起.ヴァリアー御一行
日本から海を隔てた遠いイタリアで、ひとつの学校が壊れようとしていた。しかしそこはマフィア関係者ばかりが通うという特殊な学校だったので、並大抵のことでは破壊できない。例え蹴りをかまそうが、弾丸を撃ち込もうが、炎をまとった拳を振り下ろそうが、壁にも窓にもひび一つ入ることはない。何故ならその学校は、全マフィアが総力を結して作成したマフィアのための学校なのだから。
「あそこまで不機嫌なボスなんて珍しいわぁ。何かあったの?」
壊すことは不可能だと分かっているのに当たらずにはいられないのか、それとも壊せないからこそ更に苛立ちを募らせているのか、どかんがしゃんと窓ガラスを殴りまくっているXANXUSに、ルッスーリアは首を傾げる。この学校は幼稚舎から大学まで揃っているが、ルッスーリアは高等部の三年生になったばかりだ。XANXUSは二年生だが彼らはボンゴレファミリーにおいて上司と部下の関係にあり、そしてこの学園はファミリーの力関係がそのまま反映されている。
「それがさぁ」
だるーんと机に突っ伏しているベルフェゴールは中等部の三年になった。室内にいるスクアーロは高等部二年、レヴィは三年になる。
「綱吉が日本に行っちゃうんだってー」
「ツナちゃんが!? ちょっとそれは大変じゃない!」
「しかもプリーモも一緒だってさ。俺、ツナが中等部にあがってくんのちょー楽しみにしてたのに!」
「それは・・・・・・ボスが荒れるのも分かるわぁ」
ちらりとサングラス越しに視線をやれば、彼らのボスはまだ窓ガラスを殴り続けている。このままいけば壊せないはずの校舎を壊した第三の人物になれるかもしれない。ちなみに前例者の一人目はプリーモで、二人目は綱吉という沢田兄弟だ。XANXUSの兄、セコンドは挑みはしたけれど壊すには到らなかった。前者二人と後者二人は従兄弟関係にあり、イタリアマフィアで最も巨大かつ強大なボンゴレファミリーの直系でもある。
「でも急にどうしたの? プリーモは確か、大学を卒業したら正式にボンゴレに入ることが決まってたでしょ? セコンドと丸一日戦った末にぶちのめして、ツナちゃんにドンを譲って自分は門外顧問に収まるって納得させたじゃない」
「その綱吉が日本に興味を示したらしいぜぇ。キョウトの八つ橋を食ってみたいとかなんとかよぉ」
「それならお取り寄せすればいいじゃない」
「綱吉はまだ12歳だからなぁ。世界を広げるためにいろいろ経験させたい、だっけかぁ?」
「そーそー。いずれボンゴレを継ぐにしても、経験を積んどくのは悪くないとかなんとかさー」
「で、さっさと日本に家を買って大学転入の手続きまでしたらしいぜぇ」
「さっすがプリーモ。行動が早いわぁ」
話に入ってきたスクアーロに説明され、ルッスーリアは感心する。その間もXANXUSによる破壊チャレンジは続いており、レヴィはそれをずっと見つめている。彼はXANXUSだけに忠実なのであって、いくら次期ボンゴレファミリーの二大トップであろうと興味はないのだ。
「九代目の許可は出たの?」
「ああ。笑顔で行って来いって言ってたぜぇ。ちなみに家光と奈々はイタリアに残るらしいなぁ」
「セコンドがまた怒ったんじゃない?」
「プリーモの一撃と綱吉の『お土産買ってくるね、にこっ』で撃沈ー。ちなみにボスもその口」
「あらまぁ」
セコンドもボスもメロメロねぇ、とルッスーリアは笑う。とはいえ、ボンゴレファミリー内で彼らに勝てる輩などそうは存在しない。せいぜい現ドン・ボンゴレである九代目と、門外顧問であり二人の父親でもある家光、そして母親の奈々くらいだ。特に戦闘においてプリーモの上を行く人物はおらず、彼の存在はボンゴレの中でもある種神格化されている。そして、その弟の綱吉。彼はまた違った意味でボンゴレの頂点に座していた。
「プリーモが『俺と綱吉が戻ってくるまできちんとボンゴレを維持していなければ怒るよ』とか言うから着いてけないしーっ! 俺も綱吉と一緒に日本に行くー! 行く行く行くーっ!」
「う゛おぉい、うるせーぞぉ!」
「てめーがうっせー! 馬鹿馬鹿馬鹿スクアーロのばーっか! ハゲヘタレハゲ!」
「誰がハゲだぁ!? しかも二回も言いやがったなぁ!」
「ヘタレは否定しないのねぇ」
「俺も綱吉と一緒に日本行くーっ! ヤツハシ食ってゲーシャ遊びしてトーキョータワー登ってキヨミズから飛び降りるーっ!」
「・・・・・・カスが。俺が行けねぇのにてめーらを行かせるわけねぇだろ」
窓ガラスと格闘していたXANXUSがぎらっと形相をさらに険しくさせて振り返る。ベルフェゴールはじたばたと騒ぎ続けているけれども、スクアーロはXANXUSの怒りが自分たちに向けられたことに気づいて「げっ!」と顔を歪めた。レヴィはそんなXANXUSを恍惚としながら見つめており、ルッスーリアは火の粉を被らないように一歩引く。始まったのは壮絶なバトルだが、やはり校舎にひびは入らない。
「ツナちゃん、寂しいから早く帰ってきてねぇ」
窓から見える大空に向けて、ルッスーリアはひらひらと手を振った。それにしても学校は壊れないわねぇ、と思いながら。ヴァリアーの主力三人が戦っても壊せない学校を一人で破壊したプリーモとツナちゃんってどんだけー、と思いながら。
書きたかったこと其の参、セコンドとXANXUSの兄弟。
2007年10月30日(mixi初出)