15.食は胃と並高を救う





沢田綱吉という人物は、ダメツナ呼ばわりされる人生を長く過ごしてきたからか、他人の感情や行動に対してすごく敏感だ。少しでも先回りして被害を少なくさせる。そんな風に生きてきた彼にボンゴレ特有の超直感が加わり、今や鬼に金棒、何となく分かっちゃったりするんです的な行動をたまに見せたりもする。
そんなわけで綱吉は、元来の諦めの早さも手伝って、すぐにベルフェゴールとスクアーロを受け入れた。そしておとなしくさせるために用いた手段は、雲雀をも陥落させた、彼の母特製の弁当だった。



雲雀VSスクアーロの戦闘が行われた翌日、綱吉は昼休みに彼らの教室へと足を運んだ。半壊に近い状態だった廊下は、すでに完璧に直っている。しかしちらりと外を見てみれば学校のフェンス越しに数人のボンゴレお抱え術士たちが見え、彼らの幻術によって直っているように見せられているのだと気がついた。つまり今立っている場所も、もしかしたら床はないのかもしれない。そう考えると恐ろしくなり、これまた違った意味での恐ろしさを感じながら、綱吉は二年六組の中を覗いた。雲雀はいないようだが、スクアーロはいる。この二人を同じクラスにした教師は、何を考えていたのか聞いてみたいと綱吉は思う。了平と一緒の方がまだマシだろうに。
「・・・・・・スクアーロさーん」
とっても小声だったのだが、銀色の髪がぴくりと揺れ、呼ばれた本人が振り返る。リング戦のときと比べて短くなっている髪が、尻尾のようにぴょこんと揺れた。二年六組の生徒たちは、めいめい食事を取りながらも彼らのやりとりを見守っている。元から雲雀のいるクラスなのだ。他の組より問題児への耐性がついているらしい。
スクアーロは立ち上がり、綱吉の元へと足を運ぶ。あーやっぱり沢田が特別なんだなぁ、と二年六組生徒たちは思った。一年の沢田綱吉という男子生徒は多くの変わった輩と騒動に巻き込まれがちだが、彼らから一様に特別視されている。それは獄寺のように忠信だったり、雲雀のように獲物だったりと様々だけれども。
「何だぁ?」
「あの、一緒にお昼食べません? 母さんがスクアーロさんの分も作ってくれたんで」
「う゛おぉい、その『スクアーロさん』っての止めろ。俺はおまえの部下だ。部下に敬称つけてるドンなんて格好がつかねぇだろぉ」
「え、でも・・・・・・」
ドンですって。ドンですって。聞きました、奥さん? ドンって何のドンかしら。もしかしてマフィアのドンかしら? まぁ恐ろしい! なんてこと!
心の中でそんな会話を交わしつつも、生徒たちに恐ろしがっている様子は見られない。スクアーロが綱吉の抱えている弁当を代わりに持ってあげたりするものだから、挙がるのは恐怖の悲鳴ではなく「スクアーロさんって優しい!」という女子生徒の歓声だ。身長差のある二人を見送り、二年六組一同も心のノートを開く。雲雀の項目が多く並んでいるそこに、蛍光ペンでスクアーロの名前が書き込まれた。沢田の部下らしい、とも。



ところ変わって一年三組では、スクアーロを引き連れてきた綱吉を迎えて、少し遅めのランチがスタートしていた。ちなみに机を囲む面子は二人の他に、獄寺と山本、そして新入りのベルフェゴールだ。広げられた奈々手製の弁当に外国人二人が「おお・・・!」と感嘆する。和食を意識して作ってくれたらしく、具だくさんの巻き寿司や白身魚の照り焼き、煮物などが所狭しと詰まっている。さっそくぺろりと巻き寿司を飲み込んだベルフェゴールが歓声を上げた。
「すげーうめー! これ、俺の国のコックより絶対美味いって!」
俺の国のコックって何だろうと、クラスメイトたちはちょっとだけ思った。もしかして彼の頭上に鎮座している王冠は、本物だったりするのだろうか。
「う゛おぉい、マジでうめぇな。イタリア料理よか全然いけるぜぇ」
「あはは、母さんに伝えときます」
朗らかに綱吉は笑うが、内心でまた母親の料理のファンが増えたと思った。第一号かもしれない雲雀は最近では週末に自宅を訪れることも多く、その際には必ず一食は共にしていく。君のお母さんには世話になってるしね、とお歳暮を手渡されたのは記憶にとても新しい。チョイスギフト三万円。
「そういやさーおまえたち、部活はもう決めたのか?」
山本が自身のおにぎりを食べながら聞いてくる。具はどうやら卵焼きらしく、ちょっと面白いと綱吉は思った。
「綱吉は入ってんの?」
「俺は入ってないよ。予習復習とリボーンの特訓で精いっぱい」
「じゃー俺も入んない」
ベルフェゴールはあっさりとそう言ったが、クラスメイトたちは綱吉の台詞の方が驚きだった。沢田、ちゃんと予習復習をしてるんだ。あーだから授業で指されても答えられるし、定期テストでも50番以内に入ってるんだ。何だ、すごいじゃん、とクラスメイトたちは思う。それだけ努力できるのはすごい、とも。
「おまえは剣道部だろぉ? それともフェンシングかぁ?」
スクアーロが行儀悪くフォークで山本を指示すが、あっさりと首を横に振られる。
「いや、俺は野球部。四番を任されてんだ」
「―――あ゛ぁ!? 野球部!? 何でてめぇがそんな部活に入ってんだぁ!」
「仕方ねーだろ? 時雨蒼燕流は学校じゃ使えねぇし、それに俺はもともと野球小僧なんだよ」
今年は無理だったけど、来年は甲子園に行くぜ、と山本は爽やかに宣言する。彼らの会話内容から、山本は剣を振るうのだろうとクラスメイトたちは推測した。そういえば、彼はバトルの際に常に日本刀を構えている。バットが一瞬で刀に変わる、イリュージョンの使い手だ。獄寺はダイナマイトの使い手で、雲雀さんはトンファー、笹川兄は素手。そして意外にも沢田も素手、と考えたときにクラスメイトたちはハッとした。思い出してしまったのだ。昨日、降臨した「ビューティーツナ」を。
あれはすごかった。素晴らしかった。女子だけでなく同じ性別を持つ男子だって見惚れたほどだ。それほどまでに「ビューティーツナ」は麗しかった。確かに綱吉は良く見れば整った顔立ちをしていると気づくけれども、「ビューティーツナ」は遠くからでもその美貌が見て取れたのだ。わずかに目を細め、表情が少しだけ控えめになり、言葉遣いが乱暴になる。そして目に見えない速さのバトルを繰り広げていた雲雀とスクアーロを、一撃で仕留めておとなしくさせるほどの実力の持ち主。あれが沢田の本性ならば、こんなにおかしな輩を引き付けるのにも納得がいく。並高生徒たちはそう思っていた。密やかに結成された「クールビューティー沢田綱吉の降臨を望む会」は、昨日の今日だというのに、すでに会員30名を突破している。
「何ならスクアーロも野球部に入るか?」
「ふざけてんじゃねぇぞぉ。俺たちは綱吉の護衛をするために日本に来てんだ。遊んでる暇なんかねぇ」
「十代目は俺が守る。てめーらなんか信用出来るか」
「あっは! 俺に負けたくせによく言うよ」
「あぁ!? 果たすぞてめぇ!」
「あーはいはいはい、獄寺君もベルも、喧嘩しないでって俺言ったよね?」
勢い良く立ち上がった獄寺と、フォーク片手のベルフェゴールの間に綱吉が割って入る。けれどもクラスメイトたちは目撃した。ベルフェゴールの左手には、ナイフが一本握られていたのだ。食事をするにはいくらイタリア料理でも不向きと思われる、むしろサバイバルで熊の毛皮を剥いで捌くのに用いそうな、そんなギザギザナイフ。なるほど、彼はナイフを使うのか。クラスメイトたちは心のノートに書き込んだ。物騒だとも書き込んだ。
「ほら、早く食べないと昼休み終わっちゃうよ」
優しく仲裁する綱吉によって、和やかなランチタイムが戻ってくる。どうやら「ビューティーツナ」は発動しないらしく、クラスメイトたちは心中でそれぞれ舌打ちをした。彼の降臨は雲雀の「ワォ」よりもレアかもしれない。果たしてシャッターチャンスを逃さず、携帯カメラで取れるのか。

二月を迎える頃には、「クールビューティー沢田綱吉の降臨を願う会」は会員100名を突破した。伝説の会員ナンバー27(つな)は、某風紀委員長が獲得したともっぱらの噂だった。





雲雀さんは(クール)ビューティー(沢田)ツナ(吉)とバトりたいそうです。そういう意味で降臨を待っているのです。
2006年12月22日(2007年3月27日再録)