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XANXUSのマンションを出てすぐ、リボーンは二本の電話を入れた。それはどちらもボンゴレ経由の知り合いだったけれども、彼らは見計らったように日本にいた。これは誰の運が引き寄せているのか。リボーンは眉をしかめたけれども、すぐに指示を出して電話を切る。
ヴァリアーが手を出してくるとすると、守護者の中でも危険なのは獄寺とランボ、そして骸だ。ヴァリアーをまとめている沢田綱吉は、巻き込まれた形の一般人まで殺すような男ではない。それなりに痛めつけ、二度とマフィアなどに関わらないよう警告する。甘いかもしれないが、マフィアは住民を守るのも仕事のうちだ。適切な処置に舌打ちせずにはいられない。―――そう、相応しいのだ。

沢田綱吉は、誰よりドン・ボンゴレに相応しい資質を兼ね添えていた。





コーヒーと内緒話





獄寺はシャマルに任せた。骸は仲間がいるし、ある意味マフィアとの戦いに慣れているから大丈夫だろう。リングに対する興味もさほどなさそうだったから、身に危険を感じればすぐ引き渡しに応じてしまうかもしれない。けれどそれでいいと判断し、リボーンは残るランボを探していた。
「ちっ! あの牛、どこにいやがる」
自分を追って現れたヒットマンだが、うるさいだけのランボはリボーンの眼中にはとてもじゃないが入っていない。それでも守護者に任じたのは、将来性を見越してのことだった。ランボの持つ性質は、雷のリングに相応しい。だから生きて成長してもらわなくてはならないのに、こんなときに限って牛柄の洋服はリボーンの前に現れない。いつもは面倒なほどにバズーカを構えて突入してくるというのに。使えねぇ、と呟いてリボーンは足を早めた。
刹那、彼の鼻がとらえたのは、錆くさい血の臭いだった。

雲雀恭弥は、リボーンが並盛に来て、初めて目をつけた男だ。年齢はXANXUSと同じ。公立高校を卒業した後、学生時代に築いた人脈を駆使し、手広く何だかの商売を繰り広げている。部下や取引相手はまともじゃない人間ばかりだけれども、それを黙らせる力を持っている雲雀を、リボーンはいたく気に入っていた。群れている輩を噛み殺したがるのはよろしくないが、肋骨を何本折られようが気に入らない相手には戦いを挑み続ける、バトルマニアと評してもいいその性格は、いっそ見事だと思っていた。

その雲雀が、今は地に倒れ伏していた。
止めを刺すように、両足を撃ち抜こうとしている機械の指先。
反射的にリボーンは、愛銃のトリガーを引いていた。



超直感は、こんなときとても便利だ。特に綱吉のそれは九代目を凌ぐほどの冴えを備えており、彼は「ゴーラの居場所はどこだろう」を思うだけで、何となく彼がどの方向にいるのかを知ることが出来る。行く先を定めない足取りは確かなもので、舞うようにひらりひらりと先を進んだ。
そしてたどり着いたのは、学校と思われる建物の校庭だった。弾ける火花を発見し、綱吉は素早い動作で両者の中央に躍り出る。長いコートが銃弾を弾いた。
手先を破壊され、フードに穴をいくつか開けている部下。
倒れている青年をかばいながら、こちらに銃を向けている赤子。
細めた瞳で彼らを識別し、綱吉はゴーラに配されていたチェルベッロの少女を振り返る。
「経過は?」
「雲雀恭弥は戦闘不能とみなし、試合はゴーラ・モスカ氏の勝利です。雲のリングも彼のものとなりましたが、XANXUS側第三者の介入により、戦闘が続行しておりました」
「ふぅん・・・・・・」
ちらりと値踏みするような視線を、綱吉は赤子に移す。スーツの上下に、握られている拳銃。帽子の上に鎮座しているカメレオンが場に不釣り合いだったけれども、それが誰だかはすぐに察せられた。
「ファミリー内の争いだし、おまえは手出しすることが出来ないはずだけど?」
「ずいぶん唐突に戦端が開かれたからな。修業不足の生徒を保護するのも教師の役目だ」
「それは理由にならないよ。おまえの私情」
くすりと綱吉は笑う。そこら辺にいる少年と何ら変わらなく見えるのに、彼は独特の雰囲気を持っていた。キャラメル色の髪に、はちみつの声。飴玉の瞳に、ココアの香り。幼く愛らしい顔立ちは、けれど冷静に現状を告げる。
「だけどそれを知ってたからこそ、俺は唐突に戦端を開いたんだよ。おまえの選んだ守護者は、修業を積めば誰もみな素晴らしい力を手に入れるだろう。だから俺は日を置かずに戦闘を仕掛けた」
「怖いのか? ヴァリアーのボスともあろう奴が」
「変わらないと思ってるんだよ。守護者がどうであれ、十代目候補はジャン・・・ジャン・・・・・・ザン、ジャス? だから。あいつはドン・ボンゴレに相応しくない。おまえがどう教育しようと、相応しくなるとは思えない。不穏な芽を刈り取るのは早い方がいいし、ファミリーにとっての不安定要素は常に取り除くべきだと俺は思ってる」
名前がうまく発音できず、そこだけ年齢よりも幼く感じさせる。それをごまかすようにへらっと笑い、綱吉はチェルベッロに視線を移した。意を汲んで頷いた少女がぴくりとも動かない雲雀に歩み寄り、ポケットを漁ってリングを見つけ出す。彼女は綱吉の前まで戻り、ひざまずいてそれを差し出した。
「雲のリングです。見事な勝利、おめでとうございます」
「ありがとう。でもそれはゴーラに言うべきだよ」
部下を振り向き、綱吉は笑う。自分よりも大きく、ガスマスクで表情を見せないゴーラだけれども、綱吉には彼の感情の動きが手にとるように分かった。ヴァリアーは凶暴な集団だとされているけれども、綱吉にとってはかけがえのない仲間なのだから。
「ゴーラ、君のリングだ」
銃弾を受けたせいで壊れてしまっている手に、小さなリングをそっと載せる。銃器であるこの指にはとてもじゃないがはまらないだろう。けれど大事にしてくれるだろうことを綱吉は知っていた。左手で壊れた手を包み込み、しっかりと指輪を握らせる。それは誇らしげな横顔だった。
「これで、大空のリング以外はすべて揃った」
振り向き、綱吉はリボーンを笑う。
「ちょうどいいから、ジャンジャスに伝えといて。明日、この時間に、ここで待ってる。蹴りをつけよう」
「・・・・・・テメーは、何で九代目がテメーを十代目候補から外したのか知ってんのか?」
「知らないよ。教えてくれなかった」
眉を顰め、すねたように唇を尖らせる。表情のよく変わる少年だとリボーンは思った。けれど、ヴァリアーのボスの評判は聞いている。幼さと冷酷さ、そのどちらもが「沢田綱吉」なのだろう。二面性に両立は実に見事。部下とチェルベッロを従えて綱吉は手を振った。
「じゃあ、ジャンジャスに伝言よろしく」
「ザンザスだぞ、ダメツナが」
「うるさいなぁ。呼びにくい名前つけた奴が悪いんだろ。改名しろって言っといて」
ひらりとコートの裾が舞った。向けられたのは、冷ややかな美しい微笑。
「A domani、リボーン」(イタリア語:また明日)
最後の最後はヴァリアーのボスらしく締めていく。要所要所での緩急のつけ方も上手く、飴と鞭を知っている。素晴らしいと、リボーンは珍しく感嘆に口笛を鳴らした。

闇の中、気配が消えていく。
決戦は明日。





ビジネスライクなお付き合い。
2006年11月7日