六道骸が死んだのは、綱吉の子供が生まれる十月十日ほど前だった。死因は服毒による自殺。そして彼の一周忌を終えるよりも早く生まれてきた綱吉の子供は、左目が茶色なのに対し、深紅の右目を持っていた。刻まれている数字は六。つまりは、そういうことである。奴だと認識した次の瞬間、綱吉が我が子の髪の分け目を確認したのは笑えない笑い話だ。





第696次ボンゴレ大戦





今、向かいのソファーに転がっている赤ん坊は、綱吉の遺伝子を受け継ぎ、茶色の髪、同じ色の瞳、そして黄色人種の肌をしている。顔立ちは綱吉と彼の母親である奈々に似ており、赤ん坊だということを差し引いても十分な愛らしさだ。髪はまだパイナップルになっていない。それだけが救いに思えて、綱吉は何度目かも分からない深い溜息を吐き出した。初めて得た実子に本当なら幸せいっぱいの筈なのに何故。その理由は数字を浮かべている赤い目が雄弁に物語っている。
「ぼんごれ、みるくをください」
「あーはいはい、ほれ」
「のませてください。それでもきみ、ぼくのちちおやですか」
「死ぬ気通り越して小言弾モードで否定したいけど、何でか父親らしいんだよ。シャマルにもう一回DNA鑑定してもらおうかなぁ」
「むりですよ、ぼくはたしかにきみのこどもですから」
「全力で否定していい?」
「くふふ」
「俺とそっくりな顔でその笑い方すんなっ!」
「くふふ、くははははは」
「うわ・・・・・・マジで育児ノイローゼになりそう・・・」
綱吉は意識を失いたかった。けれど目の前の赤ん坊は小さな手を一生懸命に伸ばして、哺乳瓶を掴もうとしている。なみなみと人肌のミルクが注がれている瓶は、到底赤ん坊が持てる重さではない。
「危ないって。ほら、こっち」
腕を伸ばして小さな体を抱き上げ、綱吉は骸を膝の上に載せてやる。ちなみに彼は子供のために、いろいろと名前の候補を考えていた。それこそファミリー総出で考えていた。けれど生まれてきた赤ん坊の正体を知ってしまった綱吉は、その名前以外考えられなくなってしまったのである。故に名前は「沢田骸」に決定。ゼロ歳にして喋れる歩けるくふふと笑える、前世の記憶も持っている、アルコバレーノに等しいスーパーベイビーが誕生した。正確には、誕生してしまった。
「ぼんごれ、おむつをかえてください」
「はいはい。っていうかその呼び方、止めない? 一応おまえ、俺の子供になったわけだし」
「しかたありませんね。ぱぱ、ぱぴー、だっど、だでぃ、ちちうえ、とーさま、しょーぐん、かっか、れでぃ、まだむ、じょおうさま、みじんこ。どれがいいですか?」
「とりあえずおまえには常識をびしばし教育することに決めたよ。その中なら・・・・・・パパ、かなぁ」
「ぱーぱ!」
「あ、ごめん、止めて下さい、すいませんでした。まさか骸にパパ呼びされるのがこんなに気持ち悪いとは思わなかった」
「ぱーぱぱーぱぱーぱぱーぱ!」
「うっわー! 言うこときかない子供はこうしてやるー!」
綱吉は腕を伸ばし、小さな体を高く掲げる。50センチくらいの上下運動に、骸がきゃっきゃっと喜びの声を上げた。身体が赤ん坊になっている今は、それ相応の遊びが楽しいらしい。何だかんだ言って綱吉の横顔も、慈愛に溢れた温かいものになっている。
第三者からは十分、彼らは親子関係に見えた。そっくりの顔で幸せそうに笑う、父親と赤子に見えたのだった。



「今のうちに果たした方が十代目のためだっ!」
「俺も獄寺に賛成。ぜってーやばいって、アレ」
「俺も極限に賛成するぞ!」
「ハルもそう思います! ツナさんには悪いですけど、でもこれもツナさんのためですっ!」
「・・・・・・あれがボンゴレ11代目になるかと思うと吐き気がするね」
「そんなこと、この俺が許さねー」
ジャキッと愛銃の撃鉄を起こし、リボーンは今にも引きつりそうな口角で笑みを作る。

「骸には死んでもらう。奴が11代目を継ぐどころか―――娘ってことを利用して、ツナを篭落する前にな!」

剣呑なボンゴレ幹部の視線の先では、綱吉が初の我が子、娘と戯れている。赤い目が幹部らをちらりと眺め、にやりと笑った。犯る気だと思った者数名、殺ってやると思った者数名。
ボンゴレファミリーの跡目争いは、今回も派手になりそうだった。





誰との子供かは特に考えてません。骸さん、更なるタブーを冒すつもりのようですよ・・・。
2006年11月26日(2007年1月20日再録)