19.愛のために、体育祭!





日々は割合と穏やかに過ぎていった。最も危惧されていた三年五組の雲雀恭弥、笹川了平、スペルピ・スクアーロの三竦みも決定的な衝突が起こることはなく、比較的クラスメイトと教師に優しい日常が流れていった。それは雲雀が相変わらず応接室を陣取り授業に参加しないことは元より、事あるごとに様子をうかがってくれた綱吉の密かな努力が大きい。それに高校はイタリアですでに卒業しているだけあってスクアーロは大人だ。彼はむやみな衝突を起こすことなく、綱吉にも優しい学校生活を送ってくれた。ありがとうありがとうと手を握りしめて綱吉が礼を述べたところ、彼はきょとんとしていたけれども。
そうして五月は爽やかに過ぎ、梅雨と共に六月がやってきた。



昼休みの盛り上がっている教室で、今日も綱吉はおなじみのメンバーと弁当を囲っていた。右隣に獄寺、その隣に山本、さらにスクアーロ、そして左隣がベルフェゴールと見事な円を描いている。バジルは新入生ということで友達関係を大切にしてもらいたいため、昼は自分の教室で食べるように言ってある。まぁ彼の謙虚な性格なら心配はいらないと思うが、綱吉からのせめてもの配慮だ。そして今日も奈々特製の弁当をつついていると、ピンポンパンポンというどこか聞き慣れた音と共に校内放送が始まった。野太い声はおそらく風紀委員のものだろう。おもわず生徒たちはびくりと肩を揺らしてしまったけれども、まだ頂点に座す彼ではないので安堵する。
『二週間後の体育祭の競技を発表する』
生徒たちは、あぁもうそんな時期か、と暦を振り返る。しかし昨年度の三学期に転入してきたベルフェゴールは体育祭というものを知らず、箸をくわえたまま綱吉を見る。
「体育祭って何?」
「スポーツ大会っていうか・・・・・・オリンピックのものすごく小さいのみたいな?」
「100メートル走とか綱引きとか、いろいろ面白いんだぜ」
「紅白に分かれて得点を競うんだよ。負けた方は校内の片付けだったっけ」
綱吉が答え、山本が笑う。特に山本は去年の白組勝利の立役者だ。100メートル走とクラス対抗リレー、そして部活対抗リレーのそのどれもでゴールテープを切ったのは記憶に新しい。女子生徒の携帯カメラにもまだその画像は多く残っているらしい。
『今年の種目は生徒からのリクエストを元に作成した。色分けは奇数クラスが白組、偶数クラスが赤組』
つまり今年の二年六組は赤組ということである。ちなみにバジルの一年一組とスクアーロたちの三年五組は白組だ。仲間外れ、とベルフェゴールがからかうけれども、スクアーロはぴくりと眉を動かしただけで反論はせず、代わりに彼の好物である奈々特製の玉子焼きを奪い、すべて高速で平らげた。ふざけんな、との声が上がるが、もはやこれくらいは日常茶飯事である。
『種目は100メートル走、障害物走、借り物競争、二人三脚、ムカデ競争、大玉転がし、長縄跳び、綱引き、棒引き、クラス対抗リレー、部活対抗リレー、フォークダンス』
うわぁ、と運動の得意な者は歓声を、苦手な者は悲嘆の声を上げる。綱吉は別にどちらでもいいやと思っているので、もぐもぐと甘辛からあげを咀嚼する。しかし次の放送を聞いて、思わず鶏を噴き出しかけた。
『最後に紅白代表による一対一のデスマッチ。赤組代表は沢田綱吉、獄寺隼人、山本武、沢田ベルフェゴール。白組代表は雲雀恭弥、笹川了平、スペルピ・スクアーロ、沢田バジル』
うわぁ、とさっきとは比べものにならない歓声が上がる。しかもそのどれもが喜びによるものだ。かねてから見てみたいと思われていたバトルがついに実現する。しかも今回はベルフェゴールとスクアーロとバジルも加わり、まさにドリームマッチだ。
「マジで!? 体育祭さいこー!」
「違うからベル! 普通の体育祭でこれはないから!」
『競技はすべて生徒からのリクエストによって決定された。以後の変更はないものとする』
グッジョブ、と並高生たちは一斉に親指をつき立てた。誰かは知らないが実に良い仕事をしてくれた。ドリームマッチ万歳! これはもう当日はビデオカメラを用意するしかないだろう。生徒たちはうきうきと二週間後に思いを馳せるが、頭を抱えたのは綱吉だ。何だって好き好んで戦わなくてはいけないのだろう。仮にも今は仲間だというのに。
『デスマッチの対戦カードは代表者に決定権を与える。公平を期すため武器の使用は禁止。以上』
「ちょっと待って下さい、雲雀さん!」
『沢田、逃げたら咬み殺すよ』
「どっちにしろバトルかよ!」
最後の一言だけ涼やかな声がマイクを通り、校内放送は終了した。ああああああ、と情けない悲鳴を上げて綱吉は机に突っ込む。参ったなぁ、と全然参ってなさそうな声で山本がパンをかじる。
「武器が禁止ってことは肉弾戦だろ? どう考えたってツナと笹川先輩が有利だよな」
「ようは見えなきゃいーんじゃね? 俺のワイヤーならバッチリだしぃ」
「なっ! てめぇ、それは反則だぞ!」
「おまえはダイナマイトしか能がないっけ。うっわ可哀想!」
「てめぇこそナイフとワイヤーだけだろうが! 俺は素手でも負けねぇ! 必ず十代目のお役に立ってみせる!」
「スクアーロの義手も武器に入るのか?」
「知らねぇぞぉ。ちっ! 面倒なことになったぜぇ」
何だかんだ言いつつ楽しそうだ。ベルフェゴールはやる気満々だし、山本も笑っている。獄寺は挑発に乗ってしまったし、スクアーロも何気に嫌ではないらしい。残るは全力で拒否を表している綱吉だが、彼はむくりと身体を起こすと無言で弁当の続きを食べ始めた。高校からしか彼を知らない者ならばそれを諦めと取っただろうが、五年目になる家庭教師からしてみれば「また考えるのを先送りにしやがったな」ということである。この悪癖だけは直さねーと、などと思われていることはいざ知らず、綱吉は米一粒残すことなく弁当を平らげた。ごちそうさまでした、と両手を合わせる姿はいつになく行儀がよい。
「ツナ君」
同じく教室で花と昼食を取っていた京子が、彼へと近づく。その顔がいつもとは違って不安に曇っており、綱吉も慌てて立ち上がる。
「京子ちゃん」
「ツナ君・・・・・・今のデスマッチって、喧嘩するってことだよね? お兄ちゃんの名前も呼ばれてたし、お兄ちゃんも喧嘩するのかな」
「京子ちゃん・・・・・・」
「体育祭だし、そんな危ないことはないって分かってるけど、でも」
きゅっと眉を顰める様は泣きそうにも見えて、やっぱり笹川は可愛いって、と男子生徒たちは心中で叫び声を上げる。こんな様子を見せられたら、どんな男だってどうにかしてやりたいと思うだろう。そしてそれは綱吉も同じだった。
「だ、大丈夫だよ、京子ちゃん! 俺がお兄さんと対戦して、すぐに降参するから!」
「ツナ君・・・・・・」
「だから心配しないで。ね?」
にこっと、少し不器用に綱吉が微笑むと、京子も彼を見つめてほっとしたように目許を和らげる。その光景はとても微笑ましく、可愛らしいカップルのようだったのだけれども。しかし。

その日より密やかに戒厳令が敷かれ、沢田綱吉VS笹川了平のバトルをちゃんと行わせるべく並高生たちは画策し始める。彼らはドリームマッチ以上に望んでいるものがあったのだ。
そう、それは伝説の美少年「ビューティーツナ」の降臨だった。





一年では文化祭メインだったので、二年では体育祭です。
2009年2月8日