Last.改めて





緑が色を濃くし、太陽が光の強さを増していく。高い青空に白い雲。梅雨を越えて迎えた日本の夏を、綱吉は存外気に入った。制服というのが良い。半袖になったブラウスにリボン。デザイナー物ではないけれど、これはこれで可愛らしい。京子や花、出来た友達。正直ファミリーの一端を任せられるような存在ではないけれど、その分損得なしで付き合うことの気楽さを知った。授業は退屈だけど、逆にそれが面白い。手を抜いても優秀だと褒め称えられる度に、何だか妙に可笑しくて笑ってしまう。バジルの作る料理は相変わらず美味しいし、最近は日本食のバリエーションも増えてきた。布団は最高。寝返りをうっても落ちないのが素晴らしい。
雨のリングを持つ守護者、山本武。彼の運動能力と明るいおおらかさは、後にファミリーにとって欠かせないものとなるだろう。今はまだ弱いけれど、彼はきっと強くなる。
晴のリングを持つ守護者、笹川了平。京子の兄である彼は豪快な人物だった。リング上で戯れに拳を合わせた自分に心酔し、共にボクシングをしようと誘われた。
雲のリングを持つ守護者、雲雀恭弥。どんなに差を見せつけようとも、彼は自ら牙を収めなかった。孤高にも近いプライドは清々しくさえあり、学校を治める有能さは言うまでもない。今は大人しくしているけれど、いつかまた戦うことになるだろう。屈する自分を許さない、そんな目を雲雀はしている。
「・・・・・・いいね。みんな可愛い」
くすりと笑い、綱吉は日本での生活を謳歌していた。季節はもうすぐ本格的な夏を迎える。



明日から夏休み。終業式を控え、綱吉は中身の大して入っていない鞄を開けた。自室としている和室の中、箪笥からお気に入りのキャミソールとカットソー、スカートを取り出す。これは十日ほど前に京子とショッピングに出かけた際に買ったものだ。他にも昨日発売の雑誌に、遊びに行く約束をして買った水着。サンダルやミュールなど、学校とは関係ないものを綱吉はどんどんと鞄に突っ込んでいく。
「バジルも置いていきたくないものは持っていった方がいいよ。たぶん今日、あいつが来るから」
「あいつ・・・・・・?」
バジルは首を傾げたが、察するところがあったのかすぐに支度を始めた。入道雲の炎天下、アスファルトが蜃気楼を作り出す。



終業式も無事に終わり、生徒を一喜一憂させる通知表が配られる。
「ツナ君、どうだった?」
「んー・・・よかったと思う。先生からの一言が『来期は是非委員会や部活に参加して下さい』だって」
「沢田、何でも出来るしね」
綱吉もオール5の通知表を手にして京子や花と笑いあっていたが、その間も彼女の超直感は働いていた。どんどんと近づいてくる気配に小さく肩をすくめる。教師の言葉を頂戴しているうちにプロペラ音まで聞こえてきて、思わず舌打ちをした。あまりに近すぎるそれに生徒たちも騒ぎ出し、教師も不思議そうに窓の外を見ようとして、彼らは校庭に着陸しようとしているヘリコプターを目撃する。次の瞬間、二年一組の窓ガラスの一枚が真っ白に染まった。細かなヒビを蹴り破り、光と共に姿を現した少年に、誰もがただただ呆気にとられる。反射的に自分を背にかばった山本に綱吉は嬉しそうに唇を吊り上げ、その肩越しから侵入者を見た。帽子から靴まで、すべてを漆黒に染め上げた少年。約四カ月ぶりに見る姿に、思わず笑みが浮かぶ。山本の静止を振りきって前に出れば、幼く整った顔が極端に歪んだ。
「ずいぶん遅かったね? おまえの俺に対する愛ってこの程度のものなんだ?」
「そんなもん始めからねぇ。ふざけた真似しやがって、ダメツナが」
「俺が何しようがおまえには関係ないだろ?」
「俺はおまえの家庭教師だ」
「相変わらず進歩がないなぁ。『愛してるから心配だ』くらい言ってみたら? リボーン」
からかいの笑みを少年に向け、綱吉はそのままに教師を振り返る。
「先生。もう通知表ももらったし、帰宅しても構いませんか?」
「え・・・・・・あ、あぁ・・・・・・・」
「京子ちゃん、黒川。海に行く約束、ダメになっちゃった。ごめんね?」
にこっと友人たちに笑いかける綱吉の隣に、いつの間に来ていたのか二つの鞄を抱えたバジルが並ぶ。足元に揃えられたローファーに履き変えている綱吉に、京子が目を瞬いて尋ねた。
「ツナ君って・・・・・・一体・・・」
「あぁ、ごめん。言ってなかったっけ」
問いかけに両手を広げ、まるで始業式の日のホームルームと同じように、綱吉は笑う。

「改めまして、俺は沢田綱吉。イタリアマフィア・ボンゴレファミリーの10代目だよ」
―――今後ともヨロシク?

ウインクに込められた意味を理解したのだろう。山本がにかっと笑みを返した。先に姿を消したリボーンに習い、窓枠に足をかけて綱吉は笑う。
「それじゃみんな、また二学期に。 Ciao!」
鮮やかに飛び降りた彼女と一礼してそれに続いたバジルに、クラスメイトたちは窓際に駆け寄る。ずっとプロペラを回し続けていたヘリコプターは、三人を乗せるとすぐさま飛び去っていった。残されたのは砕け散った窓ガラスと、呆然とする並中生と、「弁償しますからこちらに請求して下さい」と置いていかれた名刺が一枚。そこには綺麗な文字が綴られていた。
『ボンゴレファミリー10代目 沢田綱吉』
真夏の蜃気楼は揺らめくけれど、それだけは揺るぎない真実だった。





ひとまずこれにて完結。お付き合い下さりありがとうございました!
2007年6月23日