03.接触





綱吉はどうやら、日本という国を気に入ったらしい。
もともとイタリアで生まれ育ったけれど、彼女の両親は日本人だ。ただ何代か何十代か前にイタリアの血が入っており、それゆえの隔世遺伝で特殊な能力を持っているからイタリアで生きることを余儀なくされているだけで。
話に聞いていた日本に来れて嬉しいのだろう。毎日を笑顔で過ごしている綱吉に、バジルも自然と嬉しくなった。
今日も彼女の布団を片し、二人分の弁当を鞄に入れて、慣れ始めた通学路を並んで歩く。すでに桜は緑へと変わっていた。



実はバジルは『学校』というものに通うのが初めてだった。
存在は知っていたし、どういうところなのかも知っていた。けれどバジルは綱吉の父親である家光に才能を見込まれ、彼の元でずっと修業を重ねていたのだ。
綱吉の傍にいるようになってからは、彼女が家庭教師の授業を受けている間に自分で勉強していたので、『学校』に通うということはなかった。
加えて言えば、バジルは学校に通うことにより、初めて『友人』も出来た。ファミリーでも敵でもない、初めての『友人』が。
綱吉ほどではないが、バジルも日本での生活を楽しんでいた。綱吉と二人きりというのが、その理由の大部分を占めていることは否定できないけれども。
その初めて出来た友達と連れ立って廊下を歩いているときだった。次の授業の理科室への移動途中、何に気づいたのか友達の一人が恐怖の入り混じったような声を上げた。
「げっ! ひば―――・・・」
言葉は最後まで発されることがなかった。全身で感じた気配に、反射と経験がバジルを動かす。三メートルの位置で構え、現状を理解したときには友達はすべて床に転がされていた。
並盛中はブレザーが制服のはずなのに、何故か学ランを着た男子生徒が立っている。その手に握られている仕込みトンファーからは真っ赤な血が滴っていた。
「ワォ! 君、結構やるね」
「お主、どこのファミリーの者だ」
「ファミリー? 僕は風紀委員だよ」
言うが早いか、男子生徒は地を蹴って肉薄してきた。持っていた教科書やノートを投げ捨てて、バジルはその一撃を受け止める。痛みがわずかに骨に伝ったけれど、これくらいは慣れている。
唇の端を吊り上げた相手は楽しそうで、輝いた漆黒の目は獲物を見つけた肉食獣のそれだった。
「君、名前は?」
「・・・・・・怪しき者に名乗る名はない」
「へぇ、ますます面白い」
ふっと相対していた力を抜き、男子生徒は一歩下がった。
隙のない物腰は、そこらへんのヒットマンよりも格上のもの。
「僕は雲雀恭弥」
「・・・・・・バジルと申す」
「バジルね、覚えておくよ」
そう告げると、男子生徒―――雲雀はトンファーを軽く振って血を落とし、軽快な足取りで去っていった。
その後ろ姿に、バジルは信じられない面持ちで呟く。
「まさか・・・守護者・・・・・・?」



帰り道、いつもより口数の少ないバジルを知ってか知らずか、隣を歩く綱吉がどこか上機嫌に告げた。
「そういえば俺、守護者を一人見つけたよ」
はっと振り向いたバジルに、綱吉はつややかな笑みを見せる。
それは女子中学生のものではなく、一人の支配者としてのものだった。





真面目にバジルVS雲雀という、このマイナーさ・・・。
2006年5月28日