その影は、ゆるやかにXANXUSの前へと降り立った。気配はない、音も匂いもない、視覚だけが認識をする。キャラメル色の髪が路地裏の闇に映え、はちみつのような声が車の排気ガスよりも鮮明に響く。
「俺の名前は、沢田綱吉。XANXUS、おまえに決闘を申し込む」
強さを宿す瞳はまるで飴玉のように大きく、ネオンよりも華やかに咲く。

「俺が勝った暁には、ボンゴレリングを返してもらう。・・・・・・おまえは十代目に相応しくない」

幼い顔立ちとは裏腹に、発される空気は切り裂くかのように鋭い。只者ではない少年の気配に、XANXUSは珍しく唇を吊り上げる。
それが、ヴァリアーのボスとボンゴレ十代目候補の、初めての邂逅だった。





飴玉とラブソング





半月前から、XANXUSの周囲にはおかしな輩がうろついていた。マフィアがどうとか言う彼らの筆頭は、リボーンという名の赤ん坊だ。一歳児でありながらも上下黒のスーツに身を包み、流暢に言葉を喋り、そして何より日本では使用出来ないはずの拳銃をいとも簡単に使いこなす。
そんな赤ん坊は、よりにもよって家庭教師という名目でXANXUSの前に現れた。しかもそれが「ボンゴレファミリーの十代目にしてやるぞ」ときたものだから、鼻で笑う以外にXANXUSは何をするべきだったのか。優しく話を聞いてやれ? 冗談じゃない。うざいと暴力を振るったが、赤ん坊は簡単にそれを避けた。興味深く思ったけれども、それだけ。子供の遊びに付き合うほど暇ではない。そうして今まで放置してきたのだけれど、状況が変わった。
「おい、餓鬼」
久しぶりに帰った自宅マンションでは、どこから入ってきたのかリボーンが我がもの顔でエスプレッソを飲んでいる。この赤ん坊がXANXUSの行く先々で姿を見せるのは、すでに日常になり始めていた。
「リボーンだぞ。もしくは『先生』と呼べ」
「てめぇ、リングがどうとか言ってたな。そいつを俺に寄越せ」
XANXUSの言葉に、リボーンは帽子の下で片眉を上げた。以前に渡そうとしたときは「いらねぇ」の一言で片付けたというのに、どういう気の変わりようか。読心術でXANXUSの思考を知り、リボーンは思わず舌打ちをした。
「・・・・・・あの馬鹿」
「あぁ?」
「今のテメーじゃ沢田綱吉には勝てねぇぞ。あぁ見えてヴァリアーの頭張ってんだ。踏んできた場数はテメーの比じゃねぇ」
「知ってんのか、あいつを」
XANXUSはずかずかとリビングに入ってきて、乱暴にソファーに腰を下ろす。ローテーブルの上に放られた足を一瞥し、リボーンはスーツの内側から愛銃を取り出した。黒光するそれを撫でながら冷ややかな声で説明する。
「テメーの父親であるボンゴレ九代目の遠縁の親戚だな。つまりテメーの親戚でもある。門外顧問だった父親が事故で妻と共に死んで、それからは九代目が面倒を見てきた。今はボンゴレ独立暗殺部隊のボスだ」
「あんな餓鬼が?」
「外見で判断するな。相当やるぞ」
リボーンは忠告するが、XANXUSにはとてもじゃないがそうは思えなかった。確かにあの路地裏での気配は、少年が只者ではないことを示していたけれど、それが戦闘力に繋げられるかと聞かれれば答えはノーだ。キャラメル色の髪にはちみつの声、そして飴玉の瞳は戦うよりも守られる側の生き物に見える。少なくとも力で負ける気はしない。
XANXUSはそう思い、にやりと唇を歪ませた。リボーンはエスプレッソを飲み終え、椅子からひょいっと飛び降りて玄関に向かう。
「リング守護者たちに注意を促してくる。沢田綱吉が来てるってことは、ヴァリアーの幹部らも来てるってことだからな」
「ハッ! そんなもん必要ねぇ」
振り向けばXANXUSは、ソファーに身を預けたまま笑っている。すさんでいる目は自分しか信じていない。それはマフィアのドンとして必要な一面でもある。―――けれど。
「・・・・・・今のテメーじゃ、あいつには勝てねぇ」
小さく呟き、リボーンはマンションを後にした。夜の街に、漆黒のスーツが溶けていく。思い出すのは、飴玉の瞳。幼い肢体。そして、強さと優しさを秘めた少年の姿。

「ダメツナが・・・・・・っ!」

再度した舌打ちは、決して疎んでいるものではない。どこかやるせなさを帯びているそれに、帽子の上で緑色のカメレオンがちろりと舌をひらめかせた。





ツナとリボーンは互いの存在くらいは知ってる程度の仲です。
2006年9月29日