ドン・ボンゴレには自称正妻が二人いる。
「普通、正妻は一人だろう」という正当かつ真っ当な突っ込みはボンゴレファミリーでは通用しない。
それは周囲の誰よりも件のドン・ボンゴレ自身がよく身に沁みて知っているからだ。





愛妻家の朝食





今日も今日とてドン・ボンゴレのプライベートルームには、甲高い声が響き渡っていた。

「ツナさんツナさん。今日の朝食のクロワッサンはハルとヒナがが作ったんですよ」
「はん、クロワッサンごときで何を言いますかこの小娘が。この僕が自ら現地に赴き吟味しさらには豆まで挽いて淹れたコーヒーにそのクロワッサンが敵うとでも?」
「なんですか、髑髏さん! 髑髏さんなんてホットケーキすら焦がしちゃうくせに偉そうです!」
「そ、そんなこと今は関係ないでしょう?」

部屋の面積に比べればずいぶんとこじんまりとしたテーブルの上座、いわゆるお誕生日席と呼ばれる位置に座っているのはもちろんボンゴレファミリー10代目であり、屋敷の主でもあるドン・ボンゴレで、その左右にはそれぞれ部類の異なる美女が侍っていた。
別に好きで侍らしているわけじゃない。むしろ一人にしてくれ、とこの状況をからかう者がいたなら即座に綱吉は泣きついたであろう。
タイプの違う美女二人は大岡裁きよろしくドン・ボンゴレの左右に陣取って玩具を取り合う子供のように彼の腕を引っ張っている。
ちなみに、黒髪の妖艶美女の方が「霧の守護者、クローム・髑髏」であり、東洋人特有の少女じみた顔立ちの愛らしい少女の方がボンゴレ内部のブレーン的役割を果たしている「三浦ハル」だ。
そして、その彼女らの更に向こうには朝っぱらから騒々しい大人達を無視するように黙々とお行儀よく朝食を摂る幼い男女の子供の姿があった。

「ベリージャムは?」
「ちょうだい。ねぇ、このクロワッサン美味しい? ヒナも作るの手伝ったんだよ」
「ん、美味しいよ。はい、ジャム塗ったよ」
「ありがとう」

はい、とジャムを塗ったクロワッサンを向かいに座った少女に手渡す少年は髪の色はドン・ボンゴレと同じハチミツ色。
姿形は少年のすぐ隣で彼らの父親の取り合いを続ける妖艶美女に似ていて、彼女の男性時代を知る同僚達等から「骸のミニチュア」と言わしめてしまうほどそっくり。そして、紛うことなく彼をクローム・髑髏の息子だと知らしめるのは右瞳に浮いた独特な印だ。
そしてまた、自分をヒナと呼んだ少女の方は父親と母親をいい感じにミックスしたかのように全体的な印象は母親にだがところどころパーツに父親譲りの類似点を見つけることができる。たとえば、柔らかくたれた目元とか。
このドン・ボンゴレの正当な血筋を受け継ぐお子様達は今日も今日とて父親とマフィア界の重鎮であるボンゴレファミリーのボスの威厳とか威厳とか威厳とかその他諸々が砂の城よろしくがらがら(さらさらと、のが正しいかこの場合?)と崩れ行く場面を前に和やかに父親と母親'sのやりとりをスルーして朝食を頂いていた。
慣れると煩いのも気にならないよ?というのはヒナの言だったか。

「パパもいい加減慣れればいいのにね」
「無理でしょう」
「ママもひとつのものは仲良く半分こしなさいねってヒナ達には言うのにね」
「まぁ、あの人は半分こできないから仕方ないんじゃない?」
「でも骸は読んでるご本をヒナが貸してっていったら一緒に読んでくれるのに」
「……大人気ないんでしょう、結局」
「ママも髑髏さんも、パパが大好きだものね」

ちょっと違う、と壁にそっと立って子供達の話を聞いていたマフィア界一の凄腕ヒットマンは思った。
いまだテーブルの向こうでは髑髏とハルがツナを巡って下らない口喧嘩を飽きもせずに繰り返しているし、綱吉は綱吉であさっぱらから毎日恒例のごとく行われるふたりの押しかけ正妻のやりとりにげんなりとしながらも、それでもきちんと行儀よく食事を摂っている。
すでに彼女らを止めるのは諦めて、たまには子供達とだけ三人でゆっくり朝食を摂ったり眠ったりしたいなぁ、なんて儚い夢をみながら。

「今日はハルの番でしょう?!」
「いいえ、このあいだ僕が出張でいなかったときの埋め合わせはしてもらいますよ。どうせ、抜け駆けしてヒナを口実に綱吉君のベッドに押しかけたんでしょうから」
「うっ」
「ほぅら、やっぱり。だから、今日は僕が綱吉君と寝る番です!」
「いやですいやですいやですー!! 今日はハルの番なんです、ここ数日ツナさんだって忙しくてろくに相手してくれなくてずっとヒナと骸君と三人だったのに。今日こそ、今日こそハルはツナさんと二人っきりで夜を過ごすんですぅぅ!!!」
「そんなこと知りますか!」

ぎゃぁぎゃぁ、ぎゃぁぎゃぁ。
彼女らの子供みたいな喧嘩は留まることを知らないどころか、さらに今晩の綱吉独占権のやりとりにまで至っている。
ちなみに綱吉本人への許可はない。

「ごちそうさま」
「ヒナも、ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした。ふたりとも、こういう大人にだけはなっちゃいけないよ……」
「……」
「はぁい?」
「それと、今夜は父さんと骸とヒナの三人だけで寝ようか?」



その番、ドン・ボンゴレ自室の豪勢なキングサイズベッドで眠ったのが三人であったか五人であったのかを知る者は当事者達ばかり。





チョウチョヤの渕崎ケウ様から頂きました。ありがとうございます・・・!
2006年9月25日