ボンゴレの彗星





「ヴェルデが欲しいんだ」
「・・・・・・ほぉ、つまり何か。てめーは俺がいらねぇって言うのか、ダメツナ」
「そうは言ってない。リボーンは俺の唯一の家庭教師だよ。もしもおまえがボンゴレ以外のところに行こうものなら、相手ファミリー壊滅させるくらいに愛しているよ」
穏やかな表情を少しも変えることなく言ってのけた綱吉に、リボーンは肩をすくめる。師弟関係になってから早十年、どうやら生徒はそこそこ優秀に育ったらしい。いささか純粋さが消えてしまったような気もするが、それはそれ、新たな魅力で十分カバーできるだろう。そう考えながら、リボーンはエスプレッソで満たされたカップを持ち上げる。
「ヴェルデは機械に精通してるだろ?」
「確かにな。あいつは完璧にマッドサイエンティストだ」
「だから欲しいんだよ。ボンゴレの科学班じゃ手に負えないって言うから」
綱吉は手元の書類にさらさらと万年筆を走らせる。昔は要領が悪くて二つのことを同時にこなせなかったが、今はリボーンとおしゃべりをしながら裁可の案件に目を通し、空いた手で紅茶まで飲むことが出来る。その振るまいに、リボーンは満足そうに口角を上げた。
「ボンゴレ科学班で手に負えない? ツナ、てめぇ何をさせる気だ」
「ゴーラ・モスカをさ、改造してもらいたいんだ」
綱吉の指がチョコレートをつまんで唇へと運ぶ。
「ゴーラ・モスカを? あれは人道に反するってことで廃棄しただろ。今更あれを持ち込む気か?」
「まさか。いくら何でも兵器として使う気はないよ。ただでさえ軍から秘密裏に受け取ったってことで他のファミリーから白い目で見られてるのに」
「じゃあ何だ」
「乗りたいだけ。単に俺が」
あっさりと綱吉は言い切った。そのあまりの平坦さにリボーンは一瞬理解が遅れ、返す言葉を失う。
「炎の生命エネルギーを使うってことだけど、それをカロリーに変えてもらってさ。機体ももっと大きくして、コクピットも広くして、パイロットスーツ作ってさ。あ、もちろん圧縮粒子砲なんか積まないよ? そうだな、二足歩行ができて空が飛べて、指が五本動いたらいいな。蝶々結びとかできると最高なんだけど、そこまでわがままは言えないか」
「・・・・・・おい、ツナ」
「ボンゴレ科学班じゃそんな改造は出来ないって言うし、後残されてるのはヴェルデくらいじゃん? ヴェルデならそれくらい簡単にやってのけるだろうし、ちょうどいいからうちの専属にしちゃおっかなーなんて思ってるんだけど」
「おい」
「デザインはもう決めてるんだ。最新機体も捨てがたいけど、やっぱりベーシックがいいよな。初代だよ、初代。ザクと迷ったけどアムロが主人公だし、あーでもシャアも捨てがたい。どっちにしよう。どっちがいいかな」
「おい、ツナ!」
「どっちがいいと思う? リボーン」
言葉では問いかけているのに、内面はまったく問うていない。それどころかリボーンの静止すら聞いていない。うっとりとイメージを語る綱吉は童顔を差し引いても少年の顔をしており、11歳も年下のリボーンと同年代に見えて仕方なかった。柄にもなくリボーンが焦りを感じていると、執務室のドアが開き、常の黒いコートをまとったXANXUSが現れる。
「綱吉、分かったぞ」
「本当? じゃあ早速行こうか。ねぇ、XANXUS。やっぱりシャア専用ザクにしない?」
「あぁ? それは初代ガンダムで話がついただろ」
「えーでもさぁ」
「うるせぇ。とにかく行くぞ。話はアルコバレーノを捕らえてからだ」
「それもそっか。じゃあリボーン、行ってくるから留守よろしく」
会話の流れと同じ笑顔のまま、綱吉はポケットから毛糸の手袋を取り出して装着する。額に点っているのは激しい死ぬ気の炎ではなく、しょっぱなから超死ぬ気モードの静かなそれだ。
「待て、ツナ。まさかてめー」
「心配しなくてもリボーンもちゃんと乗せてあげるよ。俺とXANXUSがさんざん楽しんでからになるけど」
「おい」
「複座もいいかもな。ストームバルキリーかコスモタイガーUか」
「てめーら」
「マクロス7に戦艦ヤマト? 勉強したなぁ、XANXUS」
「待てって言ってんだろーがっ!」
珍しいリボーンの怒鳴り声に、和気あいあいと楽しげに会話をしていた綱吉とXANXUSが振り返る。首を傾げた両者は血の繋がりなんてほぼゼロに近いほど薄いはずなのに、見事な相似を感じさせるのがいまいましい。わずかに肩を上下させているリボーンに、綱吉はにっこりと微笑んだ。
「リボーン。俺の小さい頃の夢、知ってるよな?」
一瞬眉を寄せ、すぐにはっと息を飲む。そう、と頷いて綱吉は少年の目で語った。

「俺の夢は巨大ロボットになること。マフィアのボスになっちゃったからもう叶わないと思ってたけど、やっぱり人生って何があるか分からないもんだね!」

じゃあちょっくら敵ファミリーぶっつぶしてヴェルデをもらってくるねー。
きらきらとした瞳で手を振る綱吉と、その隣で強面ながら楽しみにしてるらしいXANXUSの二人を、リボーンは止めることができなかった。
その日のうちに、イタリアマフィアから一つのファミリーが影も形もなく消え去った。代わりにその一月後、屋敷を大改造するボンゴレファミリーがあったという。ボタン一つで左右に割れる建物の下から何が出てくるのか、知っているのは極一部の夢見る少年だけだとか。





男はいくつになっても少年だというお話。
2006年11月14日(2006年12月18日再録)