小さなテニスクラブだった。地域の子供たちや趣味で通う主婦で溢れているような、そんな街角のテニスコートだった。幼い掌にラケットは大きく、振り回すよりも振り回される。それでも放たれるサーブは強烈で、スマッシュはコーナーを鋭く抉った。魅入ってしまった。ふつふつと湧き上がる、それが歓喜なのだと後に気づいた。声をかけたのは、彼の方が先だった。
「あなた、すごくお上手ですね。ぼくとしあいをしませんか?」
少年はまだ眼鏡をかけていなかった。振り向いた少年も、まだ艶のある漆黒の髪を持っていた。
はじめまして、ぼくは柳生比呂士です。・・・おれは仁王雅治じゃ。
2010年10月23日