選抜の練習をしていると、なんだか空が真っ暗になってきた。まさかと思って若菜は振り返る。そうすると視線を受けた親友の一人は、案の定さらっと言ってのけた。
「まさか傘を忘れたとか言わないよね?」
俺が昨日、わざわざメールしてあげたのに? ニッコリと笑ってみせる郭に、若菜は後ずさりしながら叫ぶ。
「こんな晴れてて雨が降るなんて思うわけないだろーがっ!」
その言葉に呼応するように、バケツを引っくり返したような雨がグラウンドに注がれ始めた。
その後あまりに雨が激しいので、今日の練習はここまで、と打ち切られた。ライダースーツに身を包み、西園寺はニッコリと笑ってヘルメットを被る。
「それじゃ、みんな。気をつけて帰ってね」
誰もが眉を顰めた中で、最も顔を歪めたはとこに対して彼女は爽やかに笑った。
「メットがないんだから仕方ないでしょ、翼」
良い子だから自力で帰ってらっしゃい。そういい残し、大型バイクを駆って雨の中を去っていく。残された子供たちは中学校の昇降口の軒下で、激しい雨に行く手を阻まれていた。
「・・・・・・・・・どうしよう」
ポツンと風祭の呟いた言葉が、やけに虚しく響いた。
傘を持っているのは、勘による天気予報が得意な郭英士。そしてそのおこぼれをメールで与った真田一馬。同じく知らせを受けた若菜は、早朝の晴天に郭の勘を笑い飛ばしたらしい。
「これに懲りたら、今後は俺を疑わないことだね」
説教と共にそう言われる若菜を、真田は同情的な眼差しで見つめていた。その向こうでは、降りしきる雨を見上げていた桜庭と上原が意を決したようにジャージを羽織る。
「やっぱ俺ら、行くわ。このまま待ってても止みそうにねぇし」
「だな。駅まで走って10分だし」
「じゃーな、また今度!」
「おい・・・」
渋沢が止める前に二人は駆け出し、水溜りを撥ねながら校門を出て行く。ぎゃあ、とか、うわ、という奇声が聞こえた気もしたが、雨の音で届かなかった。
「・・・・・・俺も行くかな」
内藤も降ろしていたバッグを持ち上げる。
「郭が言うには台風が進路を変えてきてるんだろ? だったら電車が止まると困るし」
「あ、俺も行く」
「俺も」
内藤につられ、谷口や木田も立ち上がった。鳴海は桜庭たちよりも先に雨の中を帰っている。傘もなく長い髪を濡らし、それでも短気さが勝ったのだ。その頃と雨の激しさは変わっておらず、もういい加減に待ちわびたのだろう。渋沢は雨の中走っていく彼らを見送った。風邪引くなよ、とあたかも保父さんのように声をかけながら。
そして残ったのは渋沢・藤代・間宮の武蔵森組。水野・風祭の桜上水。椎名・黒川・畑の飛葉組。杉原と郭・真田・若菜の新旧ロッサ、計12人。
「どうやら雨脚は弱まらないみたいだね。ったく天気予報も何やってんだか」
椎名が雨でしっとりとする髪をかき上げる。黒川は肩を竦め、畑は大きく溜息を吐いた。
「どうしよう・・・・・・洗濯干してきちゃったんだけど、功兄取り込んでくれてるかな・・・」
どこか心配の方向の違う風祭に、水野は何と返すものかとつい考える。
「キャプテーン、タクシー乗って帰りましょうよー」
「藤代、そんな金はない。俺たちも駅まで走るか・・・」
「まぁ、それも楽しそうっすけど・・・」
藤代を宥めつつ渋沢は空を見上げ、その隣では間宮が携帯電話で時間を確かめている。杉原は何を考えているのか、ただニコニコと笑っていて。こってりと郭に絞られ、うんざりとした様子の若菜は鞄を手に立ち上がた。そしていたって普通にお伺いを立てる。
「なぁ一馬、おまえの家ってここから歩いて三分だろ? 今日泊めて」
ちょうど夏休み中だから明日の電車も気にする必要ないし? 若菜がそう言って笑う向こうに、郭はその他のメンバーが一斉に振り返るのを見た。隣では人の良い真田が、というか意外と周囲の人間の機微に気づく真田が、困ったように首を傾げる。
馬鹿結人、と郭は心中で毒づいた。





突撃、真田家!





(この後みんなで真田家に向かい、主婦真田にびっくりな話になる予定でした。)
2008年8月22日