ある日、携帯が空から降ってきた。違う。空輸便で届いたのだ。綱吉の元に。
君に届け!
クロネコさんが運んできた小さな物体を判子と引き換えに受け取り、綱吉は首を傾げる。箱に貼られている伝票にはローマ字で綱吉の名前が書いてある。右肩上がりの筆記体は、英語の成績が絶賛低迷中の綱吉には読み取り辛い。送り元の住所は知らない地名だからこそ更に読めなくて困っていると、いきなりその箱がぶるぶると震えだした。
「ひいっ!」
思わず放り出せば、箱は玄関マットの上に転がり、ぶぶぶぶぶぶと小刻みに振動し続ける。その様に瀕死の虫を想像してしまって、綱吉は更に箱から遠ざかった。しかし綱吉が戻って来ないことを不思議に思ったのか、リビングから出てきたフゥ太が、それを拾い上げてしまう。
「ツナ兄、何これ?」
「フ、フゥ太! 危ないから捨てなさい!」
「でもこれ、イタリアからみたいだよ? 差出人は、えーっと・・・ヴァリアーだって」
「ヴァリアー!?」
何であいつらが、と綱吉は絶叫する。つい一月ほど前にイタリアに丁重にお引き取り頂いた黒コートの暴力集団が何でまた。やっぱり爆弾かもしれない、と綱吉は頭を抱えた。間違いなく自分に対する復讐だ。爆弾が検閲を通り抜けられるなんて日本の防衛システムはどうなってるんだ。綱吉がとにかくリボーンを、と立ち上がろうとしたところ、フゥ太の手の中で震えていた箱がぴたりと止まる。遅かった、と思わず辞世の句を詠みかけると、僅かの沈黙の後に小さな声が聞こえてきた。
『・・・ッチ! まだ届いてねぇのか。届き次第電話を寄越せ。無視しやがったら殺すぞ』
小さくても分かる。この威圧と迫力と普通モードでも憤怒に満ちてる声はXANXUSだ。ありえねーと綱吉は頬をひきつらせる。
「携帯電話みたいだね」
開けていい、と聞かれ、綱吉は今にも無かったことにしたい衝動に駆られつつも、殺されるのは勘弁してほしいのでぐったりと頷いた。うなだれる綱吉の手を引いてリビングに戻り、フゥ太は楽しそうに開封しだす。
「ツナ兄、やっぱり携帯電話だよ!」
出てきたのは、漆黒のボディが眩しい、二つ折りの機械だった。携帯を持っていないのでよく知らないが、少なくともコマーシャルでは見たことのないタイプである。ところどころにゴールドが用いてあり、スタイリッシュかつ重厚な一品だ。
「あら、それ」
台所でコーヒーを飲んでいたらしいビアンキが、リボーンを抱いたままやって来て、携帯に目を瞬いた。
「イタリアの最新モデルじゃない。限定物だっていうレアものよ。よく手に入ったわね、ツナ」
「いや・・・何か送られてきた・・・」
「誰から?」
「ヴァリアーから・・・あああっ! リボーン、どうしよう!?」
「いいじゃねーか。貰えるもんは貰っとけ」
家庭教師のあっさりとした言葉に綱吉は撃沈した。
「そうよ、ツナ。貰っておきなさい。これでテレビも見れて音楽も聞き放題よ」
「ツナ兄、すごいよ! 着信が128件! メールが341件も来てるよ!」
「何それ、迷惑メール!?」
「ううん、えーっと・・・・・・ベル、ベル、ベル、ベル、スクアーロ、ルッスーリア、ベル、マーモン、XANXUS、XANXUS、レヴィ、マーモン、ルッスーリア、スクアーロ、ベル、スクアーロ、ベル、ベル、ベル、ベル、XANXUS」
「何それ!?」
ありえねー、と今度こそ綱吉は叫んだ。その間にもフゥ太はぽちぽちとボタンをいじくっている。
「ツナ兄でも使えるように、ちゃんと日本語対応になってるよ」
「いらない親切・・・!」
「説明書によれば、世界各国で通話とメールが出来るみたいだな。よかったな、ツナ。使用料はヴァリアー持ちみたいだぞ」
「嬉しくないし・・・!」
「そう言わずに受け取ってあげなさい、ツナ。きっとこれが相手の愛の証なのよ」
「もっといらないし!」
がくりと床に両手を着くが、目の前の携帯は消えてくれない。それどころかご丁寧にも付けられているストラップが、綱吉の視界をひらひらと待った。これも黒。金でヴァリアーと刺繍してある。何で、と綱吉は心底思った。フゥ太が明るい声で読み上げる。
「『つなよしへ。けいたいをおくります。だいじにつかってください。でんわにはぜったいにでてください。めーるにもかならずおへんじください。くれなかったらころしにいきます。ざんざすより』・・・だって」
「メールだと口調違うし! しかも何だよ!? 殺害予告!?」
「ただ単にツナと仲良くなりたいだけだろ」
「俺はなりたくない!」
「わあっ! このベルって人すごいよ、ツナ兄! 全部のメールに写真が添付されてるよ! ・・・・・・どれも死体の写真みたいだけど。あ、ルッスーリアって人はデコメール使ってる」
「だから何で・・・!」
綱吉は頭を抱えて床に崩れ落ちた。確かに携帯電話は中学生の身からすれば持ってみたい一品だったが、こんな形で手に入るくらいなら大人しく家電を使ったのに。嘆く叫びは電波に乗っていないため届かない。
その日の夜、綱吉は殺されたくない一心でひたすらメールに返信を打った。
後日、あまりに授業中に着信を知らせるため、教師によって綱吉の携帯は没収され、返事が来ないことを不満に思ったヴァリアーが再び並盛町を訪れて一悶着起こるのだが、さすがの綱吉の超直感もまだそこまで予測は出来ないのだった。
ツナ、ヴァリアー専用携帯を支給される。みんなツナと仲良くなりたかったようです。
2007年5月7日(2007年7月25日再録)