凪は学校に通っていない。事故で入院し、その最中に骸と出会ってからというものの、彼女は両親のいる自宅にさえ帰っていなかった。元々愛されているとは思っていなかったから、彼女は簡単に家族と縁を切った。
その後は家光に用意された隠れ家にて千種や犬と暮らしていたが、リング戦を終え、彼女は沢田家に居を移した。正確に言えば霧戦後に眠り込んでしまった彼女を綱吉がとりあえず自宅に連れ帰ったら、そのまま居着いてしまったのである。
凪自身は申し訳ないからと辞退したのだが、彼女の境遇を聞いた奈々は強固に一緒に住むことを提案した。何より同じ子を持つ親として許せないところがあったのだろう。
そうしてかなり強引にだけれども、凪は沢田家の住人になった。おとなしい彼女は奈々に家事を習い、ビアンキに勉強を教わり、フゥ太やランボ、イーピンの相手をしながら、ゆったりと温かな時間を過ごしている。最初はどうしたものかと思っていた綱吉も、だんだんと増えてきた凪の笑顔に、まぁいいかと現状を受け入れていた。
おはよう、と君が笑う
今日も今日とてリボーンによる目覚ましのおかげで、綱吉は余裕を持って起床した。以前はパジャマのまま朝食を取っていたのだけれど、今は凪がいるので先に制服に着替える。「色気づいてんな」とゼロ歳児に言われ、「うるさいよ」と返したのは記憶に新しい。教科書とノートでぱんぱんの鞄を持って階段を降りれば、キッチンの凪がすぐに気づいて振り向いた。
「おはよう、ボス」
「おはよう、凪」
ボス呼びは止めてほしいと何度も言ったのだが、何故かこれだけは直らないので、綱吉もいい加減諦めている。薄ピンク色のエプロンをしている彼女は綱吉に席を勧め、いそいそとご飯を盛り付ける。すぐに温められた味噌汁も並べられ、焼きたての鮭と玉子焼にほうれん草のおひたしの立派な朝食が始まった。
いただきますと手を合わせて綱吉が食べ始めると、凪も向かいの席で手を合わせてから食べ始める。ちびっ子と奈々は先に済ませているので、最近ではもっぱら二人で朝食の席を囲んでいた。
「あ、玉子焼にめんたいこが入ってる」
箸でつまんだ黄色いふわふわの中に紅色の粒を見つけ、綱吉は手の込みように感心した。
「ボス、めんたいこ嫌い?」
「いや、嫌いじゃないよ。これも美味しいし、凪の料理の腕もずいぶん上がったよなぁ」
味噌汁もちょうどよい塩加減だし、鮭はパリパリで美味しいし。そう続けると凪は安心したようにふわっと笑った。派手ではないけれど可愛らしいその笑顔に、綱吉は思わず頬を赤くする。
会話は多くないけれど、流れる空気はとても優しい。綱吉が何一つ残すところなく完食し、食後のお茶も飲み終われば、凪は「お粗末様でした」と頭を下げた。
その後は歯を磨いて顔を洗って、頃合を見計らって準備を終える。インターホンは鳴らないけれど、今日も獄寺は門扉で待っているのだろう。毎日繰り返される待機の言い訳を、綱吉はいっそ見事だと思い始めていた。鞄は、と思って見回せば、すでに凪が両手に抱えて玄関で待っている。
「ありがとう、凪」
「いってらっしゃい、ボス。気をつけて」
「うん。凪もチビたちのこと頼むよ」
靴を履いて鞄を受け取れば、凪の手がそっと伸びてきてワイシャツの襟を正す。段差故に近くなった目線で、二人は互いに微笑み合った。
「いってきます、凪」
「いってらっしゃい、ボス」
玄関のドアを開ければ、すぐに獄寺の威勢の良いあいさつが聞こえてくる。そんな彼らの様子を縁側で眺めながら、リボーンは呆れたように呟いた。
「・・・・・・まるで夫婦だな」
洗濯を干しながら、奈々とビアンキがそれぞれ微笑ましそうに笑みを漏らしていた。
mixi日記より再録。
2006年10月18日