蔵兎座とリョーマさんと跡部様という、ほぼネイティブに加わってONIGIRIについて英語で論ずることの出来る柳生さん。(ペアプリ参照)
あなたは一体いつどこでどうやって英語を学んだの?
柳生の英語力について本気出して考えてみた
1.王道、独学ですよ。
「柳生先輩、何聞いてるんすか?」
部活の合間、一時間の昼休憩の最中、中庭のベンチに座っているレギュラーの先輩に声をかけたのは赤也だ。彼の手の中にはカフェオレと苺牛乳のパックジュースが収まっており、これはじゃんけんで柳に負けて買い出しに使わされた結果だ。テニスコートから少しばかり離れた中庭に、他のテニス部員の姿はない。否、ベンチの背後にある木陰には仁王が猫のように丸まって寝ており、柳生はまるで彼の睡眠を守っているようだと赤也は思う。
「聞いてみますか?」
「いいんすか?」
「ええ、どうぞ」
いつも通りの紳士スマイルと共に差し出されたのはイヤホンだ。そのコードは小さなウォークマンに繋がっており、柳生先輩って見かけによらず機械とか強いよなぁ、と考えながら赤也は受け取る。柳にも言えることだが、和風だったり堅物だったりに見えて彼らは意外と応用が利くのだ。幅広く何でもこなせて、赤也は彼らが困っているところを見た記憶がほとんどない。困ったと言いながらもさらりとこなしてしまうのが柳や柳生だと赤也は考えている。ちなみに部長の幸村は笑顔で苦手なものを叩き潰すタイプで、副部長の真田は気合ですべて吹き飛ばすタイプだ。
そうして差し出されたイヤホンを耳に嵌めてみて、ぎゃあ、と赤也は悲鳴を挙げた。聞こえてきたのは女性アイドルのポップスでも、ましてや厳かなクラシックでもない。
「英語じゃないっすか!」
「リスニングですよ。こうして耳に慣らしておけば、まず身体が英会話を覚えますから」
「ウォークマンで英会話聞くとか、それマジでありえないっすよ!」
「おや、切原君もこうして登下校時に聞いていれば、英語が得意になるかもしれませんよ? 試してみたらどうですか?」
苦手科目と分かっていて、そうやってからかってくる柳生は意地が悪い。盛大に顔を歪めて、赤也はイヤホンを突き返した。黒味の強いワインレッドのウォークマンは柳生というよりは仁王に似合う気がしたけれど、中身は間違いなく柳生のものだ。そういえば柳生先輩、英語のアシスタントティーチャーと話してる姿も良く見るなぁ、と赤也は思い返す。アメリカ人の教師は日本語ももちろん喋れるけれど、柳生とは英語で話していたはず。もしかしたらあれも勉強の一環なのかも。つるり、抱えているパックジュースの水滴が赤也の腕を濡らす。それとは異なる汗も額を伝った。
「・・・柳生先輩、そんなに勉強して何が楽しいんすか?」
心底理解出来なくて問いかけてしまったら、何故か柳生は小さく噴き出して笑い出す。くつくつと肩を震わせる彼の背後で、仁王がにゃごにゃごと寝返りを打ったのだった。
(NHKラジオ講座とかのCDを聞いてる柳生さん。学んでるのはアメリカ英語。)
2.私立ですから、短期留学も。
仁王は冬が嫌いだ。寒くて出歩きたくなくなるし、そんな中でも部活に勤しまなくてはならない毎日は自分がマゾヒストにでもなった気がして嫌になる。かといって練習をさぼろうものなら真田の雷が落ちるし、何より一日休めば遅れを取り戻すには三日必要だ。言葉にはしないけれども負けず嫌いを自覚している仁王にとって、それは我慢がならなかった。だからこそ不満を押し殺して、冬でもテニスコートに立っている。
しかし仁王が冬が嫌いな理由は、他にもあった。仁王の誕生日から約一ヶ月後、三学期の始業式が始まると同時に立海では交換留学が行われる。留学先はイギリスにある提携校で、そこで得た単位はそのまま立海でも適用される。期間は三ヶ月と短期ではあったが、将来を見越して留学を希望する生徒は少なくなかった。選抜試験が行われ、英語の成績と品行、そして何より気概に満ちた生徒だけがイギリスに渡ることを許される。もちろん仁王は留学なんてしてみたいとも思わないので名乗り出ないが、彼のダブルスパートナーは違った。柳生という男は学ぶことに貪欲であり、そして選抜試験を悠々と通過してしまう程の才知に溢れている。一年生の三学期、仁王は柳生と共に過ごすことが出来なかった。二年生の三学期も、ダブルスの練習を一緒にすることは一度もなかった。そうして今年も柳生はイギリスへと渡ってしまう。卒業式には間に合うように帰国するらしいが、それでも中等部最後の季節を共に過ごすことは叶わないのだ。
「それでは仁王君、行ってきますね」
お土産を買ってきますから、なんて笑う柳生は知らないに違いない。節分もバレンタインデーもホワイトデーも、どんな季節だって仁王が彼と一緒に過ごしたがっているのだということを。
(三学期まるまる短期留学。学んでるのはイギリス英語。今年は柳も一緒らしいよ!)
3.大穴、これが一番身に着くらしい。
「Hiroshi!」
高い声で呼ばれたのは柳生の名前だったけれども、日本人の発音とはいささか異なる。思わず振り返った立海男子テニス部レギュラーの視線の先には、人混みを縫って近づいてくる女性がいた。地毛にしか見えない金髪に、コンタクトとは思えない青い瞳。肌は透き通るように白くて、一見して外国人である相手に後ずさったのは赤也だ。外人の年齢は予想しづらいが二十代に見える。欧米人が大人っぽく見えることを考えると、もしかしたら十代なのかもしれないが正確なところは不明だ。ミュールのヒールを鳴らして駆けて来ようとしている女性に、失礼、とチームメイトたちに断りを告げてから柳生も近づいていく。ふたりの距離は見る間に近づき、知り合いであることは明らかだった。
「誰だ、あれ?」
「柳生の元カノじゃ」
首を傾げる丸井に、仁王があっさりと答えを返す。元カノ=元彼女。元恋人。単純なはずの公式なのに、何故か理解するのに時間がかかったのは相手が柳生だったからだろう。品行方正で真面目と優秀を絵に描いたような柳生に恋人。しかも外国人。広い意味で考えれば決して可能性はゼロではないはずだが、そんな存在を微塵も感じさせないのがこれまた柳生比呂士という男だった。
立海レギュラーが異口同音の悲鳴を挙げるのと、金髪美人が満面の笑みで柳生に抱きつくのは同時だった。熱烈なハグとキスまで、あと五秒。
(年上の在日カナダ人のお姉さん。学んだのはカナダ英語と、でもってフランス語。アデュー。)
正解はどれでしょう。教えて、こにゃみ先生!
2011年3月27日