4. XANXUSの夢枕に立ってみる。





じじじじ、とチャックを下ろしてみれば、すでにそこにはXANXUSがスタンバイしていた。おおう、と綱吉は逃げたい衝動に駆られるが、さすがにここまで来て逃げるわけにもいかないだろう。失礼しまーす、と恐る恐る夢に足を踏み入れる。
「遅ぇ」
「ごめん。えっと・・・・・・久しぶり?」
「俺の許可なく死んでんじゃねぇ。おかげでこっちはいい迷惑だ」
雲雀と同じようなことを言われる。XANXUSはくるりと回転する高級椅子に座っているが、他に家具は見当たらない。まぁいいや、と思って床に胡坐をかいてみれば、ボンゴレのボスがそんなみっともねぇことするな、と椅子を譲られる。出会った頃から考えればありえないことだが、いつの間にかこれが自然になっていたのだから人間慣れとは恐ろしい。むしろマフィアが恐ろしい。
「ボンゴレは、どう?」
ありがとう、と断って椅子に座れば、立っていたときよりも身長差が出来る。見上げるXANXUSの顎は鋭角的で、それは終ぞ綱吉の得ることが出来なかったものだ。享年28歳だったというのに、それでも私服で街に降りればティーンエイジャーに見られただなんて、自棄に等しい自慢話だ。
「守護者どもが必死に遣り繰りしてる。てめぇのガキが育つまでは九代目のジジイが繋ぐ」
「うわぁ・・・隠居してた九代目を引っ張り出しちゃったよ。ごめん、ホント。十一代目は凪の産んでくれた子だろ? ハルと京子ちゃんが産んでくれたのは女の子だったし」
「才能がありゃ男だろうが女だろうが関係ねぇ。アルコバレーノが教育に当たってるぜ」
「今三つだから、十五歳で継ぐとしてもあと十二年・・・。ディーノさんとロンシャンとランランに同盟の維持を頼んだんだけど、いいよって言ってくれたから心配はないと思う。後は同盟外のファミリーだけど」
「言われなくても全部潰してやる」
「いやいやいや、そんなこと言ってないから! 何でおまえらヴァリアーはそう血気盛んかなぁ!」
「てめぇがいねぇからだろ」
え、と見上げれば、XANXUSは違う方向を向いていた。襟足のファーがふわりふわりと揺れる。それに触ってみたくて実際に手を伸ばして引っ張ったのは、すでに懐かしい思い出だ。思えば、あの頃からすでにXANXUSやヴァリアーはみんな、綱吉の意見を聞いて受け入れてくれていた。
「てめぇがいなくなったせいだ」
「・・・・・・ごめん」
「ボンゴレのドンのくせに勝手に死にやがって」
「・・・うん」
「馬鹿が」
「うん」
力のない罵倒を俯いて聞いた。互いに間が持たなくなって、綱吉は立ち上がって椅子を譲ろうとしたけれど、XANXUSは頑なに座ろうとはしなかった。てめぇの椅子だ、とだけ彼は言った。





てめぇだけの椅子だと、認めていた。
2007年11月18日