05.ラブジェネレーションT
入学式から二ヶ月。ようやくクラスが慣れ始め、新入生たちもそれなりの交友関係を築き上げる頃。本命が決まり始めるのも、この時期だった。
「えーやっぱ獄寺君でしょ! すっごいカッコイイじゃん。彼女になりたーい!」
女生徒の黄色い声が響く。あはは、と笑う者、頷く者、少し首を傾げる者と反応は様々だ。
「確かにカッコイイよね。イタリア人とのハーフなんだって? お姉さんも超美人って並中の子が言ってたよ」
「うっそ、ほんと!?」
「しかも家はお金持ちなんでしょ? あのシルバーアクセ、めちゃくちゃ高いやつじゃん。バイトもしてないみたいだし、住んでるの、駅前の高級マンションらしいよー?」
「えー! あたし、マジで狙おうかな! 目指せ、玉の輿!」
「あはは、競争率高すぎだって。顔よし頭よし運動神経よし、でもって金持ちだよ? 狙ってる子多いに決まってるって」
「そうだよねー」
高い声で喋りながら、会話はどんどんと移っていく。けれど中心はすべて同じだ。つまりは「本命」の話である。
「でもさー狙ってる子の数なら、山本君だって負けてなくない? 野球部のエースだし、背も高いしさぁ」
「あ、山本君! カッコイイよね!」
「あんたミーハーすぎ。確かにカッコイイのは認めるけど」
「一年で四番だもんね。中学のときも野球でいいとこまでいったんでしょ? 優しいし、爽やかだし」
「獄寺君はちょっととっつきにくいけど、山本君は話しかけやすいよ。あたしこの前、消しゴム落としたの拾ってもらっちゃった」
「うそ! ずるーい!」
「いいなー席近くて」
抜け駆け、などと軽く笑いあっているうちはいい。これが本格的な問題になってくると、女というのは男の想像を絶する生き物と化す。友達より彼氏、なんて判断基準はすべての女に当てはまるのかもしれないくらいだ。
「あとカッコイイのって言ったら、顔だけなら笹川先輩と・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・雲雀、さん?」
「やっぱりぃ!?」
「雲雀さん、カッコイイよね!」
「怖いけどカッコイイよ! 顔だけなら並高で一番だって!」
どこか恐る恐る漏らされた呟きに、次の瞬間爆発的な歓声が上がった。例え相手が風紀委員長だろうと歩く脅威だろうと並盛の暴君だろうと、外見がカッコイイものはカッコイイ。そう割り切れるところにやはり女の強みがあるのかもしれない。
いつもはそうそう出来ない雲雀の話題で盛り上がり、その他めぼしい男子を挙げては批評していく。かなり辛辣なコメントなどもあったりしたが、自分たちのことは棚に上げて、なんてことは言ってはいけない。異性の話題で盛り上がるのは、男女ともに同じはずである。そろそろ並高美形リストが完成しようかというとき、一人の女生徒がぽつりと呟いた。
「あのさー・・・・・・これ、もしかしたら私の気のせいかもしんないけど」
歯切れの悪い言葉に、他の少女たちは首を傾げる。女生徒は僅かに視線をさまよわせ、少しだけ小さな声で名を挙げた。
「・・・・・・沢田って、結構よくない?」
「・・・沢田って、あの沢田?」
「獄寺君や山本君と一緒にいる?」
「あの沢田?」
「・・・・・・ん、その沢田」
頷かれて、少女たちも件の少年を思い描く。浮かんできたのは何故か困り顔だ。次いで茶色の髪や小さな背丈が思い出される。
「あー・・・確かに結構可愛い顔してるよね、沢田。目ぇ大きいし」
「髪、綺麗な茶色だよね。染めてるって感じはしないんだけど」
「何気に運動神経いいしね。あ、そういえばこの前の中間テスト、順位二桁だったって聞いた」
「400人中二桁? すごいじゃん!」
「何でも家庭教師つけてるんだって」
「うそ、沢田も何気にお坊ちゃま?」
ぽつぽつと話題が提供されていく。それなりにチェックが入れられているのは、彼女たちが秘密裏に好みだったせいか、それとも件の沢田綱吉が並高での有名人になりつつあるからか。比重は不明だが、話はまだまだ続いていく。
「そういえばさ、沢田が雲雀さんのトンファー受け止めたって噂、マジなの? あたし見てなかったんだよね」
「あ、それホント。あたし見てた。すっごかったよ! 素手で止めるんだもん。しかもその後の攻撃も全部避けてたし」
「沢田、何気にいい身体してるよね。体育のとき見たけど、腹とかちゃんと割れてるし。細いのに全然なよっちい感じしないの」
「あんたどこ見てんのー!? あーでもそうなんだ。今度あたしも見てみようっと」
「背は低いけど、これから伸びるだろうしぃ」
「性格悪くないよね。ちょっと腰低いけど、基本優しいし、雲雀さんに結構意見も言ってたし」
「マジ狙うなら沢田? 案外競争率低くていけるかもよー?」
「あはは、狙っとくー?」
その言葉が先ほどの獄寺のときより僅かに真剣味を帯びていたのは、やはり手が届きそうだと思われたためか。あんた狙いなよー。えーあんたいきなよー。私いこっかなー。などと好き勝手に話しながら、女生徒たちは並び立ってその場を後にする。水洗レバーを押し流し、個室から出てきた黒川花は、呆れたように溜息を吐き出した。
「まさか、あのダメツナがもてる日が来るなんてね。まったく、世の中ほんと分かんないもんだわ」
花の隣で、笹川京子はポケットからハンカチを取り出し、唇で軽くくわえる。蛇口をひねって手を洗い、鏡を見ながらはねる髪を整えた。
「そんなことないよ。ツナ君はずっと格好いいもの」
「あーはいはい、京子くらいよ、そう言うの」
花もポーチを開いてグロスを取り出し、手際よく己の唇を塗り直す。素顔でも可愛らしい京子とは違い、飾ることを必要とする自分を花はちゃんと知っている。別に京子をうらやんだりしようとは思わない。化粧も女の武器の一つだと彼女は思っているからだ。
「それで? 京子はどうすんの?」
にやにやと笑って親友を振り返る。少しだけ眉根を寄せている京子に、よい傾向だ、なんて花は思う。沢田綱吉が四年越しで京子に惚れているのは、彼女の目からすれば一目瞭然だ。高校に入り、彼が違う形で目立ち始めたのが意識改変のきっかけになればいい。今ならそこそこ祝福してあげるわよ、なんて心中で花は綱吉にエールを送る。薄い色付きリップを塗り直し、京子は困ったように呟いた。
「・・・・・・ツナ君が格好いいのは、知ってるよ」
「うん」
「だからね、わたしもツナ君を見習って頑張らなきゃ」
鏡の中の自分に、京子はにこっと笑顔を向ける。天使みたいと評されることも多いけれど、それは彼女の本質ではない。京子は愛でられるばかりの女の子じゃない。しっかりと自分で歩く、実は気の強い性格をしているのだ。だからこそ花は彼女の親友をやっている。
「ツナ君と並べるような女の子になれたら、いいなぁ」
そうなれるように頑張る。続けられた言葉に、花は肩をすくめた。なんだかんだ言って結構お似合いなのかもしれないのよね、と思いながら。
トイレにて女の子トーク。高校時代はツナ京を押します。もちろんツナハルもツナ凪も含みつつ。
2006年11月23日(2007年1月7日再録)