5. 六道骸の夢枕に立ってみる。
「僕の夢枕に立とうだなんて百万年早いんですよ」
骸の夢はチャックを開けたらまたチャックがあって、そのチャックを開けたらまたチャックがあって、マトリョーシカのようなそれを92回繰り返したところで、ようやく本人にたどり着いた。696回じゃなくて良かったと綱吉は胸を撫で下ろす。骸は両手を腰に当ててふんぞり返っており、しかしオッドアイの瞳はどちらも不愉快に揺れていた。
「凪や愛人たち、同盟ファミリーのボスにヴァリアーと守護者。彼らより僕を後回しにするなんていい度胸ですね」
「おまえの生活が不規則なんだから仕方ないだろ」
「嘘仰い。僕は君が死んでからずっと、夜は八時に寝て朝は八時に起きるという規則正しい生活を繰り返してますよ」
「いや寝すぎだから、それ」
つっこみを入れはするものの、骸の言葉が真実であることを綱吉は知っている。挨拶に訪れた凪が言っていたし、来てください来てくださいと訴えるかのごとく骸の夢が毎日膨らんでいたからだ。それなのに素通りしていたのは方法が見つからなかったから。だけどようやく、それも見つかった。
「骸」
ちょいちょいと手招きすればやってくる。六の数字が刻まれている右目を撫でた。
「輪廻輪廻、宇宙の果てまで飛んでいけー」
転んで膝をすりむき泣き喚いている子供を騙すかのように呪文を唱え、背伸びをしてちゅうっと瞼にキスをする。古今東西魔法には口付けが付き物らしく、何だかなぁと鳥肌の立ちそうになる腕を綱吉は擦った。ぱちくりと呆気に取られている骸に綱吉はへらりと笑いかけた。
「これで、おまえが何度も生まれ変わることはなくなった。おまえの記憶は今の人生でストップするからな。六道輪廻もおまえで終わりだから、えーっと、自棄にならずに、ちゃんと幸せになるように」
「・・・・・・馬鹿ですか、君は。こんな子供騙しで僕の修羅が払えるとでも?」
「馬鹿にするなよ。神様に教えてもらったんだからな」
「ほんと、相変わらず馬鹿ですね。死んでまでそんな愚かなことを考えていたとは」
六の瞳が痛苦を堪えるように細められる。伸びてきた腕に抱き締められて、身じろぎしたけれども外れなさそうだったので綱吉は諦めた。肩口に額を押し付けられ、その背をぽんぽんと軽く叩く。いろいろあったけれども、綱吉にとって骸は何故か放っておけない存在だった。今なら分かる。寂しそうに見えたから、放っておくことが出来なかった。
「先に行って、地獄で待ってるよ。生きてるうちは凪や千種さんや犬さんがいるし、死んだら俺がいる。もう寂しくないだろ?」
「・・・・・・僕が天国に行ったらどうするんですか」
「いや、それはありえないだろ」
ぎゅーっとしがみついてくる力が一気に強まって、綱吉は「ギブギブ!」と骸の腕を叩いた。放されて、いつもより近くで見たオッドアイは綺麗で、どこか毒が抜けているような気もする。まったく君は、と骸が小さく呟いた。
まったく君は本当に・・・・・・最後まで、お人よしでしたね。
2007年11月18日