[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。






<電話>





唐突だが、山口は割りと『電話』というものが好きだった。
まずボタンをいくつか押すだけで、どんな遠くにいる相手にも繋がるというのが素晴らしい。
しかもその声を機械越しとはいえ間近で聞けるのだ。普段よりももっと近くで。
離れていてもリアルタイムに会話が出来るなんて!
なんて素晴らしい発明をしてくれたのだろう、と山口はときどき名も知らない電話発明者に感謝していた。



そして山口は『携帯電話』というものを所持していた。
これはサッカーで出歩くことが多い自分のために両親が購入してくれたもので、先月には新しい機種に変えたばかりだ。
カメラがついているものなのだが、それとは関係なく山口が一番多く使うのは『メール』機能だった。
メールというのは素晴らしい。山口は常々そう思っている。
電話ならば相手がいなくては繋がらないが、メールならばとりあえず相手に送っておくことが出来るのである。
そして相手が気づき、返事を返してくれる。
文字になって送られてくる言葉はいささか冷めたものがあるが、いつまでも保存しておけるという利点もある。
メールを発明した名も知らぬ人間にも山口はときどき感謝していた。



そう、とどのつまり山口はコンタクトを取るのに必要な手段に対して感謝しているのである。



真田一馬とコンタクトを取ってくれる機械に!



携帯電話をカチカチと操作して『真田一馬』の項目を見つける。
機種変をしてから会ってはいないので、まだ映像は保存されていない。
今度会ったときには一番に写真を撮らせてもらおう、と山口は計画する。
そうすれば真田から電話がかかってきたときには画面にその画像が映るのだ。そうすれば、きっともっと幸せな気分になれる。
・・・・・・・・その分、電話に出るのが遅れるかもしれないが。



液晶画面に並ぶ11桁の数字を見ながら山口は自然と頬を緩める。
そして思うのだ。あぁ、この時代に生まれて良かった!・・・・・・と。
IT化を推奨してくれた総理大臣(これも名を忘れた)に感謝したいと山口は思う。
これがもし江戸時代なんかだったりしたらどうする。考えてもみろ。
手紙一つ届けるのに飛脚の足で3日は優にかかるだろう。そんなの嫌だ。往復で6日?一週間が終わってしまうでないか!
メールならば6日で何回往復できると思っているのだか。パケット代その他は見てみないふりをする。
とりあえず出世払いにしといてもらおう。山口は頷いた。
そしてようやく通話ボタンを押す。



ここまでの所要時間約27分。
世界中の色々な人へ感謝を捧げて、山口は真田へと電話をかけるのであった。





2003年5月18日