四校合同合宿希望調査(立海編)





1.丸井&ジャッカル

「ジャッカル、一番に四天宝寺って書けよ。ほらあの笑えるテニスするダブルス」
「なっ・・・金色と一氏かよ!? 本気か!?」
「本気も本気、超本気。面白そうだろぃ、あいつら」
風船ガムを膨らましながら、丸井は自身のアンケートに名前を記入している。唖然としているジャッカルからも用紙を奪い、そこにも同じ名前を書き込むと、当然のようにそれがまた返される。癖のあるお世辞にも上手いとは言えない文字に、ジャッカルはどんよりと肩を落としてしまった。正直、出来ることなら当たりたくない相手だった。テニスはともかく、あのとんでもないお笑いパフォーマンスについていける気がしないのだ。
「・・・せめて、第二希望は青学の菊丸と大石にしろよ。リベンジしたいから」
「オッケー。んじゃ、第三希望は仁王と柳生だな。戦績負けてっし、ここらで一泡吹かせとこうぜ」
頷く丸井に、ジャッカルはほっと肩を下ろした。第二、第三希望が採用されれば、どうにかまともな試合が出来そうだ。しかし第一希望が採用されそうな気がするのは何故だこれ。楽しみだったはずの合宿が一気に憂鬱となり、ジャッカルは心なしか痛む胃をそっと押さえた。そんな彼の隣では、丸井が第一希望を通すように、嬉々として氷帝のジローに電話をかけようとしている。

(まず間違いなく採用される。)





2.切原&柳

赤也は提出前に柳のチェックを受けるように。幸村がそう命じたのは、今回が公式戦ではなく合宿という形を取っているからだろう。悪魔化して潰さないような相手を選択させろという無言の圧力に、柳も了解を示して頷いた。なので今こうして、一通り記入されたアンケート用紙を確認しているわけである。
「第一希望に手塚とは、赤也にしては無難な線だな」
「俺にしてはって何すか。俺、手塚さん対策で左殺しを特訓してきたのに、全国じゃ全然使う場所なかったし。せっかくだから今回はーって思いまして」
「第二希望に海堂。その心は?」
「今度こそめっためたにぶっ潰してやろうかなって!」
「却下。同じ二年なら四天宝寺の財前にしておけ。彼は全国大会で試合が少ない分、データが余り取れていないからな。せっかくだから当たっておくといい」
「強いんすか、そいつ?」
「実力はまだ測りかねているが、四天宝寺では天才と呼ばれているらしい」
「ふうん」
ぺろりと切原が唇を舐める。瞳に挑戦的な色が滲んだので、柳は赤ペンで第二希望を海堂から財前へと書き換えた。財前は露出が少ない分、今ここで試合をしておけば来年の夏に向けてデータが取れるし布石も打てる。立海のためにもなる対戦なら、幸村も何も言うまい。柳はひとり、ふむと頷く。
「第三希望に何も書かれていないのは何故だ?」
「あ、それは柳先輩とダブルス組もうと思って。相手、誰にします? 俺としては手塚さんと越前リョーマのペアとやってみたいんすけど」
「残念だが、越前はダブルスが壊滅的に出来ないらしいぞ。そうだな、赤也は一度パワー勝負を学んでおいた方がいい。相手は四天宝寺の石田にしておこう」
「えーっ、シングルスっすか!? せっかく柳先輩とダブルス組めると思ったのに!」
「部活でいくらでも組めるだろう」
「ちなみに柳先輩は誰を希望したんすか?」
「俺は貞治と組んで、仁王と柳生のペアだな。第二希望は貞治とシングルスだ」
「ずっりー! 俺とダブルス組んでくださいよー!」
きゃんきゃんと騒ぐ後輩を片手で抑えつつ、柳は勝手に切原のアンケートを書き直してしまった。このまま精市に提出しておくぞ、と不貞腐れている後輩に告げて、その頭を軽く叩いてやる。今度の練習試合でな、という言葉に、絶対っすよ、と切原は頬を膨らませたのだった。

(立海三年にとって赤也はポメラニアン。)





3.仁王と柳生

せっかくの機会だけれども、特別対戦したいと思う相手はいない。仁王は迎え撃つことに実力を発揮するタイプだし、柳生も自ら乗り込んでいくほどがっついているタイプではなかった。故に彼らは互いのアンケート用紙を交換し、仁王は柳生に、柳生は仁王に、対戦させたい相手を記入することにした。五分かけて書き上げた結果を、せーので見せ合う。
「・・・おまん、相変わらず性格悪いのう」
「・・・仁王君こそ、褒められた性格ではないと思いますが」
二枚のアンケートの用紙の第一希望は、同じ相手の名前が刻まれていたのだ。青学、不二。仁王にとっては全国大会の決勝で敗れた相手であり、そのプレイヤーとの再戦を望まれて、思わず眉間に皺を刻んでしまう。
「イリュージョンを使うから負けてしまうのですよ。純粋なテクニックなら、あなたが不二君に劣っているとは決して思いません」
「真正面からぶつかれって言うんか? 詐欺師の名が泣くぜよ」
「でしたら私の姿で試合をしてくださって結構ですよ。それにしても、どうして私も不二君なんです? 特別面白い試合にはならないと思うのですが」
「何じゃ、相方の無念を晴らしてはくれんのか? つれないのう」
「不二君の攻略法は、四天宝寺の白石君がすでに証明していますからね。正直な話、余り興味はありません」
「第六のカウンターはどうなんじゃ?」
「星花火ですか。あれは・・・」
アンケートを脇に寄せて、額を合わせるように返し方について話し合う。柳生が分析すれば、仁王が「こう来たらどうする?」と別の予測を入れる。それにまた柳生が応えて、仁王が意見し、納得できる形を作り上げていく。互いに成りきることが出来るほどの相似を持ちながらも、正反対な性格やプレーを有するふたりがダブルスを組むに当たってまず最初に決めたことは、何よりも話し合いを重ねることだった。理解しあうために、感覚だけではなく価値観を重ねあう。時にぶつかり合い、譲歩し、更なる高みを目指して勝つための努力を惜しまない。そうして年月を重ねて、今の公式戦無敗を誇る仁王と柳生のペアが存在するのだ。

(公式戦無敗設定はアニメより。)





4.幸村と真田

「対戦したいと思う相手がいないんだけど、どうすればいいと思う?」
部長でありながらも白紙のアンケートを提出しようとしている幸村に、真田は眉を顰めてしまった。しかしすぐに、それも納得だと考える。幸村は強い。全国大会でリョーマに負けはしたけれども、その強さはやはり他の追随を許さない。だからこそ周囲に対戦したいと思わせる相手がいないことも仕方がないのかもしれない、と真田は考えた。
「真田は誰にしたの?」
「うむ、氷帝の跡部と四天宝寺の白石だ。手塚とは全国で対戦したからな、他に思いつく相手もいない」
「ボウヤは? リベンジすればいいのに」
「その言葉はおまえにも返すぞ、幸村」
真田の言葉に、幸村は「ふふ」と笑った。
「俺も跡部にしようかな。あの高いプライドを圧し折ってやるのも楽しそうだよね」
「・・・跡部は今回の主催者なのだから、機嫌を損ねるのは拙いのではないか?」
「テニスに関してなら、その程度で機嫌を悪くするような男じゃないよ。跡部のそういうところは認めているんだ」
「振る舞いは派手だが、案外真面目な男だからな」
「跡部も真田に言われたくないと思うよ。まぁ真田は見た目も真面目だけどね」
幸村は第一希望だけ書き込んで、自らのアンケートも他の部員たちから預かっている分に重ねた。真田からも受け取り、揃えて返信用封筒に入れて糊付けする。切手まで貼ってあるのが親切だよね、という幸村の感心に、真田も「さすがだな、跡部」と頷いた。
こうして各校のアンケートは跡部の元へと収束し、四校合同合宿はまもなく開催されようとしているのだった。

(はい真田、ポストに出しといて。)





【立海の希望調査はこうなりました。】

丸井→1・ラブルス(ペアはジャッカル)、2・菊丸&大石(ペアはジャッカル)、3・仁王&柳生(ペアはジャッカル)
ジャッカル→1・ラブルス(ペアは丸井)、2・菊丸&大石(ペアは丸井)、3・仁王&柳生(ペアは丸井)
切原→1・手塚、2・財前、3・銀
柳→1・仁王&柳生(ペアは乾)、2・乾、3・リョーマ
仁王(柳生リクエスト)→1・不二、2・宍戸&鳳(ペアは柳生)、3・小春
柳生(仁王リクエスト)→1・不二、2・ラブルス(ペアは仁王)、3・手塚
幸村→1・跡部、2・なし、3・なし
真田→1・跡部、2・白石、3・リョーマ

こういう想像をするのは面白い。ちなみに合宿当日編はありません。皆様お好きに想像してやってくださいませ!
2010年9月12日