肉球キックは罪の味
最近、XANXUSは部下の姿を見ることが減っていた。正確に言えば、全員揃うという場面が少なくなっている。昨日の召集ではスクアーロがいなかった。むかついたのでフカヒレにしてやろうと思った。一昨日の召集ではベルフェゴールがいなかった。むかついたので王冠をぶっ壊してやろうと思った。その前はレヴィがいなかった。うざくなくていいと思った。その前はゴーラ・モスカがいなかった。不便だと思った。その前はルッスーリアがいなかった。むかついたのでモヒカンを刈ってやろうと思った。そしてその前にいなかったのはマーモンなのだが、そこまで来てXANXUSはふと気がついた。
マーモンがいなくなった日、XANXUSはボンゴレのドン、上司であり尚且つ遠縁の親戚にあたり、でもって昔の敗北故か強く出られない沢田綱吉の執務室を訪れた。それはマーモンがその日の朝、綱吉に呼ばれていると言っていたからだ。仕事の時間になっても現れないので、何か知らないかと尋ねに行った部屋は猫屋敷になっていた。そこで渡された、白く毛の長い、藍色の目をした猫。ニャア、という自分の鳴き声を思い出しXANXUSは思わず壁を殴る。あれは失態だった。人生ベスト3に入るほどの失態だ。けれど言わなければぶち殺すと雄弁に語る威圧を感じたのだ。内戦なんか起こさなければよかったと今更思うが、後から悔やむからこその後悔である。
とにかくXANXUSは思った。もしかしてヴァリアーのメンバーが日々誰かしら欠けているのは、綱吉が原因なのではないかと。一度思ってしまえば推測は確信を強めていく。そして今日も打ち合わせのためミーティングルームを訪れて、XANXUSは己の予感が間違っていなかったことを知った。その日、彼は一時間ほど誰も来ないミーティングルームで一人待ちぼうけにあった。ちょっと寂しかったなんて誰にも言えない。
ぽつんと待つことが辛くなったのか、それとも誰も来ないことに対するメイドの「おかわいそうに・・・」という視線に耐え切れなくなったのか、XANXUSが向かった先はやはり綱吉の執務室だった。ノックをしようと片腕を上げたが、それは自分のキャラクターではないんじゃないかと少しだけ思う。どうもリング戦に敗れてからこっち、XANXUSは自分の個性を見失いがちだった。再構成しようにも綱吉による影響か、どうも前の自分が思い出せない。結局舌打ちひとつをノックの代わりとし、扉を開けた。
「あーXANXUS、いらっしゃーい」
マーモンの所在を尋ねに来たときとまったく同じ文句で綱吉が出迎える。その膝の上に見たことのある白い猫を見つけ、XANXUSは本気で両手を地に着きそうになった。猫の目が藍色であることは確認しなくとも分かる。これが超直感か、そうかそうか、こんなもんいらねぇよ、と逆ギレまでしたくなる始末だ。視界の隅に水槽が映る。壁一面を埋め尽くしている巨大なそれの中で、鮫と電気ナマズが泳いでいる。ナマズがこちらを向いた。何だか嬉しそうだ。それがかつての雷の守護者候補と重なって見えたことをXANXUSは認めたくなかった。
「あはは、こーら、くすぐったいって」
褐色の毛並みを持つ動物に頬をぺろりと舐められ、綱吉が笑い声を上げる。体長二メートル弱のそれをXANXUSは知っていた。クーガーだ。別名ピューマ。ネコ亜科最大級の肉食獣。何だここは、南米か、とXANXUSは心底思ったが、そのピューマの頭上にちまっとした光物が載っているのに気づき、項垂れた。あの王冠がわざわざ動物サイズのためにあつらえたものなのだとしたら、さぞかし王族の末裔も本望だろう。
ピンク色のエリマキトカゲは鏡の前で一人ファッションショーを繰り広げているし、ずいぶんミニサイズになったからくり人形は、ギコギコ音を立てながら亀の歩みで茶を運んでくる。まるでリモコンで操作されているかのごとく、それはXANXUSの前でたたらを踏み、緑茶を彼の靴へとぶちまけた。泣きたい。
「・・・・・・おまえは、そんなに俺が嫌いか・・・・・・?」
「実はそうでもないかもしれないけれど、昔の行いは根に持ってるよ」
当然だよねー、と綱吉が小首を傾げれば、室内にいる動物+からくり人形がこくこくと頷くようなアクションをする。XANXUSは本気で泣きたかった。ボンゴレのボスになりたいなんて思わなければよかったと、心底悔やんだ。
さてXANXUS、おまえはどんな動物になるんだろうなー?
2006年12月1日(2007年1月16日再録)