04.ラブレター・フロム・イタリア
綱吉が順調に一人目の守護者を見つけ、バジルが風紀委員と名乗る凶暴な男子と出会っていた頃。
遠く離れたイタリアの地では、一人の少年が怒りの権化と化していた。
「おいっ九代目! これは一体どういうことだ!」
留め金をぶち壊すほどの勢いでドアを開け、ずかずかと荒い足取りで歩み寄ってきた部下に、九代目と呼ばれた初老の男は目を細めた。
「どうしたとは、どうした?」
「しらばっくれんじゃねぇ! ツナはどこに行ったのかって聞いてる!」
「おや、綱吉なら今は自室で勉強している時間じゃないかね?」
「とぼけんのもいい加減にしろっ!」
だんっと思いきりテーブルが叩かれる。倒れたケーキとこぼれたコーヒーに、九代目の向かいに座っていた男が堪えきれない様子で噴き出した。
爆笑に変わったのを、侵入者はじろりと横目で睨みつける。
「家光・・・・・・!」
「く・・・っ・・・ぶはっ! 悪い悪い、リボーン・・・っ」
「・・・・・・笑ってる暇があったら答えろ。ツナはどこに行きやがった」
「綱吉ならば出かけているよ。そう、確か守護者を探しに行くと言っていたね」
穏やかな九代目の言葉に、リボーンと呼ばれた部下は眉をしかめた。まだ十歳程度の幼い顔が、あからさまな不愉快に歪む。
そんな様子を九代目はやはり穏やかな眼差しで、家光はにやにやとからかうような笑みで眺めやった。
リボーンは、綱吉の家庭教師だ。
容姿は幼く、実際にまだ11歳でしかない少年だが、その実力は外見からは想像もつかない腕前を持っている。
世界に七人しかいない「アルコバレーノ」の一人であり、生まれながらにして最強の強さを誇る彼は、今は九代目の命を受け、次代の当主となる綱吉の教育を任されていた。
スパルタとも呼べる肉体的罰を伴うリボーンの教えに、あの綱吉が素直に従うはずがない。毎日のように喧嘩をし、けれど実践を経て綱吉が優秀な教え子に育ってきていた、そんなある日。
九代目に別件の仕事を命じられて一週間ほど留守にしていたら、戻ったときにはすでに綱吉は屋敷から忽然と姿を消していたのだ。書き置きも、リボーンへの伝言も、たった一つも残さずに。
「守護者だと・・・・・・?」
リボーンの11歳にしては低い声音、普通の子供なら到底出しえない殺気にも大人二人は動揺しない。
「まさか、残る三人が見つかったのか?」
「いや。綱吉は『超直感』で大体の場所は掴めたから、後は行って確かめると言っていた」
「一人で行かせたのか!?」
「心配すんなって。バジルが一緒だ」
家光が挙げた名に、リボーンの眉がぴくりと跳ねる。その少年はリボーンも当然知っている。ファミリーの中でもトップクラスの強さを誇る、家光の弟子にして、幼い頃からの綱吉の護衛。
生真面目で礼儀正しい、綱吉の身を第一に考える彼がいれば最悪の事態は免れるだろう。けれど忌々しげに舌打ちし、リボーンは帽子のつばを引き下げる。
「・・・・・・それで、あいつらはどこに行ったんだ」
「さてね。何せ綱吉は優秀だから、盗聴機を仕掛けてもすぐに気がついてしまうのだよ」
「さすがは俺の娘だな。バジルはメールなんか使えねぇし、報告が来るとしたら文か」
「ちっ! 役に立たねぇ」
自らの教育が仇になっている。そんなことを考えながらきびすを返したリボーンの背に、九代目は優しく助言した。
「隼人に聞いても無駄だよ。あの子は綱吉に忠実な実に良い部下だ」
家光も笑いながら付け足す。
「ヴァリアーに聞いても無駄だぞー。ザンザスはツナの代理で忙しいしな」
「頼れる仲間ばかりで素晴らしい。これなら私も安心して引退できる」
「これも全部ツナの人望だろ。さすが俺と奈々の娘!」
後継ぎと娘の自慢話になってきた彼らに再度舌打ちし、リボーンは部屋を後にした。
楽しげに聞こえてきた笑い声がまた、彼を不愉快にさせていく。
「俺から逃げようなんざ100年早いってことを教えてやるよ、ダメツナが・・・・・・っ!」
吐き捨てて漆黒の少年は屋敷を出た。己のたった一人の主となる少女を探しに行くために。
アルコバレーノとツナ様、2歳差。
2006年6月20日