クローム髑髏こと凪は、霧の守護者であってそうではない。彼女は六道骸の媒体であり、彼が帰って来るまでの繋ぎでしかないのだ。本当の霧の守護者は六道骸。凪もそれを理解していた。だからこそ彼女は手に入れたボンゴレリングを指にはめることなく、チェーンに通して首から下げていた。戒めのため、自重のため。だけどやっぱり羨まずにはいられない。
他の守護者の指でボンゴレリングが光る度、自分も彼のものになりたいと思わずにはいられないのだ。





あなたの証





「ボス、私にも指輪をちょうだい」
夕方、帰宅しているだろう時間を狙って自宅に行ってみれば、やはり綱吉は帰ってきていて、目を瞬きながら凪を迎え入れてくれた。クリーム色のブレザーは優しい雰囲気をしており、まるでボスみたいだと凪は綱吉の制服姿を見る度に思う。
「指輪って・・・ボンゴレリング? もう持ってるじゃん」
「違う。これは骸様のものだもの」
「そ、そうなんだ? でも他のは持ち主が決まってるし・・・」
「ボンゴレリングじゃなくていいの。ボスがくれるなら何でもいい」
言葉を連ねれば、綱吉は小首を傾げる。それでもテーブルの上のポテトチップスを勧められて、凪は一枚摘んで口に運んだ。いつも家の中を走り回っているランボや他の居候たちも今はいない。母さんと買い物に行っている、と綱吉は言っていた。
「凪は何で指輪が欲しいの?」
自身も菓子に手を伸ばしながら、綱吉は不思議そうに聞いてくる。凪は低いテーブルの下で、きゅっと手を握った。
「・・・・・・私は、守護者じゃないから・・・」
え、と綱吉は目を丸くする。
「凪は守護者だよな? えっと、霧の」
「違う。守護者なのは骸様。私じゃない」
「でも俺は、凪も守護者だと思ってるよ」
「違うの。ボスの守護者は骸様なの。だから私にも指輪をちょうだい」
お願い、ボス。凪はじっと綱吉を見つめた。彼の銜えているポテトチッフスがパキッと割れる。

「お願い、ボス。私もボスのものにして」

ひたむきに願い出ると、何故だか綱吉は微妙な間の後でバタンとテーブルに突っ伏した。茶色い髪の合間から見える耳が赤く染まっていて凪が手を伸ばすが、触れるよりも先に綱吉の方ががばっと起き上がって後退った。顔も赤くなっている彼に、今度は凪が首を傾げる。
「ボス?」
「え、えええええええっとあのさ! や、やっぱ指輪はダメだって! 女の子が指輪を貰うのは好きな人とかからじゃないとっ!」
「・・・・・・やっぱり、私じゃダメ?」
「凪がどうこうって言うか、むしろ俺じゃダメって言うか!」
「でも私、ボスがいい。ボスの守護者になりたいの。ボスの守護者にして・・・?」
再度じっと見つめれば、綱吉はわたわたと左右を見回していたが、ついに諦めたのか、がくりと肩を落とした。
「ネックレスとか、腕輪とかじゃダメ・・・?」
「ダメ。指輪がいい」
「・・・・・・分かった・・・」
はぁ、と綱吉は溜め息を吐き出すが、凪は無表情な中にも瞳を輝かせた。
「ありがとう、ボス」
「いや、よく考えたら凪にはすごい頑張ってもらってるし。あんまり高いものは買えないけどさ、凪が喜んでくれるならいいよ」
「百円のでいいの。ボスがくれるなら」
「そんな安くなくても、千円くらいなら何とかなるって」
財布を覗きながらの言葉に、凪は嬉しくなって瞳を細めた。わがままを言っている自覚はある。けれど、どうしても欲しがったのだ。自分と綱吉の繋がりを示す、凪だけの持ち物が。
「・・・ボス、ありがとう」
御礼を込めて頬に唇を寄せようとしたら、先程よりも速いスピードで逃げられてしまい、やはり凪はきょとんと首を傾げた。



ただいま、と騒がしい声がして、母親たちが帰ってきたことを知る。入れ替わりに指輪を見に行こうと階段を降りてくると、奈々が笑顔で二人を出迎えた。
「あら凪ちゃん、いらっしゃい」
「お邪魔してます・・・」
「母さん、ちょっと出かけてくるから」
「じゃあスーパーで三つ葉を買ってきてくれる? 忘れちゃったの。凪ちゃんもお夕飯、食べていってね」
「ありがとう、ママン」
お釣りで好きなもの買ってきていいわよ、と綱吉は千円札を受け取り、これで千五百円になった、と凪を振り向いて笑った。靴を履いているその腰に、ランボが勢いよく突撃する。
「ツナ、買い物に行くのか!? ランボさんも行くもんねっ!」
「ダメ」
凪はぺいっとランボを綱吉から引き剥がした。

「ボスは私に指輪を買ってくれるの。邪魔しないで」

ランボとイーピンは首を傾げたが、奈々はあらまぁと少女のような歓声を上げる。フゥ太は目を輝かせてランキングブックを取り出し、ビアンキは誉めるようにツナを見やった。リボーンがにやりと唇を吊り上げる。
「やるじゃねーか、ツナ。愛人をゲットだな」
違うという綱吉の叫びは、夕食の席で凪の指に光る華奢なリングを前に説得力を失った。小さな青いガラスのついた指輪を、凪は何度も大切そうになぞるのだった。





守護者の指輪なので、右手の薬指くらいでいいんじゃないかと。
2007年5月6日(2007年6月16日再録)