読書の秋。食欲の秋。スポーツの秋。
運動会の季節がやってきた。





Lady ready Ready!





綱吉はとても上機嫌だった。空は晴天、気温も高くなく低くなく、風も僅かの最高の天気。まさに運動会日和なそんな日に、上機嫌にならない親がいるなら見てみたいと心から思う。
今日は、綱吉の娘の通う学校の運動会だ。保護者も観に来れるよう日曜にセッティングしてくれるのが嬉しい。これが中学や高校になると保護者の参観は禁止されてしまうので、小学生の今のうちだと綱吉は意気込んでいた。ビデオのバッテリーも昨夜から充電してあるし、レジャーシートやタオル、お菓子も準備万端。あとはお弁当だけ。
メニューは先週から考えたもの。サンドイッチもいいけれど、秋はお米が美味しいのでおにぎりにした。さつまいもにさんま、鶏としめじに基本の梅干といなりずし、それぞれを三口で食べられる大きさに握ってサランラップで包む。これは校庭で食べるための配慮だ。天麩羅は衣をさくっと。海老に烏賊、まいたけとエリンギになすとかぼちゃ、三つ葉に桜海老を散らしたかきあげ。柔らかく煮た牛蒡はたらこで和える。厚焼き玉子はひき肉を入れてボリュームをアップして、箸休めにはカリフラワーの醤油漬け。白身魚は西京焼きにして、牛肉は人参とインゲンを入れて巻き、甘辛く味付けた。栄養バランスに野菜は必須だから、ポテトサラダとマカロニサラダ、ズッキーニの胡麻和えを入れ、彩を出すために飾り切りしたトマトを添える。テーブルに並んだそれらを眺めて、うん、と綱吉は満足げに頷いた。
重箱の四段目にご飯を、三段目に魚と肉と天麩羅を、その他を二段目に詰めていると、目を覚ました娘が台所に現れた。
「おはよう、父さん」
「おはよう、ラル。体調はどう?」
「悪くない。睡眠も十分だ」
強気な言葉を返してくるラルは、綱吉の正真正銘の実の娘だ。今年で十一歳になる小学校五年生。すでに鬼籍に入ってしまった母親に似て、深い黒髪と少女にしては凛々しい顔立ち、そして整然とした雰囲気を持っている。穏やかでどこか頼りない綱吉とはほとんど似ておらず、一緒に歩いていても親子に見られることはまずない。小学生にしては大人びているラルは、きらきらと輝いている重箱に呆れたように肩を落とす。
「本当に観に来る気なのか・・・・・・」
「え? もちろんだよ。当たり前じゃない」
お弁当とは別に作っていた朝食を、綱吉はテーブルの開いたスペースに並べる。白いご飯に豆腐と若布の味噌汁と焼鮭、昨日の夕飯の野菜炒めをフライパンでじゃっと温めて盛り付ける。牛乳とヨーグルトは沢田家の朝食において欠かせない品だ。とりあえず弁当作りの手を休めて、綱吉はラルと一緒に席に着く。食事は出来る限り共にするのが、沢田家のルールでもあった。
「ラルは運動神経がいいから一杯活躍するだろうし、楽しみだなぁ」
あ、もちろん活躍しなくてもラルが出るだけで楽しみなんだけど、と律儀に付け加える父親に、ラルは少しだけ頬を染める。しかしちら、と弁当を眺めて呟いた。
「・・・・・・それにしても、作りすぎじゃないのか?」
自分と綱吉の二人で食べるには四段重は多すぎる。もちろん綱吉が自分のために作ってくれたものならば、頑張って全部食べるつもりだけれど。綱吉も自分で作った弁当を眺めて、照れたように頬をかいた。
「あー・・・やっぱり? 張り切りすぎちゃった」
あはは、と笑う綱吉は実はまだ三十路にも達していない。それを差し引いても高校生に見える幼さを持っている。可愛い、なんて父親に対して不遜なことをラルは思う。
「よかったらラルの友達にも食べてもらおう。えーっと・・・・・・リボーン君とコロネロ君、だっけ?」
「あんな奴ら友達じゃない」
「駄目だよ、ラル。そんなこと言っちゃ」
めっ、と綱吉は諭してくるけれど、それすら可愛いからラルは全然怖くない。それに名前の出された二人は断じてラルの友達ではない。リボーンもコロネロもマーモンもスカルもヴェルデも、絶対に友達ではない。あんな奴らが友達なんかで堪るかとラルは常々思っている。自分が女で、彼らが男という性別の差ではない。そんなものなら楽だったのに。
あいつらは、一学期にあった授業参観のときから綱吉に目をつけているのだ。年と性別を超えた恋? ふざけたことを言うのも程ほどにしろ、と叫んだ記憶も新しい。あんな馬鹿共に己の父親を渡してなるものか。あんな阿呆共に、ラルの可愛い優しい大好きな綱吉を!
「・・・・・・父さん」
「ん?」
「今日は俺だけを見ていろ。他の奴らを応援なんかしたら、一週間は口を利かないからな」
娘の可愛らしい我侭に、綱吉はかえって嬉しそうに笑う。
「分かったよ。頑張ってね、ラル」
「ああ。どの競技でも絶対に一位になってやる」
「頼もしいなぁ」
戦意を新たにするラルと、そんな娘の心中を知らずほのぼのと笑う綱吉。仲良くご飯を食べ終えて、昨日のうちに用意しておいたデザートを重箱の一段目に詰める。季節のフルーツである柿と梨に、スポンジとクリームを中に包んだモンブラン。わらび餅と桜餅にオレンジゼリー。完成した重箱を重ねて蓋をして、藤の柄の風呂敷で包む。リサイクルのため箸と皿とコップは木で出来たものを。手拭もちゃんと準備して、魔法瓶の片方にお吸い物を、もう片方には麦茶を、スポーツ飲料はペットボトルで用意する。
さっさと台所を片付け、綱吉も顔を洗ってジャージに着替えた。それはファッションブランドのものだけれど、中をTシャツで合わせているせいか、ますます彼を高校生のように見せている。危険だ、とラルは警戒心を募らせるけれども、うきうきしている父親には何も言わない。ようは自分が綱吉を数多の魔手から守りきればいいのだ。
「じゃあ行こうか、ラル」
差し出された手を握り締める。小学校五年生になって父親と手を繋ぐ娘は稀らしいが、ラルはそんなことを気にしない。弁当他、大きな鞄を持って家を出る。見上げる大空はまさに運動会日和。
保護者参加の種目で自分と綱吉のラブラブっぷりを見せ付けてやる。そんな闘志を燃やしながら、ラルは来る戦いに臨むのだった。





母親については深く考えてません。リボーンとマーモンの父親は多分XANXUS。
2007年10月19日(2008年6月28日mixiより再録)