02.転入生





「沢田綱吉です。イタリアから来ました。日本に住むのは初めてなのでいろいろと不慣れなことも多いと思いますが、仲良くしてもらえると嬉しいです」
にこっと笑った転入生は頭を下げなかった。お辞儀という文化がイタリアにはないのかもしれない。けれどそんなことを考える隙すらなく、二年一組の男子生徒はこぞってその転入生に見入っていた。
そんな様子に女教師は苦笑を漏らしつつ、綱吉に空いている座席を示す。
「沢田の席はあそこ、笹川の隣ね」
「はい」
一つだけ座っている者のいない席に行く間も、視線はずっとついてくる。綱吉は当然ながらそれに気づいていたが、気にしてやるような可愛さを彼女は持っていない。むしろ見られることに慣れているので、平然と受け止めている。
席につくと、隣の女生徒がにこりと笑った。
「よろしくね、沢田さん」
肩よりも短い髪の少女は明るい笑顔を浮かべており、綱吉は純粋に「可愛いなぁ」と思う。
「よろしく、笹川さん。俺のことはツナでいいよ。名字で呼ばれるのって慣れてないんだ」
「私も京子でいいよ。よろしくね、えっと・・・・・・ツナ、君」
本来ならば女子につけるべきではない呼び名だろうが、綱吉は気に入ったのか満足そうに笑う。
「俺、まだ教科書持ってないんだ。京子ちゃん、よかったら見せてくれる?」
「うん、もちろん」
机を寄せ合って楽しそうに一つの教科書を覗き込む美少女たちに、その日の二年一組はそわそわしっぱなしだった。



沢田綱吉という少女は、小柄だけどバランスの整ったスタイルに日本人離れした甘い色の髪、大きな目や形のいい鼻、赤い唇などが抜群の感覚で配置されている、文句なしの美少女だった。笑う顔は愛らしく、放つ雰囲気は少し大人びているのか堂々としていて、それが容姿とのギャップになっている。美少女というよりは美女かもしれない。そう気づいた聡い者もいただろう。
加えて綱吉は頭も良かった。指名された数学の問題もたやすく解き、教科書の英文も教師顔負けの滑らかな発音で読み上げた。体育の授業でも彼女は優れた運動神経を発揮し、短距離走ではクラスの女子の中で最も速く、そのスピードは男子トップクラスだった。
非の打ち所のない綱吉は、すぐにクラスの人気者になった。女子からは親しげに話し掛けられ、男子からは照れが混ざった笑みを向けられる。それらすべてに笑顔で答える彼女は、やはり特別な存在だった。



「綱吉殿」
四時間目の授業が終了してまもなく、二年一組を見知らぬ男子生徒が尋ねてきた。
初めて見る彼の整った容姿に女生徒はひそやかに黄色い声を上げ、男子生徒は眉をしかめる。
しかし両者とも呼ばれた者の名に気づき、はっとしたように振り向いた。
京子と彼女の友人である黒川花と机を囲もうとしていた綱吉は、小首を傾げて来訪者を見やる。
「バジル?」
「綱吉殿、お弁当を持っていかれなかったでしょう? 拙者の作ったものでよろしければ召し上がって下さい」
男子生徒―――バジルは一礼してから教室に足を踏み入れ、紺色の風呂敷で包まれた箱を差し出した。
「作ってくれたの? 購買ででも買おうと思ってたのに」
「栄養バランスが崩れます。綱吉殿の体調を管理するのも拙者の勤めです」
「バジルってばそればっかり。まぁいいけどね。バジルのご飯、美味しいし」
「ありがとうございます」
綱吉が礼を言って受け取ると、バジルは嬉しそうに笑った。そしてまた一礼し、教室から去っていく。
再び席についた綱吉に、同じ机を囲む花が目を瞬いて質問した。
「ちょっと沢田、今のって三組の転入生じゃない。あんた知り合いなの?」
「うん、一緒に住んでるんだ」
絶叫が教室に満ちたが、京子はにこにこと笑っている。よく言えばおおらか、悪く言えば天然らしいと、綱吉は頭の隅で彼女を評価する。
「・・・・・・親戚とか?」
「いや、血は繋がってないけど小さい頃からずっと一緒にいるし。バジルは守護者じゃないけど、俺の騎士だよ」
さらりと述べた綱吉に、花は察知した。
どうやらこの転入生、ただの優等生なわけじゃないらしい。
むしろ艶然と微笑む様は女王様だと、二年一組一同は認識を新たにしたのだった。





ツナ様です。ツナ様。
2006年5月25日