沢田綱吉は、非常に機嫌が悪かった。何が原因かと言えば、道でぶつかってきたチンピラもどきかもしれないし、交渉相手の額で光っていた脂汗かもしれない。もしかしたらその後ろで視姦するかのように嘗め回してくれやがった脂ジジイの部下かもしれないし、縄張りに入り込んで麻薬をさばきやがったネズミかもしれない。途中で降ってきた雨にもむかつき、ここまで来れば理由などない。些細なものも積み重なれば爆発的な威力を有する。
つまり様々な事象が重なり、綱吉は機嫌を最悪なものへと変えたのだ。そしてそれは屋敷に戻るなり告げられた、ヴァリアーの一般市民住宅への損害総額によって臨界点を突破した。死人が出ていなかったのがせめてもの救いだったのかもしれない。もちろんそれは、ヴァリアーにとって。
「今すぐ、ここに、ヴァリアーを呼び出せ」
玄関ホールでそう述べた綱吉の身体からは、彼の有する炎とは真逆の冷気がほとばしっていたという。ボンゴレは今日終わるかもしれないと、綱吉の斜め後ろに立つリボーンはほんの少しだけ思った。





麗しき日常そして非日常





ヴァリアーが集まったは、綱吉の命令から五分後だった。仕事以外では個人行動ばかりしている彼らにしては素早い登場だったと言える。けれどもそれらも、ホールで仁王立ちしている綱吉の姿を捉えると話は別だった。いち早く逃亡しようとしたベルフェゴールは、骸によって捕縛された。腰が引けて後ずさったスクアーロの背を獄寺が蹴り飛ばす。山本がマーモンの首根っこを掴んで放り投げ、雲雀が震えるルッスーリアを睨みつける。了平は拳でレヴィを押しやった。綱吉は並ぶ彼らに床を指差す。
「正座」
もはや命令形ですらない。正座しやがれゴルァと言われた方がまだマシだ。ルッスーリアがびしっと背を伸ばして正座した。ベルフェゴールが胡坐をかこうとしたが、それも綱吉の一睨みですぐさま正しく正座する。マーモンのフードはぷるぷると震えていたし、スクアーロの足もすぐにぷるぷると震えだした。レヴィの顔色はすでに土気色に変化している。
そこにやっとやってきたヴァリアーのボス、XANXUSは、玄関ホールで繰り広げられている光景を見て眉を顰めた。正座しているヴァリアーに、それを少し離れて囲っている守護者たち。一般の構成員たちは怯えて柱の影やら廊下の角やらから顔を覗かせている。その中央に立つのは言わずもがなボンゴレファミリーのドン、綱吉で、彼が寄越した視線は絶対零度のものだった。むしろマイナス。
「今日の俺は機嫌が悪い」
宣言してくれるだけ、まだ優しさがあるのだろう。これ以上本気で怒ったらどうなるのかはリボーンでさえ検討がつかない。憤怒の炎どころか地獄の業火、果ては垂らした蜘蛛の糸の先を再び地獄に繋げるくらいの行為は平然とやるかもしれない。だからファミリーの者たちは出来るだけ綱吉を本気で怒らせないようにしているというのに、今日はタイミングが悪かった。ついでにXANXUSは間も悪かった。
「はっきり言って、何度交渉相手を血祭りにしてやろうと思ったか知れない。後一度でも俺の手を握りやがったらその眉間に風穴を開けてやるところだった」
全員が思わず気色ばむが、綱吉自身の怒りに触れるのを恐れて表には出さない。もちろん部下たちの思いなど綱吉は知っているに違いないのだが、今はただ冷ややかな彼らを見回している。殴るのではなく銃を用いるところに、残虐性も現れていた。マジで機嫌わりーな、とリボーンは帽子のつばを押し上げる。
「XANXUS」
「・・・・・・あ?」
「俺は前回言ったな? ヴァリアーは物を壊しすぎる。人命が失われてからじゃ遅いんだ。自重しろと、言ったな?」
「・・・・・・」
「おまえの命から先に失わせてやろうか」
常や超死ぬ気モードでも言わない台詞も、怒りのツナはたやすく口にする。けれど実際に誰かを殺したことはない。八割方殺しかけたことはあるけれども、大変優秀なボンゴレ医療班によって一命は取り留められた。その後爽やかな笑顔で「ごめんね?」と綱吉が謝ったところに、彼の怒りの凄さも伺えるというものだ。
しかり怒りの綱吉は一切の表情が形を潜めているため、美しいことこの上ない。超死ぬ気モードよりも冷酷な印象は氷のようで、彼の怒りの対象でない者たちにとっては眼福以外の何者でもなかった。まさにサプライズ・ギフト。神様からの贈り物。しかし怒りの対象からすれば閻魔大王よりも恐ろしい。
正座しているヴァリアーたちはすでに皆がたがたと震えている。XANXUSと綱吉の距離は五メートル。すでに綱吉の戦闘領域だ。足を後ろに下げたいが、下げれば瞬時に死ぬだろう。動くことの出来ないXANXUSに、綱吉は冷酷に命令を下す。

「死にたくなければXANXUS、今ここで孫悟空と同じテンションで『かめはめ波』を放ってみせろ。他の五人はギニュー特戦隊の『スペシャルファイティングポーズ』を完璧に取ってみせれば、命だけは助けてやる」

獄寺君、ビデオ用意して。はい、十代目。録画ハンディカムを取りに走っていく部下を見送ることもなく、綱吉はただただヴァリアーを見下ろしている。その手にはすでにグローブがはめられており、逃げ出すことは敵わない。
ボンゴレのドン、沢田綱吉のストレス発散法は、部下を羞恥プレイに貶めることなのかもしれなかった。





ドラゴンボールネタ。分かりますかね・・・? 真正Sなツナ様も好きです。
2006年12月18日(2007年2月17日再録)