではない天性の素質だから赤也には無理だ。諦めろ」
「ふふ、お褒めの言葉をありがとう。ちなみに俺が克服しようと決めて、そう出来なかったものはないよ。人間だろうとそれ以外だろうとね。例外は・・・青学のボウヤくらいかな?」
「さて、オチが着いたところで今日の講義はこれまでとする。何か質問は?」
「ないっす! どうもありがとうございました!」
ぴしっと背筋を伸ばして頭を下げる赤也は間違いなく、結局のところ自身に男の魅力が身についていないということには気が付いていない。解散の合図を受けて丸井が鞄を持って立ち上がり、ジャッカルは空になった菓子の袋を部室の隅にあるゴミ箱へと捨てる。未だぶちぶちと不服を綴っているらしい仁王に、呆れた様子で柳生が肩を竦めた。俺をオチに使うなんていい度胸だね、と幸村が笑い、さすが幸村だな、と真田が得心し、いつものことだろう、と柳が流す。少しばかり痺れている足に気合を入れて立ち上がった赤也は、はたと我に返った。そしてぞろぞろと部室から出ていこうとしている先輩たちの背中に慌てて問いかける。
「あの! 俺のチャームポイントってどこっすかね!?」
ほんのわずかな間があって、返された答えは満場一致だ。
「髪」
「髪」
「髪」
「髪」
「ワ」
「カ」
「メ」
「プリッ」
「っ・・・!」
「はい! オチも着いたところで駅まで鬼ごっこ開始! 捕まった奴は赤目モードの餌食になること!」
ぱぁん、と手のひらを打ちつけてにこやかに宣言したかと思うと、幸村が我先に部室から駆け出していく。きゃーきゃーとまるで女子学生のように楽しそうな悲鳴を挙げて、レギュラーたちも走り出す。目を真っ赤に充血させた赤也がわなわなと身体を震わせ、「てめぇら全員まとめてぶっ潰してやるよ・・・!」と低い声で叫んだかと思うと、数秒前までの可愛い後輩はどこへ行ったのか弾丸のごとく飛び出して先輩たちを追いかける。ここが砂浜だったなら、うふふあははと追いかけっこする恋人同士の光景だ。まぁ現状は総勢八人のすべてが男だからロマンの欠片もないわけだが。
「・・・中学生なんて、所詮はこんなものだろう」
扉の影に隠れて赤也をやり過ごし、部室の鍵をしっかりとかけてから柳も仲間たちの後を追う。結局の話、彼らはまだまだ色気よりも食い気、あるいは遊びが優先な年頃なのだ。





みんなでわいわいきゃっきゃしている話が書きたかったのです・・・。
2011年6月8日