05.二年一組





新学年の始まりと共にやってきた沢田綱吉という女生徒は、いまや二年一組の中で女王様的ポジションに君臨していた。別に彼女は暴力を行使しているわけじゃないし、クラス委員などのまとめ役に就いているわけでもない。
しかし沢田綱吉は支配者だった。彼女の完成された個性は、自己の形成しきっていない13・4歳の少年少女たちを引き付けるのに十分すぎるほどだったのだ。



二年一組の朝は、綱吉が登校することによってスタートする。それまでに生徒は何人も来ているが、彼らはあくまでもプロローグに過ぎない。綱吉が足を踏み入れることにより、その日の時間は回りだすのだ。
「おはよう」
共に登校しているバジルと別れ、綱吉が誰ともなしに挨拶しながら教室のドアをくぐる。自分の席へと向かう途中で声をかけられたら返事を返し、席についてからは京子や花と始業まで他愛ない会話をする。それがいつもの綱吉の朝の風景だったのだが。
その日は、違った。
「よぉ、ツナ」
ざわりと細波のように教室が揺れた。机に鞄を置き、綱吉は近づいてくる男子生徒に笑みを向ける。
「おはよ、山本」
「あのさ、今日は部活ねーんだ。一緒に帰ろうぜ」
「うん、いいよ。バジルも一緒でいい?」
「あぁ、もちろん」
爽やかな笑顔で放課後の約束を取り付けたのは、山本武。野球部のエースで勉強は得意ではないけれども人望が厚く、男女共に人気の高い人物である。
昨日まではたいして話もしていなかったはずの綱吉と山本の劇的な進展に、二年一組クラスメイトたちは蜂の巣をつついたように騒ぎだした。
「うそーっ! 何今の!?」
「まさか山本! おまえ沢田さんと付き合ってるのか!?」
「えー! やだそんなぁ!」
悲嬉交々の大歓声に、他のクラスは何事かと思っただろう。
山本も目をぱちぱちと瞬いていたが、綱吉はくすりと小さな笑みを漏らしただけで、真偽の程は述べようとしない。今ではそんな彼女の最も親しい友人の一人である花が、軽く肩をすくめながら二人に尋ねる。
「何? あんたたち付き合ってるわけ?」
誰もが聞きたかった問いに、息をひそめて返答を待つ。けれど色っぽい雰囲気とは無縁の爽やかな声で山本は笑った。
「ははっ! ちげーって、俺とツナは付き合ってねーよ」
ほっとした空気が流れたのも束の間。

「俺がただ、ツナに惚れただけ」

ワンテンポ、ゆっくりと五秒数えるほどの間があって。その次の瞬間、先ほどの数倍もの悲鳴が並盛中学に広まった。



あまりのうるささに、ホームルーム前だというのに駆けてきた教師によって、二年一組一同はお説教を受けることになる。ほとんどの生徒が話を右から左に流している中で、ふっと綱吉と山本の視線がぶつかった。にかっと笑う山本に、綱吉も唇をわずかに上げる。学校では見せない、支配者としての笑み。
山本の首には、チェーンを通した指輪が大切そうにかけられている。





並ぶとものすごく絵になる。爽やか野球少年山本と、飴色ロング美少女ツナ。
2007年6月23日