この話は2007年あけおめ限定企画『待ち人来たる。』の続編にあたりますが、未読の方でも大丈夫な作りになっているかと。
XANXUSの武器や炎に関する話題が出てきますので、ネタバレが嫌な方はご遠慮下さい。
限定企画を再公開する予定はございませんので、どうかご了承下さい。






待ち人いらない。





今年、綱吉は今まで生きてきた中で最もたくさんのお年玉をもらった。現金でくれたのは両親とディーノだけで、他の面々は一体どう使えというのか不思議なものばかりをよこしてきたけれども、数だけは多かったのは事実だ。マーモンのくれたフードを被り、ルッスーリアのくれたミンクのファーを巻き、腰にスクアーロのくれた剣を差し、背中にレヴィのくれたパラボラ傘を背負い、極めつけは頭上にベルのくれた王冠を載せてみたけれど、どう考えてもその格好で外を歩けば不審者のレッテルを貼られること間違いない。故に綱吉はミンクのファーを母親にプレゼントし、後は段ボールに詰めてクローゼットへとしまった。問題はXANXUSからのX文字入り拳銃だったが、綱吉はそれを無視した。封を開けて見た瞬間に放り投げて壁にぶつかり跳ね返ったまま、それは部屋の隅に転がっている。できる限り視界に入れないよう綱吉は努力した。あの黒くて艶光りしているのはゴから始まる家庭内害虫だ。違う違う銃なんかじゃない。俺知らない。知ーらない。
綱吉がそうやって現実から目を離している間に正月は終わり、三学期がやってきた。コートの上からマフラーをぐるぐる巻きにして、綱吉は家を駆け出ていく。ミンクのファーをくるくると巻いた奈々が手を振ってそれを見送った。その朝、部屋の隅にあるはずのブツが消えていたことに気づけなかったのは、もしかしたら己のミスかもしれないと綱吉は後に思うことになる。



新学期早々の並中校庭で、何故か綱吉は雲雀の強襲を受けていた。銀色にきらめくトンファーは寒さのせいか凍っているようにも見える。実際にそんなことはないのだけれど、むしろ俺が凍りたいと綱吉は思った。十代目、と叫ぶ獄寺の声が聞こえる。
「早くアレ出しなよ」
「あ、あれ・・・?」
「銃だよ。あのヴァリアーってのから貰ったんでしょ?」
この人、公衆の面前で俺の銃刀法違反を暴露しやがった。警察を呼ばれてがさ入れされたら一貫の終わりだと綱吉は思う。あの銃以外にもリボーンの武器だとかランボのバズーカだとか、どう考えてもばっちり法を犯している品物が沢田家には転がりまくっているのだ。綱吉は必死に言い返した。
「そ、そんなの学校に持ってきてるわけないじゃないですか!」
その一言が己の罪を認めたことに、綱吉が気づいているのかいないのか。雲雀は眉を顰めることなく指摘する。
「鞄に入れたって赤ん坊が言ってたよ」
「マジで!?」
「早く出しなよ。でないと咬み殺すよ」
「はははははははいっ!」
校庭の真ん中で、綱吉は慌てて鞄を漁る。今日は始業式ということもあり荷物はほとんどないのだが、なかなか家庭内害虫もどきは見つからない。しかし何故か学生鞄なのに底板があり、二重構造になっていることに気がついた。俺の鞄が、と少し泣きそうになってると、案の定そこにはX文字がスタンバイしている。
「ど、どうぞ・・・・・・」
「は? さっさと構えなよ」
綱吉はブツをそっと雲雀へと差し出したが、返ってきたのはやはり彼の理解を超えた言葉だった。正月ボケかなぁと綱吉は曖昧に空を見上げる。鉛色の雲からは今にも雪が降ってきそうで、今年最初の初雪かなぁと現実逃避をしてみるが、雲雀がそれを許すはずもない。びゅんっと鋭い音を立てて、綱吉の鞄がふっ飛んだ。トンファーも鉛色だなぁと考える彼の手には、もはやX文字入りの銃しか残されていない。せめてこれからはXグローブをズボンのポケットに入れておこう。そう思った綱吉の行動はリボーンの予定通りなのかもしれない。再度光ったトンファーを綱吉は反射神経で避けた。どう考えても戦闘スキルが上がっていることもリボーンの計画通りだろう。
「すすすすみません雲雀さんっ! 俺、この銃の使い方なんて知りませんし!」
だから無理、と叫んだのだが雲雀は冷静に指摘する。針金で銃に結ばれている、びらびらとした紙を。
「説明書、ついてるみたいだけど?」
「いらないところで親切だよ、XANXUS! こんな親切ならクーデターなんか起こすなよっ!」
つっこみをしつつ、追いかけてくる雲雀から逃亡して説明書を広げてみる。獄寺はどうやら登校してきた山本に様子を見ていようと言われているらしく手を出してこないし、他の生徒たちはさらに遠巻きだ。教室の窓から見てるらしい了平からは何故かエールが聞こえてくる。びらびらと風の抵抗を受けている紙は読み辛い。小学校一年生並みの筆跡で書かれている日本語はすべてひらがなで、XANXUSの日本語習得努力を思うよりも先に下手だな、と綱吉は率直に思った。
「えっと・・・・・・『いくすがんのつかいかた』?」
何その変な名前と思った綱吉は、自身のグローブもそのままの名前であることを忘れている。
「『おまえはこがらだからりょうてでにぎれ』?」
余計なお世話だよ、と綱吉は叫んだ。
「『にぎったらむかつくことをかんがえろ』?」
それ、おまえが憤怒の炎だからだろ、と綱吉は叫んだ。
「『あとはむかつくやつにむかってひきがねをひけ』?」
おまえ、そんなんだから喧嘩っ早いんだよ、と綱吉は叫んだ。
「『いたりあはさむい。じじいはむかつく。う゛ぁりあーはいうこときかねぇ。にほんしょくがこいしい』? 日記かよ!」
でろでろと続いていく帯のような紙は、どうやらその九割がXANXUS日記らしい。あいつ使えねー! と叫び、綱吉はその紙を破り捨てた。残ったのは銃のみ。そしていつの間にか目の前は校舎で行き止まり。背後は雲雀。今年は俺、違う、今年も俺、間違いなく大凶だと綱吉は思った。びくびくと振り返ればこれ以上ないほどに喜色を浮かべている雲雀がいる。それでも笑みがニヤリなのはどうしてだろうと綱吉は不思議で仕方なかった。
「ほら、もう後がないよ」
「ひ、雲雀さん・・・・・・!」
「とりあえず撃ってみなよ。その後のことはこっちで始末してあげるから」
つまりそれは何かを破壊したりしたら弁償してくれるということなのだろうか。脅されるままに綱吉は銃を握る。XANXUSの手にあったときはずいぶん大きなものに見えていたのだけれど、意外にもそれは綱吉の手にすっぽりと収まった。そのように改造してくれたXANXUSの手間を綱吉が知れば、やはり余計なお世話だと叫んだろう。つーかこんなものよこすな、と。
「・・・・・・じゃあ、う、撃ちますよ・・・?」
「うん、早く」
「ど、どうなっても俺は知りませんからねっ!?」
「いいからさっさと撃ちなよ。咬み殺すよ?」
いらっと雲雀の気配が揺れたのを感じ、綱吉は「ひぃっ」と小さく叫んで銃をきつく握りしめた。何で俺ばっかりこんな目に遭うんだよ、これも全部XANXUSのせいだ、あいつがこんなものをお年玉によこすから、なんて思いながら、左右の人差し指を引き金に添えて引く。雲雀や他の生徒に当たらないよう、方向をぐるっと変えて。マフィアなんか大嫌いだと心中で叫びながら、綱吉はトリガーを思い切り引いた。



その日、並盛中にあった桜の大木と体育倉庫が塵となって消えた。まるで何かのエネルギー波を受けて消失したかのような跡に消防隊員たちは首を傾げたが、某風紀委員長の一睨みでそれ以上の詮索は不可能となった。
綱吉の鞄はいまだ二重底だけれども、こんな核兵器みたいな武器は二度と使うまいと彼はきつく誓ったという。





XANXUSは多分、お揃いの銃を持ちたかったんですよ。
2007年1月3日(2007年4月14日再録)