6. リボーンの夢枕に立ってみる。





知人には全員、挨拶に行った。泣いてくれる人、冥福を祈ってくれる人、未来を約束してくれる人など様々だったが、みんなが優しく笑ってくれた。ほんと俺、対人運だけは世界最高だったかも。しみじみと有り難味を噛み締めながら、綱吉は最後の夢をノックした。返事はない。
「リボーン、入るよ」
断ってからチャックを下ろす。じじじ、と小さな音を立てて開いたそこから足を踏み入れれば、リボーンの背中が見えた。赤ん坊のものではない。綱吉が死ぬ前日にリボーンは16歳になっていた。黒いスーツがもう嫌味なく似合う、だけど少年の背中だ。結局身長は最後まで綱吉の方が高かった。
会ったら、謝り倒そうと思っていた。出会ってから16年、ここまで教育してくれた彼の行為を、好意を、厚意を無にしてしまったのだ。ごめん、と土下座して頭を下げようと思っていた。どんなに詰られても、銃弾を打ち込まれても構わない。謝らなくてはと思っていた。
だけど今こうして、スーツの背中を前にしてみれば、込み上げてくるのは感謝の念ばかりだ。ありがとうなんて言葉じゃ到底足りない。
すべてが彼と共にあった。すべての始まりが彼だった。理不尽なことも泣きたくなるようなことも痛いことも怖いことも、そりゃ山ほどあったけど、今となってはそれらも幸福な思い出だ。多くのものを与えてもらった。本当に、多くのものを。
この幸せを、感謝を、何て言葉にすればいいか分からない。気づけば視界が滲んでいて、綱吉は歪む顔を隠すようにリボーンの背へと押し付けた。懐かしい硝煙の臭い。無意識のうちに張り詰めていた心が、ここにきて、誰より共にいた彼を前にして、ついに崩れてしまった。本当は、本当は。

本当はもっとずっと、みんなと一緒に生きていきたかった。

耐え切れず、スーツの裾を握り締めた。嗚咽を飲み込む綱吉にリボーンは音に出して舌打ちし、深く帽子のつばを下ろす。
「ダメツナが・・・っ!」
その声が震えていたことに気づいたから、堪えきれず綱吉は泣いた。それが最後の夜だった。





馬鹿野郎。この、ダメツナが。
2007年11月18日