つーくんとランラン
この話はREBORN標的136以降の内容を含みます。
綱吉と白蘭は十数年前に時を超えて出会った、遙かなる時空の中でです。
その後戻って、成長して出会い、今度は良いお友達になれました。綱吉率いるボンゴレと白蘭率いるミルフィオーレは、仲良しで同盟を組んでいます。
綱吉と白蘭は「つーくん」「ランラン」と呼び合う仲です。入江君は本当はボンゴレに入りたいらしいです。
今後の本誌の展開によってどうなるか分かりませんが、どうか笑ってスルーしてやって下さいませ。
01.ボンゴレのつーくん
02.ミルフィオーレのランラン
03.アサリとパンダ
04.反ミルフィオーレ軍団
01.ボンゴレのつーくん
ドン・ボンゴレの執務室はいつだって書類に満ちている。机の上のみで済んでいるところがまだましだろうが、酷いときは床に紙の海さえ作成する。これは断じて、綱吉の決済が遅いという理由ではない。単純に、下から上げられてくる報告書が多いのだ。守護者の始末書とか、ヴァリアーの始末書とか、家庭教師など保護下のちびっ子の始末書とか、とかとかとか。
頭の痛くなるような内容に目を走らせながら、綱吉は一時間に一度は溜息を吐き出す。そして今日も思うのだ。
「・・・・・・俺、ミルフィオーレに移ろうかなぁ」
ボスのあるまじき一言に、執務室に沈黙が広がる。たまたま居合わせた幹部たちが口を開くよりも先に、綱吉はまた溜息を吐き出した。
「ミルフィオーレってさぁ、『やることさえやれば幸せになれる』んだって。だったらさぁ、俺って十分幸せになれると思わない? マフィアのボスになんてなる気もなかったのにさぁ。無理やりならされたと思ったら、書類書類書類三昧。しかも全部部下の破壊行為の始末書。何かさぁ、もう、何で俺、こんなことやってるんだろうって思わずにいられないっていうか? 俺、十分やることやってるよな。なのに何で幸せになれないんだろう。あれかな、ボンゴレはミルフィオーレじゃないからかな」
「じゅ、十代目・・・・・・」
「それとも、あぁそっか、俺はまだ『やることやってないから幸せじゃない』のかな。そうだよな、部下の躾ってボスの役目だもんな。やらなきゃいけないことの一つだよな。部下がこれ以上好き勝手に周囲を破壊しないように、報告書を三分の一に減らすように、教育するのはボスの役目だよな」
かたりと音を立てて、書類に走っていた万年筆が置かれる。それはとても小さなものだったというのに、執務室にいた幹部たちは一人残らずびくっと肩を震わせた。綱吉の手が、自身のスーツの腰につけられている毛糸の手袋を外し、ゆっくりと両手にはめる。もこもこのミトンで立ち上がり、綱吉は幹部たちに向けて爽やかに笑いかけた。
「守護者とヴァリアーとアルコバレーノ、それと今月に入って十回以上始末書を出した人、今から庭に集まってくれる? この俺がじきじきに、ボンゴレに相応しくなるべく教育してあげるから」
どっか行ってる人は引きずり戻してきて。もちろん逃げたら分かってるよね? 幼さの残る顔で微笑むドン・ボンゴレに逆らえる者などいやしない。幹部たちは顔を蒼白にさせながら、一人でも多く道連れにすべく四方八方に散っていった。
愛しきボスをミルフィオーレなんかにやってたまるかと思った彼らの始末書が減ったかどうかは、また別の話である。
ミルフィオーレは一歩間違えれば宗教集団。
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02.ミルフィオーレのランラン
今でこそミルフィオーレファミリーのホワイトスペル第2ローザ隊隊長なんてものに納まってしまっているが、入江正一が本当に入りたかったのはミルフィオーレではなく、ボンゴレファミリーだった。小学生のとき、近所に住んでいた沢田一家。子供が一人しかいないはずなのに、ある日を境に爆発音やら幼児の喚き声やらで瞬く間にうるさくなった家。一度見に行ったところ、とても恐ろしい目にあったのは忘れられない。あの日から正一は、沢田家にだけは近づくまいとしていた。
しかし避けようと思えば思うほど、人はその存在を注視してしまうもので。
気がついたとき、正一は沢田家の喧騒に加わりたいなぁ、と思ってしまっていたのだ。あの賑やかな中に入りたい、と。危険なことも多いみたいだけど、笑いあう彼らがあまりに楽しそうだったものだから。自分もその中に入りたい。そう思っていることに気がついたとき、正一はそれはそれは葛藤したものだ。しかし覚悟を決めて、家にたくさんあった貰い物の林檎と回覧板を片手に、とりあえず沢田家に向かってみたところ。
出迎えてくれた若々しい沢田家夫人に、息子とその友人たちはつい昨日、イタリアに旅立ってしまったのだと聞かされた。正一はタイミングを逃した。つまりはそういうことである。
しかし一度固めた覚悟を捨てることが出来ず、大学二年生のときにイタリアに旅行をしてみて、その際に地元の人に沢田綱吉の写真を見せて尋ねたところ、拉致された。そして気がつけばミルフィオーレファミリーに入っており、いつしかボス・白蘭の第一の側近とまで言われる身分になってしまっているのである。
しかし入江正一はまだ、夢を諦めたわけではなかった。
「白蘭、いい加減に受け取って下さい」
「駄目だよ、正ちゃん。うちを抜けてボンゴレに入るなんて許さない」
「僕はもともとボンゴレに入りたかったんです。それをあなたが拉致して勝手にミルフィオーレに入れたんでしょう」
「だって日本人がいることを理由にすれば、つーくんに近づけるかなぁと思って」
「馴れ馴れしく沢田さんを『つーくん』なんて呼ばないで下さい! とにかく僕はミルフィオーレを抜けてボンゴレに行きますから!」
「駄目、許さないよ、正ちゃん。自分だけ抜け駆けしてつーくんのところに行くなんてずる過ぎるよ」
こうしてミルフィオーレファミリーの執務室では、日夜ボスと側近の辞表を挟んだやり取りが行われているのだった。
入江君は厄介者を掌で転がせる綱吉に憧れてます。
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03.アサリとパンダ
ボンゴレと聞いて綱吉が想像するのは、いつだってアサリを使ったスパゲッティだ。故に彼はイタリアに渡り、自身がボンゴレファミリーを率いるようになるまで、ボンゴレの紋章はきっとアサリの形をしているのだろうと思っていた。イタリアならガリアハマグリ、もしくはヨーロッパアサリ。実際はボンゴレリングの紋様だったのだが、それでも綱吉は今でも、ボンゴレのイメージはアサリだと思っている。故に、彼はボンゴレの屋敷の玄関ホールにアサリのぬいぐるみを置いていた。最初は精巧に作られた模型を置いていたのだが、中身のあまりのリアルさに貝全般が嫌いになりそうだったので、そんな夫を想った妻たちがぬいぐるみを作ってくれたのだ。貝殻は横縞の二枚貝。実物の10倍のサイズで作られたその中には、貝本体ではなく、綱吉をデフォルメした人形が入っており、その気使いに綱吉は「ありがとう」と妻たちに何度も感謝を述べた。嬉しそうに笑った彼女たちは、同じものをそれぞれ自室に飾っているという。綱吉人形の隣に、自分たちの人形を置いて。しかし玄関ホールにそれを置くわけにはいかないので、とりあえず綱吉は馬のぬいぐるみを作ってもらうことにした。言わずもがな、同盟ファミリーのキャバッローネのドンをイメージしたものである。開いたアサリの上に綱吉人形と馬ぬいぐるみを並べていると、会談に来たディーノがそれに気づいて楽しそうに笑った。手土産に綱吉人形を持って帰ってしまったので、綱吉は妻たちにもう一体作ってもらうことにした。それと、もう一つ。
「つーくん、これ何?」
近くまで来たという電話をもらったので、一緒に食事でもどうかと誘ったところ、いそいそとやってきたミルフィオーレファミリーのドンは、アサリを指差して首を傾げている。白蘭の隣の正一もそれは同じらしく、眼鏡を指で押し上げて不思議そうだ。彼らを出迎えた綱吉は、あぁそれ、と笑ってアサリに近づく。
「ボンゴレのマスコットだよ。アサリがファミリーで、その上の人形が俺」
「ええと・・・・・・沢田さん、こちらのはパンダですか?」
「うん、そう。ミルフィオーレは何となくパンダのイメージ。ホワイトスペルとブラックスペルは白と黒だし、それにランランはパンダの名前だろ?」
「あぁ、上野動物園の」
「そうそう。だからパンダ」
日本人二人が地元ネタ、むしろ国ネタを話している間に、白蘭は白と黒のパンダを指先で突いている。ご丁寧にも目の縁取りが自分と同じ模様であることに気がついたらしい。着ている服もホワイトスペルの衣装と同じだ。
「つーくん、これ欲しい。くれない?」
「白蘭、沢田さんを困らせないで下さい」
「あはは、いいよ入江君。ランラン、それは俺の妻たちが作ってくれたやつなんだ。またお願いするから持ってっていいよ」
「へぇ、さすがつーくんの妻だね。ありがとう、じゃあ喜んで」
きっと自分と同じパンダが気に入ったのだろう。白黒ぬいぐるみを手にすると考えていたのだが、白蘭は綱吉の予想外にアサリ丸ごと持ち上げた。貝殻も綱吉人形もミルフィオーレパンダもお持ち帰りである。やっぱりやることが違うなぁと綱吉が考えていると、おずおずと正一が歩み寄ってくる。
「あの・・・・・・沢田さん」
「ん?」
アサリを手に、白蘭は嬉しそうにくるりと踊っている。正一といい、少しばかり年下の彼らがまるで弟のようで、綱吉は笑顔で振り向いた。
「あの人形なんですけど・・・・・・ええと」
「あ、入江君も欲しい? 俺の人形と同じようなデフォルメでよければ作ってもらえると思うけど」
「お、お願いします! 是非! 出来れば、沢田さんの人形も一緒に・・・・・・」
「分かった。お願いしてみるよ」
「電話を頂ければ、すぐに受け取りに参りますので」
「あー正ちゃん、抜け駆け」
「白蘭に言われたくありません」
言い合いを始める二人を、綱吉はほのぼのとした気持ちで眺める。怒鳴って止める必要がないのは、彼らが他ファミリーの人間だからに他ならない。可愛いなぁ、と綱吉は彼らの言い合いを眺めていた。これがボンゴレの人間だったら、今以上に胃が痛くなりそうだけどなぁ、なんて考えながら。けれどとりあえず他ファミリーな彼らは、綱吉の胃炎とは無関係なのである。
白蘭は入江君と同じ年くらいをイメージです。
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04.反ミルフィオーレ軍団
ボンゴレとミルフィオーレが良好な関係にあることは、イタリアマフィア界では有名だった。さすがにドン同士が「つーくん」「ランラン」と呼び合う仲だとは知られていないが、巨大といってもいいファミリー同士が敵対していないのは、中小マフィアたちにとっては火の粉を被ることがないのでほっと一安心というところ。
しかし、それを良く思っていない者たちも確かにいるのだ。
「どうして君たちは、十数年前の約十年後であのパンダを殺さなかったの」
冷ややかな声音で雲雀が言う。学ランはとうに脱いだけれども、代わりに纏っている漆黒のスーツが鋭い目付きと相俟って彼を凶悪に見せている。
「俺も心底そう思うけどさ。でも十数年前に約十年後で殺しても、結局十数年前にはもう白蘭は生まれてたんだから意味ねーんじゃねーの?」
ははっと軽快に笑ってこそいるが、山本の目は微妙に笑っていない。ランボがびくりと肩を揺らして、隣の彼から少し離れた。
「大体『つーくん』だなんて馴れ馴れしいにも程がありますよ。綱吉君をそうやって呼んでいいのは彼の母親と第三夫人だけでしょう」
「む。京子は大して気にしていないようだったが・・・・・・」
「甘いですね。甘すぎます。他ファミリーのドンと愛称で呼び合うなんて、綱吉君は甘すぎですよ」
まったく、と骸は白々しく両手を振ってみせる。了平は妹の様子を思い返していたが、それ以上取り成すこともしなかった。獄寺は堪え切れないように、震える拳でテーブルを叩く。
「とにかく白蘭と入江何たらを十代目に近づけるな! 特に白蘭! 十代目に愛称で呼ばれるなんざ百年早いっ!」
羨ましい、とは流石に声に出されなかったが、考えていることはその場にいた誰もが同じだ。付き合いは結構なものになってきているというのに、彼らのボスは未だ、中学生のときと変わらない呼び方で獄寺たちを呼ぶのだから。ぽっと出のひよっこが愛称呼びなんて、何てずるい。美味しすぎる。ずる過ぎる。守護者たちは固く拳を握り合った。
「打倒ミルフィオーレ!」
こうしてドン・ボンゴレの知っているのか知らないのか微妙なところで、反ミルフィオーレ勢力は育まれているのだった。
十数年後は、第一夫人が凪ちゃん、第二夫人がハル、第三夫人が京子ちゃんです。
2007年6月10日 ▲TOP