起.黒曜中生徒会御一行





ここ最近、六道骸は上機嫌だった。形の良い唇からクフフクフフと笑いが漏れることもしばしばあり、ここが黒曜町以外ならば怪しい人扱いされることは間違いないだろう。しかしここは間違いなく黒曜町であり、そして骸は黒曜中の一年生でありながら生徒会長を務め、そして町すべてを治めている支配者でもあった。故に、この町で骸に逆らう輩は存在しない。逆らえば精神崩壊が待っていることは、すでに誰もが知っている。そして今は黒曜中の生徒会室であり、その場にいるのは犬・千種・凪という骸の部下ばかりだったので問題は何もなかった。
「骸さーん? 最近ご機嫌みたいれすけど、どうしたんれすかー?」
十円ガムの箱を積み重ねていた犬が、机にべったりと頬を張り付かせながら尋ねる。真面目に今日の宿題をやっていた凪も顔を上げ、適当な雑誌をめくっていた千種もちらりと視線を寄越す。そんな彼らの反応に「いえねぇ」と骸は笑う。
「君たち、プリーモという人物を知っていますか?」
「ぷりん?」
「・・・・・・プリーモ」
犬が首を傾げ、千種がツッコミを入れる。凪は犬と同じように首を傾げていたけれども、思い当たったのか小さく呟いた。
「・・・・・・沢田、プリーモ?」
「ええ、そうです。沢田プリーモ。いえ、プリーモ先輩とお呼びするべきでしょうか」
クフフと骸は含み笑う。犬が「何れれすか?」と尋ねると、千種が眼鏡のつるを押し上げながら説明する。
「・・・・・・八年前の黒曜中の卒業生。骸様と同じように一年のときから卒業まで生徒会長で、黒曜町を支配してた」
「へー!」
「所謂、僕たちの前身ですね。彼が黒曜を支配していた過去があるからこそ、今回の僕たちもスムーズにこの町を治めることが出来ています」
くるーりと骸は椅子を回転させる。それは革張りとスプリングの利いた重厚な品で、彼がこの中学校を手中に収めた際に一番最初に献上させたものだった。とても気に入っているのか、生徒会室にいるときは常にこの椅子に座っている。
「沢田プリーモは美しく聡明かつ穏やかでありながら、暴力と恐怖によって黒曜を制圧、支配しました。しかし生徒と町民には怖れられながらも慕われていたという稀有な人物です。確か歴代生徒会長の写真がそこらへんにあったはずですが」
骸の言葉に凪が立ち上がる。生徒会室は彼女によって端から順々に整理され始めてはいたけれども、とりあえず揃えているだけなので、いちいち背表紙を確認しなくてはならない。それでも犬が遅いと喚き始めるよりも前に見つけることが出来、凪はアルバムを骸の前へと差し出した。
「ありがとございます、凪」
「いいえ、骸様」
礼を言われて、凪は嬉しそうに微笑み返す。ぐるぐると犬が声を鳴らし、千種は面倒くさそうに溜息を吐き殺す。それでも骸が表紙をめくり、四人揃って覗き込んだ。ぺらり、ぺらりと厚紙がめくられる。
「・・・・・・『歴代生徒会長』というよりも、『沢田プリーモ生徒会長』の写真集ですね」
骸がそう呟いてしまうほどに、アルバムの中は一人の人物の写真ばかりで埋められていた。
甘い、キャラメル色の柔らかそうな髪。温厚さを表すように唇の端が持ち上げられているのに、それでいてどこか無機質な印象を与える。それは伏せられがちな瞳のせいかもしれない。身長は高くはなく、細身だけれども鍛えられていそうな身体。場面は挨拶のものであったり、授業中のもであったり、路地裏で返り血を浴びているものだったりと様々だったけれども、そのどれもに被写体の美しさが表れていた。紙面なのにカリスマすら感じさせる。
ほへー、と犬が見入っている。凪もこころなしか頬を染めており、千種は一呼吸置いてアルバムから目を離した。骸は先ほどよりも上機嫌な様子で写真のプリーモをなぞっている。
「・・・・・・この人物がどうかしたのですか?」
問いかけに、骸は心底嬉しそうに答える。
「いえね、来年、この人の弟が中学一年生になるんですよ」
是非ともうちに来て欲しいものですねぇ、と骸が笑う。願望の形をとっているけれども、つまりそれは彼の中で決定事項だ。千種・犬・凪はそれを理解して行動を始める。
目標は半年後、沢田綱吉を黒曜中学に入学させること。





書きたかったこと其の壱、黒曜の覇者だったプリーモ。
2007年10月27日(mixi初出)