ムクロウの日々
この話はREBORN未来編、クローム髑髏VSグロ・キシニアの内容を含みます。
題名からも判るとおり、綱吉と某猛禽類が約十年後でほのぼの仲良くしているお話です。
ネタバレが嫌な方はご覧にならないでください。
1.ムクロウですよ、クフフ。
2.うるさい小鳥ですね、クフフ。
3.大好きかもしれませんよ、クフフ。
4.特訓ですよ、クフフ。
5.番外編ですね、クフフ。
6.努力中ですよ、クフフ。
7.これだから君は、クフフ。
1.ムクロウですよ、クフフ。
霧のリングの反応を察知して黒曜ランドに駆けつけると、ふらふらになった凪が壁にもたれるようにして立っていた。今は約十年後だというのに、彼女は綱吉たちと同じく約十年前の、中学生の姿をしている。足元には白い装束を着た男が倒れており、ホワイトスペルだ、とラルが言ったけれども、綱吉は目に入っていなかった。
「凪!」
「・・・ボス・・・・・・」
「凪っ!」
崩れた身体を抱きとめると、少しだけ開いている唇から緩やかな呼吸が繰り返されていた。全身にも大きな怪我は無く、ほっとして気が緩んだんだろうと検討をつけて肩を撫で下ろした。一方でラル・ミルチは信じられないように倒れている男を見下ろす。
「これは・・・・・・グロ・キシニア! ミルフィオーレ6弔花の一人だぞ! こいつをその女が一人で倒したのか!?」
「・・・・・・いや、たぶん一人じゃない」
凪をそっと床に横たわらせ、綱吉は崩れた天井の一角を見上げる。
「いるんだろ、骸」
しんとした空間に、綱吉の確信を持った声が響く。ひとつ、ふたつ、みっつの間を置いて、ばさりという翼の羽ばたく音と懐かしい笑い声が轟いた。白い羽を大きく広げ、旋回して降り立った梟を、綱吉は複雑な眼差しで見つめる。
「・・・・・・骸」
「チガウヨ。ムクロウダヨ。ムクロウダヨ」
「おっ―――まえ、ホント人生楽しそうだな!」
「クフフフフフ。久しぶりですね、ボンゴレ―――いえ、並盛中学校二年、沢田綱吉君」
梟ことムクロウは、右目に六の数字を刻み込んで笑った。初っ端から飛ばす相手に綱吉は脱力して地面に両手をつき、頭部に梟を載せることになってしまうのだった。
痛い痛いっ! 爪が痛いってば!
それくらい耐えたらどうです。白梟を飼っている魔法少年のように。
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2.うるさい小鳥ですね、クフフ。
綱吉は凪を背負いムクロウを頭の上に載せて、ラルはグロ・キシニアを匣のムカデで逃げられないように拘束して引きずりながら、隠れ家となっているアジトに戻ってきた。しかし入ったホールに雲雀が腕を組んで立っており、綱吉はびくりと一歩後ずさる。くるっくーと頭上のムクロウが鳴いた。おまえは鳩か、と綱吉はつっこみたかった。
「それ、こっちで引き受けるよ。今の君じゃ何も吐かせられないだろうし」
「え、あ、はははははははいっ! よろしくお願いします!」
それ、と指差された先にはまだ意識を失っているグロ・キシニアがいる。骸と凪の攻撃によって肉体だけでなく精神まで破壊された彼が、果たしてどうなるのか。綱吉は判らなかったし、雲雀の「今の」君じゃ「吐かせ」られない、という台詞についても深く考えることを放棄した。草壁他、どこか見覚えのある男たち―――おそらく並中風紀委員だった人々なのだろう―――によって、グロ・キシニアが運ばれていく。しかし雲雀はそこに立ったまま、じっと綱吉を見下ろしている。
「それ」
「え、あ、えっと、凪です。霧の守護者の」
リング争奪戦のときに会ったことありますよね、という綱吉の努力はムクロウによって無に帰した。
「まったく梟だから『ムクロウ』だなんて、センスが無いにも程がありますよ。相変わらずよく鳴きますねぇ、雲雀恭弥」
「君こそ相変わらず変態だね。動物に憑依するなんて、むしろ十年前より磨きがかかってるんじゃないの」
「そのうち君の鳥にも憑依して差し上げますよ。クフフ、僕だと知らずに可愛がる姿が目に浮かぶようです」
「沢田、それもこっちで引き受けるよ。十年前の借りも返さなきゃいけないしね」
雲雀の手が頭上に伸びてくる。さすがに約十年経っているだけあって、その手は大きく、大人の男のものになっているけれども、それが意味することに気づいて綱吉は慌てて仰け反った。む、と雲雀が眉を顰める。
「だだだ、駄目です雲雀さんっ! 骸にはまだやってもらいたいことがあるんで!」
「何。僕が代わりにやってあげるよ」
「む、骸には凪を鍛えてもらわないといいいいけないんです! 凪はボンゴレリングの所持者だし、幻術を使えるのは骸しかいませんしっ!」
「そういうことですよ。君の出番はありません。下がりなさい、雲雀恭弥」
「生憎と僕は沢田を鍛えてるから。巻き込まれて梟鍋にされないよう気をつけるんだね」
「クフフ、僕もちょうど雀鍋が食べたくなってきましたよ」
俺はどっちも食べたくないです。一人と一匹の睨みあいの真ん中で、綱吉は背中の凪が落ちないよう必死で抱えなおしながら耐え続けた。それはランボやフゥ太たちがやってくる30分後まで続いたのだった。
雲雀さん、いろいろつまらないご様子。
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3.大好きかもしれませんよ、クフフ。
戦いで怪我をしてしまった凪の介抱を女の子たちに任せ、綱吉はとりあえず一息つこうと食堂となっている部屋に向かった。山本とリボーン、獄寺とビアンキはそれぞれ特訓の最中だし、ラルも今はグロ・キシニアのことで雲雀の元に行っている。フゥ太とランボの姿が見えないが、彼らもこのアジトのどこかにいるのだろう。はぁ、と溜息を吐きながらヤカンを火にかけると、まだ頭の上に載っているムクロウがくるっくーと鳴いた。
「おまえは鳩か・・・・・・」
今度は綱吉もつっこんだ。しかし二回目ともなると新鮮味も勢いも落ちる。
「懐かしいですね、君のつっこみも」
「約十年ぶりならそう感じるよなぁ」
俺はリング争奪戦のときに会ってるから全然そんな感じしないけど、と続ければ、ムクロウはようやく綱吉の頭を離れて水道の蛇口に降り立った。
「三ヶ月振りです」
「え?」
「三ヶ月前に、君はヴィンディチェの牢獄にいる僕に会いに来ました」
「そうなの?」
「ええ。君が死んだことであれが最後になりましたが、君はよく面会に来ていましたよ。僕は水槽の中で喋るどころか動けもしないというのに、何が楽しいのか月に一度来ては、だらだらと仕事の愚痴を零していきました」
アルコバレーノが厳しいとか、XANXUSが怖いとか、オリーブオイルに中ったとか、そんなしょうもないことを。
そう語るムクロウの雰囲気が動物である以外に柔らかく感じられ、綱吉は少し驚いた。やかんが沸騰を知らせるので火を止めて茶葉を捜すけれども、どこにあるのか見つからない。ムクロウがばさっと羽を広げて、棚を指し示した。開けてみれはそこには紅茶と緑茶、インスタントコーヒーの粉が並んでいる。
「・・・・・・十年後の俺って、どんな感じ?」
「今僕の目の前にいる君と変わりませんよ。すぐに人を信じる、甘い、誰も殺したくないなんてのたまう夢想家です」
「むそうか・・・」
「でも、嫌いじゃありません」
え、と顔を上げた綱吉の手から缶の蓋が転がり落ちる。しかし調理台から落ちる寸前でムクロウの羽によって止められ事なきを得た。ありがとう、と綱吉が言えば、いいえ、とムクロウは羽をしまう。
「君はボンゴレファミリーを君の代で終わらせようとしていましたからね。マフィア殲滅は僕も望むところです。その一角を担ってくれる君を利用しようとは思えど、嫌おうとは思いません」
「・・・・・・ここ、礼を言うところ?」
「ご自由にどうぞ」
そうは言ってもクフクフと笑っているムクロウに礼を告げる気にもならず、綱吉は再度溜息を吐き出して急須から緑茶を注いだ。蒸らしすぎたのか少しだけ苦い。途端に母の入れてくれる煎茶が懐かしくなって、じんわりと何かが込み上げてくる。しかしこの時代に母はいるのか、無事なのか。それすらも判らない。かあさん、と綱吉の唇が震えた。
「それで綱吉君、僕のお茶は?」
「飲むのかよっ!」
「ココアを入れてください。もちろん水ではなく牛乳でお願いしますよ」
「おまえ、ほんっとに人生楽しそうだな! 羨ましいよ!」
リクエストして頭上に載ってきたムクロウに「重い!」と怒鳴りながらも、綱吉は牛乳を捜して冷蔵庫の扉を開ける。くるっくーとムクロウが華麗に鳴いた。
匣だから飲まないんじゃないかって? 飲めるものは仕方ないでしょう。
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4.特訓ですよ、クフフ。
凪が目を覚ましたのは、彼女がアジトに運ばれてから二日後の朝だった。久しぶりのご飯にうっすらと頬を染めながら食べる彼女に、綱吉はリボーンとラルの補足を受けながら現状を説明する。ムクロウは綱吉をつついて入れさせたチョコレートドリンクを飲んでいる。
「だから、その・・・・・・凪にも、特訓を受けてもらいたいんだ。ボンゴレリングの力を引き出せるように、骸から」
箸を置いて、凪が骸を見つめる。嘴で器用に飲んでいる様は間違いなく梟にしか見えないのだが、骸ってほんとすごいよな、と綱吉は思っていた。ほんとすごい。人外という意味ですごい。
「グロ・キシニアのときは、追い詰められていたから力を引き出すことが出来たのです。死ぬ気の炎をいつでも灯すことが出来なければ意味がありません。僕がサポートしますから、やれますね、凪?」
「はい、骸様」
ムクロウに向かって頷いた凪の横顔には、グロ・キシニアにつけられた傷がうっすらと残っている。ぎゅっと綱吉は膝の上で拳を握り締めた。
「・・・・・・ごめん、凪」
彼女が振り返る。
「危ないことに巻き込んでごめん。一人で戦わせてごめん。今後は俺が、守るから」
「・・・・・・ボス」
凪の手がそっと持ち上がる。空の皿の並ぶテーブルの上、綱吉のところまで伸ばして、少しだけ迷ってから髪に触れる。はっと上げられた瞳に、凪はしっかりと目を合わせた。
「ボス。強くなったら私、ボスの役に立てる?」
「・・・・・・うん」
「じゃあ頑張る。骸様もいるもの」
「・・・・・・ありがとう、凪」
くしゃっとした笑みに、凪も少しだけ笑んで頷く。くるむっくーとムクロウが鳴いた。
「大丈夫。ボスは私と骸様が守るから」
大事な人が、大好きな人がいてくれるから、もう怖くない。
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5.番外編ですね、クフフ。
皆の食べ終えた食器を、ハルは一人で洗っていた。京子はイーピンと洗濯に行っているし、他の面子は特訓だ。あの、凪という少女も、綱吉と一緒に。
「悔しいか?」
がちゃん、と食器が鳴った。込み上げてくる涙は、さっきは必死で堪えたもの。泡だったスポンジをきつく握り締める。
「悔しいか? 羨ましいか? クローム髑髏が」
「っ・・・リボーンちゃん・・・」
「どうなんだ、ハル」
唇を噛み締めた。浮かぶ、先ほどの光景。思い切りシンクを殴りつけた。
「悔しくないわけないです! ハルだってツナさんの役に立ちたいのに・・・・・・っ! 凪ちゃんだけずるいです!」
「仕方ねーだろ。クロームはツナの守護者だ」
「だったらハルだってツナさんの守護者になります! 特訓だっていっぱいします! ハルだって守られてばかりじゃ嫌です! ツナさんのことを守りたいのに・・・・・・っ」
ぼろぼろと涙が溢れ出てくる。これは悔しさで、歯がゆさだ。大好きな人の足かせにしかなれない自分。それに対して、刃に、盾になれる彼女。劣等感を覚えないわけがない。この世界に来てまざまざと見せ付けられた。自分は、綱吉の重荷でしかないのだと。
「選ぶのはおまえだ、ハル」
幼い声が、水道の流れ以上に響く。
「おまえが選べ。いっとくけどな、守られるのも立派な仕事だぞ?」
「でもそれじゃ・・・・・・っ」
続けようとした言葉を、奥歯をかんで飲み込んだ。駄目だ。認められない。認めたくない。勝ち目がないなど。そんなこと思いたくない。じゃあどうすればいい。硬く目を瞑って懸命に考える。京子と凪。二人に負けない、自分が一番だと言えるものは。
「・・・・・・リボーンちゃん。元の時代に帰ったら、ハルにも特訓してください」
「それでいいのか?」
「はい。ハルは負けません。絶対に」
涙でぼろぼろになった顔を擦って、大きく息を吸って吐き出す。床の上の赤ん坊に向かって、ハルはにこっと笑ってみせた。今出来る限りの精一杯で。
「ツナさんを好きって気持ちだけは、絶対誰にも負けませんから!」
想いだけは誰にも何にも、屈さないように。
勝負です! 京子ちゃん、凪ちゃん!
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6.努力中ですよ、クフフ。
くるっくー
くるむっくー
くるるむっくー
くふむっくー
くふっむー
くふっふー
くはっはー
「・・・・・・おまえ、何でそんなに人生楽しそうなの?」
「これでも僕もかれこれ十年は水の中にいるんですよ、綱吉君」
人生を楽しむコツは他人を見下すことです!
いやそれおまえだけだから!
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7.これだから君は、クフフ。
ラルと雲雀による特訓は厳しく、毎日の無茶で身体はぼろぼろ。風呂に入れば傷が沁みて泣きそうになるし、何だかなぁと綱吉は思っていた。ミルフィオーレとか匣とか約十年後とか、謎が多すぎてよく判らない。ついでに言えば、何故隣でムクロウが湯船に浸かっているのかもよく判らない。
「いいお湯ですねぇ」
「・・・・・・本体が水の中にいるのに、風呂に入りたいものなのか?」
「水槽とお風呂は別物ですよ。あそこはすべての感覚が遮断されていますからね。まぁ、飢えや寒さを感じないだけましなのでしょうが」
くむっくーとムクロウは鳴く。それにしても沈みそうで危なっかしく、手を伸ばして捕まればムクロウも抵抗しなかった。そのまま近くに引き寄せて、背中にお湯をかけてやる。
「・・・・・・何で十年後の俺、おまえのことを出してやってないんだろう」
きょろ、とムクロウの目が綱吉を向いた。
「十年後の俺はアジトを作ったりとか、いろいろ権力もあるみたいなのに、何で骸のこと出してやってないんだろう。俺、おまえのこと嫌いじゃないのに」
「・・・・・・相変わらず甘いですね、君は」
「でもおまえだって、こうやって俺のことを手伝ってくれてる」
「それは利害が一致したからですよ。打倒ミルフィオーレ、そのためだけの関係です」
「不思議だよなぁ。俺、おまえのしたことは許せないけど、おまえ自身が嫌いないわけじゃないんだ」
ムクロウの動きが止まる。綱吉自身不思議だったけれども、よく考えてみればリング争奪戦のときもそうだった。骸が辛い目に遭ってきているから、そうではない。何故か嫌うことが出来ないのだ。それは「咬み殺す」と言って暴力を振るう雲雀に対しても、仲間を酷い目に遭わせたXANXUSに対しても同じだ。怖く思ったりはするけれども、嫌いにはなれない。
「決めた。俺、元の時代に戻ったら、おまえを助けに行くよ」
「・・・・・・ボンゴレ」
「すぐには無理かもしれないけど、おまえが牢獄から出れるように働きかけてみる」
「・・・・・・アルコバレーノに怒られますよ」
「だって、こんなに協力してもらってるじゃん。凪も頑張ってくれてるし、それにおまえ、一応俺の守護者なんだし」
最後の方は自信がないのか言葉は弱くなっていったけれども、浮かべられている笑みは変わらない。あどけない少年の中に見知った青年の顔が見え隠れして、ムクロウは小さく笑った。こうして彼は変化していくのかと、納得すると同時に肩を竦める。
「判りました。じゃあ僕は僕自身のためにも、君を十年前に返さないといけませんね」
「う、ん。よろしく・・・?」
「いいでしょう、請け負いますよ」
湯の中なので羽は広げられないけれども、気分だけは大きくムクロウは綱吉を見上げる。見たことのない十年後の骸の姿が、何故か綱吉には鮮やかに想像できた。
「綱吉君、君を必ず十年前に返して差し上げます。この六道骸の名に賭けて」
かぽーん、と良い音が浴室に響く。にこり、とムクロウの瞳が和らいだ。
「だからとりあえず、僕にドライヤーをかけてふわふわにして乾かしてください」
「おまえそのフリーダムな人生どうにかしろよなぁ!」
がしっともこもこの身体を掴んで湯船に沈めれば、ムクロウは羽をはためかせて綱吉に水攻撃で襲い掛かる。ぎゃあぎゃあとまるで子供のように攻撃しあった二人は浴槽の水を半分以下に減らしてしまい、リボーンにみっちりと怒られることになるのだった。
約束は守りますよ、綱吉君。
2007年10月7日 ▲TOP